社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



定時決定(算定基礎届)の年間平均額による報酬の算定

定時決定(算定基礎届)の年間平均額による報酬の算定

1.はじめに

定時決定(算定基礎届)は、毎年4月~6月の3か月間の報酬月額の平均を基に当年9月以降の標準報酬月額を決定(必然的に社会保険料が決定)される制度です。 簡単に言うと、毎年4月~6月の給料が高くなると、9月以降の社会保険料が高くなります。社会保険料は、将来の年金の受取額に影響するため、高いことが必ずしも損だとといういうわけではありませんが、例えば、3月決算の会社で4月~5月にかけて繁忙期となる経理部門や、人事異動や新卒社員の入社により4月が繁忙期となる引越会社や不動産会社、あるいは人事部門などに勤務する方は、例月よりも報酬が高くなる傾向にあり、4月~6月の給与を基に標準報酬月額を決定することが公平であるとはいえません。生活残業している方でも、この期間は残業しないようにするということ言っているのを耳にしたことがあります。

そこで、まだまだあまり活用されていないようですが、2011年より社会保険の標準報酬月額の算定の特例「年間平均による算定」が設けられました。

2.「年間平均による算定」を利用できる要件

年間平均による算定を利用するためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

① 「通常の方法で算出した標準報酬月額」(※1)と「年間平均で算出した標準報酬月額」(※2)の間に2等級以上の差が生じた場合であって、

② この2等級以上の差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合

③ さらに、被保険者が同意していること

(※1) 「通常の方法で算出した標準報酬月額」とは、当年4月~6月の3か月間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額(支払基礎日数17日未満の月を除く。)

(※2) 「年間平均で算出した標準報酬月額」とは、前年の7月~当年の6月までの間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額(支払基礎日数17日未満の月を除く。)

この制度は社会保険料の負担を軽くするためではなく、例月の報酬月額と決定される標準報酬月額との乖離を無くすために設けられていますので、「年間平均で算出した標準報酬月額」が高くなる場合でも、要件を満たせば(当然、その要件には被保険者(本人)の同意が含まれます。)、利用することが可能です。

3.例外的に「年間平均による算定」を利用できないケース

3つの要件を満たしていたとしても、次のようなケースでは、例外的に「年間平均よる算定」の対象とはなりません。

 ・前年の7月~当年の6月までの支払基礎日数が17日未満の月のみの場合

  (例 1年間休職しているようなケース)

 ・当年4月~5月に資格取得した場合

  (一年間の報酬月額の平均の計算対象となる月が一月も確保されていないため)

 ・当年7~9月に被保険者報酬月額変更届による随時改定を行った場合

 ・当年7月1日時点で一時帰休*1が解消される見込みがない場合

4.提出書類等

 ① 「健康保険・厚生年金保険被保険者月額算定基礎届」・・・通常の算定基礎届です。     ※ 備考欄に必ず“年間平均”と記入してください。

 ② 「年間報酬の平均で算定することの申立書」

     年間報酬の平均算定申立書

     年間報酬の平均算定申立書(記入例)

 ③ 「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」

     保険者算定申立に係る・・・・の同意等

     保険者算定申立に係る・・・・の同意等(記入例)

※ 例年発生することが見込まれることを確認するためなど、必要に応じて、賃金台帳等の資料の提出を求められることがあります。

詳細につきましては、日本年金機構HPをご確認ください。 なお、随時改定(月額変更届)についても同様の制度がありますが、別の機会にご説明いたします。

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*1:一時帰休:会社が経営難や売り上げ低下に陥ったことで仕事量を減らすことになった際、従業員に一時的に休業させることをいいます。通常、休業手当等が支給されていますが、特例的な取り扱いがされます。日本年金機構HP参照

【同一労働同一賃金】丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁)

丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁)

1.事件の概要

Xらは、自動車用警報器等の製造販売を業とするY社において臨時社員(全員が女性)として雇用されていた。臨時社員の雇用期間は2か月であったが、実際には何度も更新されていた。仕事の内容については、臨時社員と女性の正社員との間では区別がなく、勤務時間も同一であった。正社員の給与は月給制で、基本給は原則として年功序列であるが、臨時社員の給与は日給月給制で、基本給は勤続年数に応じて3段階に分かれていた。最も勤続年数の長い臨時社員の年収は、同じ勤務年数の正社員と比べた場合に約3分の2となっていた。Xらは、正社員との賃金の差額について損害を被っているとして、不法行為を理由とする損害賠償を求めたのが本件である。

2.判決の概要

同一価値労働同一賃金の原則が、労働関係を規律する一般的な法規範として存在していると認めることはできない。・・・(中略)使用者が雇用契約においてどのような賃金を定めるかは、基本的には契約自由の原則が支配する領域である。同原則は、不合理な賃金格差を是正するための一個の指導理念とはなり得ても、これに反する賃金格差が直ちに違法となるという意味で公序とみなすことはできない。 労働基準法3条、4条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。これは、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理であるので、同一価値労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきである。 本件では、Xらの労働内容は、その外形面においても、Y社への帰属意識という内面においても、女性正社員と同一であるにもかかわらず、Xらも臨時社員として採用したままこれを固定化し、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、均等待遇の理念に違反する格差であり、公序良俗違反として違法となる。 均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。・・・(中略)前提要件として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、Y社において同一価値労働同一賃金の原則が公序でないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、Xらの賃金が、同じ勤務年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度においてY社の裁量が公序良俗違反となると判断すべきである。

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1か月単位の変形労働時間制で臨時に延長した時間(昭26.2.2基収337号、平6.3.31基発181号、平9.3.25基発195号)

1か月単位の変形労働時間制で臨時に延長した時間(昭26.2.2基収337号、平6.3.31基発181号、平9.3.25基発195号)

問 別紙就業規則第22条の定めは労働基準法32条の2第1項の定めをしたものであるとの見解もあるが、労働基準法32条の2第1項の定めとは具体的に週の法定労働時間を超えない定めを明記した、例えば隔日に8時間45分の労働日と6時間の労働日を定めているようなものを意味し臨時又は随時に業務の都合により労働時間を延長し、または短縮したときあるいは欠勤早退と相殺し週の法定労働時間以内であることを理由に割増賃金を支給しないことは法に抵触すると考えるがどうか。

(別紙) 鉱員就業規則(抜粋) 第4章 始業終業並びに交替時刻及び休憩時間 第19条 鉱員の就業時間は原則として1日7時間40分とし就業時間中に坑内夫は1時間、坑外夫は45分の休憩時間を与える。

第22条 就業時間は4週を平均して1週間につき40時間を超えない範囲において第19条の就業時間を変更することができる。

答 設問のように、労働基準法32条の2第1項により隔日に8時間45分と6時間の労働時間を定めている場合、臨時又は随時に労働時間を延長する場合は割増賃金を支払わねばならない。

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1か月単位の変形労働時間制で時間外労働となる時間(昭和63.1.1基発1号、平6.3.31基発181号)

1か月単位の変形労働時間制で時間外労働となる時間(昭和63.1.1基発1号、平6.3.31基発181号)

1か月単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働となるのは、次の時間であること。

① 1日ついては、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

② 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く。)

③ 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①又は②で時間外労働となる時間除く。)

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【管理監督者】姪浜タクシー事件(福岡地判平19.4.26労判948号41頁)

姪浜タクシー事件(福岡地判平19.4.26労判948号41頁)

1.事件の概要

Xは、旅客運送業(タクシー)等を営むY社で、営業部次長という地位で乗務員として勤務していた。Y社は、Xを管理監督者として扱い、時間外労働等の割増賃金を支払っていなかった。定年退職したXが、Y社に対して、在職中の時間外労働と深夜労働の割増賃金等を請求したのが本件である。(本件では、Xが退職する前に実施された退職金規定の変更についても併せて争われたが、ここでは割愛する。)

2.判決の概要

Xは、営業部次長として、終業点呼や出庫点呼等を通じ、多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあったと認められる。また、乗務員の募集についても、面接に携わってその採否に重要な役割を果たしており、出退勤時間についても、多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの、唯一の上司というべきA専務から何らの指示を受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど、特段の制限を受けていたとは認められない。
さらに、他の従業員に比べ、基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり、Y社の従業員の中で最高額であったものである。加えて、XがY社の取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、A専務に代わり、Y社の代表として会議等へ出席していたことなどの付随的な事情も認められ、これらを総合考慮すれば、Xは、いわゆる管理監督者に該当すると認めるのが相当である。・・・(中略)また、A専務から文書等による指示があるとはいえ、乗務員の労務ないし乗務の管理は、Xを含む営業部次長がその判断等に基づいて行っていたものというべきであり、殊に、タクシー業を営むY社において、それらが中心的な業務であると認められることからすれば、Xを含む営業部次長は相応の権限を有していたとみるのが相当である。
乗務員の採否についても、営業部次長の段階における履歴書の審査や面接で不採用とする場合があり、他方、A専務の面接に進んだ者で不採用になった者がいないことからすれば、むしろ、Xを含む営業部次長の判断が乗務員の採否に重要な役割を果たしていたというべきである。
さらに、出退勤時間については、勤務シフトが作成されていたのは、営業部次長の重要な業務である終業点呼や出庫点呼に支障を来さないためであると認められるのであり、それ自体で出退勤時間の自由がないということはできないし、Xが朝6時前から夕方6時すぎまで忙しく業務に従事していたとしても同様である。むしろ、上記のように、会社への連絡のみでもって退社ができる状況にあったことなどからすれば、出退勤時間の自由があったとみるのが相当である。
加えて、Xは、給与面においても、Y社の従業員の中では最高額を受給しているのであり、経営協議会や会議等への出席も、相応の責任ある地位に就いていることの徴表とみることができるのである。
以上によれば、Xが管理監督者に該当するということができるから、その請求できる時間外手当は深夜割増賃金に限られることになる。


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【管理監督者】セントラルスポーツ事件(京都地判平24.4.17労判1058号69頁)

セントラルスポーツ事件(京都地判平24.4.17労判1058号69頁)

1.事件の概要

Xは、スポーツクラブの運営等を行っているY社で、エリアディレクターとして勤務していた。Y社は、スポーツクラブを運営している地域を25のエリアに分け、各エリアには4から8店舗のスポーツクラブが所属しており、各エリアの長をエリアディレクターと呼んでいた。エリアディレクターの職務は、担当するエリア内におけるスポーツクラブの運営状況の把握、サービスの改善、スタッフの接客の監督、指示、エリア内の従業員の労務管理や人事考課、昇格、異動の起案等とされていた。このようなXが、Y社に対して、時間外手当等を請求したのが本件である。

2.判決の概要

管理監督者とは、労働条件の決定その他管理監督につき経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実体(ママ)に即して判断すべきである。具体的には、①職務内容が少なくとも、ある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理等の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、③管理職手当等特別手当が支給され、待遇において時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。Xの権限をみれば、①職制上の地位、及び、エリアを統括する上での人事権、人事考課、労務管理、予算管理など必要な権限を実際に有していることが認められ、Xは、エリアを統括する地位にあったことが認められる。また、②エリアディレクターは、従業員の出退勤を管理して、サービス残業の有無や従業員の健康等を管理し、指導する地位にあったものであり、部下に対する労務管理を担当していたことが認められ、・・・(中略)人事採用、人事考課、昇格について、相当程度の関与が認められ、以上によれば、Xにおいて、労務管理、人事、人事考課等の機密事項に一定程度接しており、また、予算を含めこれらの事項について一定の裁量を有していることが認められる。さらに、③Xの賃金は、(管理監督者ではない)副店長が月100時間の法定外残業を行った場合はエリアディレクターの月額基本給と大差がないことになるが、月100時間の法定外残業が継続するとは考えにくく、エリアディレクターは、副店長に比べると、高額な賃金を受け取っているといえ、エリアディレクターは管理監督者に対する待遇として十分な待遇を受けているといえる。そして、④Xは、従業員の労務管理のために、自己の労働時間を含め担当エリアにおけるすべての従業員の労働時間を承認・修正することができる権限を有しているうえ、業務時間中に自由に接骨院に通院するなど、出退勤の時間を拘束されていたものとは認められず、・・・(中略)自己の裁量で自由に出勤勤務していたものと認められる。したがって、Xは管理監督者に当たるというべきである。


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【管理監督者】徳洲会事件(大阪地判昭62.3.31労判497号65頁)

1.事件の概要

Xは、病院を営んでいる医療法人Yの人事第2課長として、看護婦の採用業務等に主に従事していた。Y法人は、Xを労働基準法41条第2号の管理監督者とし、時間外手当等を支給していなかったが、代わりに責任手当及び特別調整手当を支給していた。このようなXが、労働基準法41条第2号の管理監督者の地位になかったとして、時間外等にかかる割増賃金の支払いを求めたのが本件である。

2.判決の概要

労働基準法41条2号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤、退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきところ、Y法人における ①Xの地位はY法人の給与制度上事務職掌5等級職員として格付けされ、人事第二課長の肩書を有し、給与面でも課長職として処遇されており、その役職に相応する手当として責任手当が支給され、②Xの職務の内容は看護婦の募集業務の全般であり、責任者として、自己の判断で看護婦の求人、募集のための業務計画、出張等の行動計画を立案・実施する権限が与えられ、業務の遂行にあたっては、必要に応じてXを補助させるために、Y法人の本部及び各病院の人事関係職員を指揮、命令する権限も与えられ、また、③Xは看護婦募集業務の遂行にあたり、一般の看護婦については、自己の調査、判断によりその採否を決定し、採用を決定した看護婦については、自己の裁量と判断により、Y社が経営する各地の病院での配属を決定する人事上の権限まで与えられ、婦長クラスの看護婦についても、その採否、配属等の人事上の最終的な決定は、Y法人の理事長に委ねられていたものの、その決定手続に意見を具申する等深く関わってきており、さらに、④Xの職務の特殊性から、夜間、休日等の時間外労働の発生が見込まれたため、包括的な時間外(深夜労働を含む。)手当として、実際の時間外労働の有無、長短にかかわりなく、特別調整手当も支給されてきた。
これらの職務権限の内容、労働時間の決定権限、責任手当・特別調整手当の支給の実態等からみると、Xは、Y法人における看護婦の採否の決定、配置等労務管理について経営者と一体的な立場にあり、出勤、退勤時にそれぞれタイムカードに刻時すべき義務を負っているものの、それは精々拘束時間の長さを示すだけにとどまり、その間の実際の労働時間はXの自由裁量に任せられ、労働時間そのものについては必ずしも厳格な制限を受けていないから、実際の労働時間に応じた時間外手当等が支給されない代わりに、責任手当、特別調整手当が支給されていることもあわせ考慮すると、Xは、労働基準法41条2号の監督若しくは管理の地位にある者に該るものと認めるのが相当である。
従って、Xが時間外労働及び休日労働に従事しても、同法41条により、同法37条の時間外及び休日労働に関する割増賃金の規定の適用が除外されるから、これによる割増賃金の請求権は発生せず、また、Xが監督若しくは管理の地位にあり、とりわけ自己の労働時間をその自由裁量により決することができ、包括的な時間外手当(深夜労働を含む)の趣旨で特別調整手当が支給されていることを考慮すると、同法37条の深夜労働による割増賃金の請求権も発生しないというべきである。



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【管理監督者】レストランビュッフェ事件(大阪地判昭61.7.30労判481号51頁)

1.事件の概要

Xは、レストランを営んでいるY社のA店舗で、店長として勤務していた。Xは、A店舗で勤務するコック、ウエイター等の従業員6~7名程度を統括し、ウエイターの採用にも一部関与していた。また、Y社はXにA店舗における、材料の仕入れ、売上金の管理等を任せ、店長手当として月額2万円ないし3万円を支払っていたが、労基法41条2号にいわゆる管理監督者として扱い、残業代は支払っていなかった。Xが、Y社に対して残業代の支払いを請求したのが本件である。

2.判決の概要

労働基準法41条2号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきであり、単に局長、部長、工場長等といった名称にとらわれることなく、その者の労働の実態に則して判断すべきものである。
本件についてみるに、・・・(中略)Xは、A店舗の店長として、A店舗で勤務しているコック、ウエイター等の従業員6、7名程度を統轄し、右ウエイターの採用にも一部関与したことがあり、材料の仕入れ、店の売上金の管理等を任せられ、店長手当として月額金2万円ないし3万円の支給を受けていたことが認められるけれども、他方、Xは、A店舗の営業時間である午前11時から午後10時までは完全に拘束されていて出退勤の自由はなく、むしろ、タイムレコーダーにより出退勤の時間を管理されており、仕事の内容も、店長としての右のような職務にとどまらず、コックはもとよりウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、Xが採用したウエイターの賃金等の労働条件は、最終的にY社が決定したことが認められるところであり、これらXの労働の実態を勘案すれば、Xは、A店舗の経営者であるY社と一体的な立場にあるとはいえず、前記「監督若しくは管理の地位にある者」には該らないというべきである。


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【管理監督者】日本ファースト証券事件(大阪地判平20.2.8労判959号168頁)

1.事件の概要

Xは、証券業を営むY社で大阪支店の支店長として勤務していたが、退職した。Xは、退職した際にY社が速やかに雇用保険離職票などを交付しなかったため再就職することができなかったとして、1か月間の給与相当額の損害賠償を請求し、あわせて退職前の土曜日及び祝日出勤に対する時間外割増賃金などを請求したのが本件である。

2.判決の概要

Xは、大阪支店の長として、30名以上の部下を統括する地位にあり、Y社全体から見ても事業経営上重要な上位の職責にあったこと、大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限を有しており、中途採用者については実質的に採否を決する権限が与えられていたこと、人事考課を行い、係長以下の人事についてはXの裁量で決することができ、社員の降格や昇格についても相当な影響力を有していたこと、部下の労務管理を行う一方、Xの出欠勤の有無や労働時間は報告や管理の対象外であったこと、月25万円の職責手当を受け、職階に応じた給与と併せると賃金は月82万円になり、その額は店長以下のそれより格段に高いことが認められる。
Xの職務内容、権限と責任、勤務態様、待遇等の実態に照らしてみれば、Xは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある管理監督者にあたるというべきである。



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【管理監督者】日本マクドナルド事件(東京地判平.20.1.28労判953号10頁)

1.事件の概要

Xは、ハンバーガー等の販売等を営んでいるY社の直営店で店長として勤務していた。Y社では、店長以上の職位の従業員が労働基準法41条2号の管理監督者として扱われ、法定労働時間を超える時間外労働について割増賃金が支払われていなかった。Xが、店長職は管理監督者には該当しないとして、未払いの割増賃金の支払い等を求めて訴えを提起したのが本件である。

2.判決の概要

管理監督者については、労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条第2号)、これは管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものと解される。
したがって、Xが管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまいものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
Xは、①店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない、②Y社から情報提供された営業方針、営業戦略やマニュアルに基づき、店長の責任として、店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまり、かかる立場にある店長が行う職務は、特段、労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容、性質であるとはいえない、③人事考課における評価によっては、管理監督者として扱われていないY社のファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額となることがあり、また、店長の週40時間を超える労働時間の平均はファーストアシスタントマネージャーのそれを超えており、店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると、店長の賃金は、労働基準法の労働時間の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては十分であるといい難いため、管理監督者に該当しない。

3.解説

名ばかり管理職が社会問題となってきた時期の判決で非常に話題となった事件であるが、判決の内容は行政解釈である、監督又は管理の地位にある者の範囲(昭22.9.13発基17号、昭63.3.14基発150号)とほぼ同様に基準に判断されている。また、恐らく、本判決の影響により、多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平20.9.9基発0909001号)及び多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について(平20.10.3基監発1003001号)が示されたものと思われる。ただし、この店長の年収がそれなりに高水準であったことから、どういう判決が下されるかは微妙であったらしい。なお、その後、控訴審で平成21年3月に和解が成立したが(和解金1000万円)、和解までの間にマクドナルド側は賃金体系等を整備し(賃金の時効は2年なので、時間を稼いだのだろう)、他の店長から同様な訴えがなされても未払い賃金がそれほど大きくならない状態にして和解したものと思われる。(見事な落としどころだったという評価をする方もいるようです)



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