社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【管理監督者】姪浜タクシー事件(福岡地判平19.4.26労判948号41頁)

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姪浜タクシー事件(福岡地判平19.4.26労判948号41頁)

1.事件の概要

Xは、旅客運送業(タクシー)等を営むY社で、営業部次長という地位で乗務員として勤務していた。Y社は、Xを管理監督者として扱い、時間外労働等の割増賃金を支払っていなかった。定年退職したXが、Y社に対して、在職中の時間外労働と深夜労働の割増賃金等を請求したのが本件である。(本件では、Xが退職する前に実施された退職金規定の変更についても併せて争われたが、ここでは割愛する。)

2.判決の概要

Xは、営業部次長として、終業点呼や出庫点呼等を通じ、多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあったと認められる。また、乗務員の募集についても、面接に携わってその採否に重要な役割を果たしており、出退勤時間についても、多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの、唯一の上司というべきA専務から何らの指示を受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど、特段の制限を受けていたとは認められない。
さらに、他の従業員に比べ、基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり、Y社の従業員の中で最高額であったものである。加えて、XがY社の取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、A専務に代わり、Y社の代表として会議等へ出席していたことなどの付随的な事情も認められ、これらを総合考慮すれば、Xは、いわゆる管理監督者に該当すると認めるのが相当である。・・・(中略)また、A専務から文書等による指示があるとはいえ、乗務員の労務ないし乗務の管理は、Xを含む営業部次長がその判断等に基づいて行っていたものというべきであり、殊に、タクシー業を営むY社において、それらが中心的な業務であると認められることからすれば、Xを含む営業部次長は相応の権限を有していたとみるのが相当である。
乗務員の採否についても、営業部次長の段階における履歴書の審査や面接で不採用とする場合があり、他方、A専務の面接に進んだ者で不採用になった者がいないことからすれば、むしろ、Xを含む営業部次長の判断が乗務員の採否に重要な役割を果たしていたというべきである。
さらに、出退勤時間については、勤務シフトが作成されていたのは、営業部次長の重要な業務である終業点呼や出庫点呼に支障を来さないためであると認められるのであり、それ自体で出退勤時間の自由がないということはできないし、Xが朝6時前から夕方6時すぎまで忙しく業務に従事していたとしても同様である。むしろ、上記のように、会社への連絡のみでもって退社ができる状況にあったことなどからすれば、出退勤時間の自由があったとみるのが相当である。
加えて、Xは、給与面においても、Y社の従業員の中では最高額を受給しているのであり、経営協議会や会議等への出席も、相応の責任ある地位に就いていることの徴表とみることができるのである。
以上によれば、Xが管理監督者に該当するということができるから、その請求できる時間外手当は深夜割増賃金に限られることになる。


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