社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【同一労働同一賃金】丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁)

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丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁)

1.事件の概要

Xらは、自動車用警報器等の製造販売を業とするY社において臨時社員(全員が女性)として雇用されていた。臨時社員の雇用期間は2か月であったが、実際には何度も更新されていた。仕事の内容については、臨時社員と女性の正社員との間では区別がなく、勤務時間も同一であった。正社員の給与は月給制で、基本給は原則として年功序列であるが、臨時社員の給与は日給月給制で、基本給は勤続年数に応じて3段階に分かれていた。最も勤続年数の長い臨時社員の年収は、同じ勤務年数の正社員と比べた場合に約3分の2となっていた。Xらは、正社員との賃金の差額について損害を被っているとして、不法行為を理由とする損害賠償を求めたのが本件である。

2.判決の概要

同一価値労働同一賃金の原則が、労働関係を規律する一般的な法規範として存在していると認めることはできない。・・・(中略)使用者が雇用契約においてどのような賃金を定めるかは、基本的には契約自由の原則が支配する領域である。同原則は、不合理な賃金格差を是正するための一個の指導理念とはなり得ても、これに反する賃金格差が直ちに違法となるという意味で公序とみなすことはできない。 労働基準法3条、4条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。これは、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原理であるので、同一価値労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきである。 本件では、Xらの労働内容は、その外形面においても、Y社への帰属意識という内面においても、女性正社員と同一であるにもかかわらず、Xらも臨時社員として採用したままこれを固定化し、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことは、均等待遇の理念に違反する格差であり、公序良俗違反として違法となる。 均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。・・・(中略)前提要件として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、Y社において同一価値労働同一賃金の原則が公序でないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、Xらの賃金が、同じ勤務年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度においてY社の裁量が公序良俗違反となると判断すべきである。

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