社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【管理監督者】ことぶき事件(最二小判平21.12.18労判1000号5頁)

ことぶき事件(最二小判平21.12.18労判1000号5頁)

1.事件の概要

Xは、美容室と理容室を経営するY社で、総店長として勤務していた。Y社は、Xを総店長、Aを店長とし、その他3名の従業員を雇い入れ、B店を開店した。Xは、通常、B店の営業時間に合わせて、午前10時(平日)もしくは午前9時(土日)に出勤し、午後7時半に退社していたが、顧客の都合で、営業時間後も勤務することがあった。また、午後9時頃からの店長会議にも出席しており、その会議は長いときには2時間に及んぶことがあった。その後、XはY社を退社し、B店の近隣にある別会社のC店で理美容業務に従事したが、XがB店での顧客カードを持ち出していたため、Y社は、Xに対し不正競争防止法ないし不法行為を理由として損害賠償の訴えを提起した。XはY社に対して、時間外労働や深夜労働についての割増賃金の未払い分などの支払いを求めて反訴を提起した。
一審は、Y社の損害賠償請求を一部容認する一方、Xからの反訴請求は棄却した。双方が控訴したところ、第二審(原審:)は、Y社の損害賠償額を増やす一方、Xからの反訴請求については、Xが管理監督者に該当することを理由に請求を棄却した。これに対して、Xが上告したのが本件である。

2.判決の概要

労働基準法における労働時間に関する規定の多くは、その長さに関する規制について定めており、労働基準法37条1項は、時間外労働に対して所定の割増賃金を支払わなければならないことなどを規定している。他方、同条4項*1は、深夜労働をさせた場合においては、所定の割増賃金を支払わなければならない旨を規定するが、同項は、労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で、労働時間に関する労働基準法中の他の規定とはその趣旨目的を異にすると解される。
労働基準法41条は、・・・(中略)労働時間、休憩及び休日に関する規定は、同条各号の一に該当する労働者については適用しないとし、これに該当する労働者として、同条2号は管理監督者等を、同条第1号は同法別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者を定めている。一方、同法第6章中の規定であって年少者に係る深夜業の規制について定める61条をみると、同条4項は、上記各事業については同条1項ないし3項の深夜業の規制に関する規定を適用しない旨別途定めている。こうした定めは、同法41条にいう「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には、深夜業の規制に関する規定は含まれていないことを前提とするものと解される。
以上によれば、労働基準法41条2号の規定によって同法37条4項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるものと解するのが相当である。
ただし、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない。

3.解説

それまで、下級審判決では管理監督者について、深夜割増賃金の支払い否定した判決もあったが(例:日本プレジデントクラブ事件(東京地判昭63.4.27労判517号18頁))、最高裁管理監督者についても深夜割増賃金は適用除外されないとの見解を示した判例。なお、それまでも行政解釈は、管理監督者について、深夜割増賃金を適用除外とはされていなかった。

労働基準法
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

労働基準法
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

労働基準法
(深夜業)
第61条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
2 厚生労働大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限つて、午後十一時及び午前六時とすることができる。
3 交替制によつて労働させる事業については、行政官庁の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。
4 前三項の規定は、第三十三条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させる場合又は別表第一第六号、第七号若しくは第十三号に掲げる事業若しくは電話交換の業務については、適用しない。
5 第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。

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*1:当時は、第3項であった。

【管理監督者】日本プレジデントクラブ事件(東京地判昭63.4.27労判517号18頁)

1.事件の概要

Xは、旅行目的のクラブ運営会社であるY社で、総務局次長として勤務し、経理、人事及び庶務を任されていた。Y社は、Xを管理監督者として扱い、時間外手当等が支払っていなかったところ、Xは自らが労働基準法41条2号の管理監督者に該当しないとして、Y社に対して時間外手当等を請求したのが本件である。

判決の概要

Y社はXに対して経理のみならず人事、庶務全般に及び事務を管掌することを委ねたこと、そのため、Y社は、Xを総務局次長として任用し、基本給として年令給15万800円、職能給7万9600円を、この他に手当として、役職手当3万円、職務手当5万円、家族手当2万円を支給していたこと、そして、Y社の就業規則には、役職手当の受給者に対しては時間外労働手当を支給しない旨の規定があること、・・・(中略)右に認定した事実によると、Y社においてXは労働基準法41条2号の監督若しくは管理の地位にある者に該当していたというべきであるから、同法37条の時間外、休日及び深夜労働の割増賃金に関する規定が同法41条本文によってXに対し適用にならないことは明らかである。

3.解説

本判決では、管理監督者について深夜割増賃金に関する適用がないとされているが、後に最高裁で、管理監督者についても深夜労働の割増賃金の適用があるとの見解が示されている。(ことぶき事件(最二小平21.12.18労判1000号5頁))ただし、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が一定額の深夜割増賃金を含む趣旨で定められていることが明らかな場合は、その限度ではこれの支払を受けることを認める必要はないとされている。(この点は、管理監督者であるかというよりは、固定残業代と同様な考え方だと思われる。)



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【懲戒解雇】ネスレ日本事件(最二小判平成18.10.6労判925号11頁)

1.事件の概要

X1、X2はY社の従業員であったが、X2について年休振替の不承認に端を発して上司であるT課長と対立が生じ、Tに対する暴行事件が発生して、TはXらを刑事告発した。Y社は、警察・検察の捜査結果を待って処分を検討したところ、暴行事件が発生して7年以上経過した後に、X1の不起訴処分が決まった。そこで、Y社はXらに対して、諭旨解雇を言い渡した。Xらは、退職届を提出しなかったので、懲戒解雇として扱われ、これに対してXらがY社の従業員としての地位確認を求めたのが本件である。

2.判決の概要

使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
・・・(中略)これらのことからすると、本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から・・・(中略)懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分をするような状況ではなかったものということができる。
以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由についてY社が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。



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【懲戒解雇】山口観光事件(最一小判平成8.9.26労判708号31頁)

1.事件の概要

Xは、Y社の経営する浴室を主体とする遊戯施設でマッサージ業務に従事する労働者であるが、2日間の休暇を請求したところ、Y社は休暇申請および応接態度等を理由に解雇の意思表示をした。Xは、地位保全等仮処分を申請し、裁判所は仮払い請求の一部を認容した。同事件の審理手続において、Y社は、答弁書で、Xが採用時に提出した履歴書に年齢詐称が判明したとして同人を懲戒解雇(予備的解雇)に処す旨の意思表示をした。Xは本案において、解雇の無効を前提に賃金請求の本訴を提訴した。

2.判決の概要

使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。




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【懲戒処分】関西電力事件(最一小判昭和58.9.8労判415号29頁)

1.事件の概要

Xは、Y社の従業員であり、A組合の組合員である。昭和44年1月1日未明、Xは、従業員の社宅において、Y社を非難攻撃し、中傷誹謗する内容のビラを、350枚配布した。そこでY社は、この行為が就業規則所定の懲戒事由「その他特に不都合な行為があったとき」に当たるものとして譴責処分に処した。

2.判決の概要

労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るため、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができるものであるところ、右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるものであるが、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為を規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり、・・・(中略)、右にような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。



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【懲戒処分】目黒電報電話局事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号974頁)

1.事件の概要

Xは、Y社の職員である。昭和42年6月16日から同22日まで、「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載した小型プレートを、作業着左胸に着用して勤務した。上司らはプレートを取り外すよう注意したが、Xはこれに従わなかった。またXは、この取りはずし命令に抗議する目的で、休憩時間中に許可を受けることなく、抗議の意見等を記載した内容のビラ数十枚を休憩室および食堂で職員に手渡しまたは机上に置くという方法で、配布した。そこで、Y社は、これらの行為が、就業規則の各規定(「職員は、局所内において、選挙運動その他の政治運動をしてはならない。」、「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするときは、事前に別に定めるその局所の管理責任者の許可を受けなければならない。」)に違反するとして、懲戒戒告処分に処した。

2.判決の概要

元来、職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供義務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがって、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきである。


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【懲戒処分】国鉄札幌駅事件(最三小判昭和54.10.30民集33巻6号647頁)

国鉄札幌駅事件(最三小判昭和54.10.30民集33巻6号647頁)

参照法条 : 憲法28条、労働契約法15条、労働組合法7条
裁判年月日 : 1979年10月30日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和49年(オ)1188号 

1.事件の概要

Xの属するA組合は、春闘に際し、賃上げ要求や合理化案への反対を内容とするビラ貼りを札幌地本に指示した。そこでXらは、日常使用している詰め所内の個人用ロッカー約300余に、1~2枚のビラをセロテープで貼付した。Y社では、管理する施設に許可なく文書等を掲示すること禁止しており、Xらのビラ貼付を助役らが禁止したがXらはこれに従わなかった。そこで、Y社は、就業規則の懲罰規定に基づき、Xらを戒告処分に処した。
これに対して、Xは戒告処分の無効を求めて提訴し、一審は、本件ビラ貼りは組合活動として相当性の範囲を逸脱して違法であるとして本件懲戒処分を有効であるとしたが、二審は、本件ビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されるべき行為であるとして、本件懲戒処分は無効であるとしたため、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の概要

思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のものにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めるべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、又は具体的な指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。



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【懲戒処分】富士重工事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号1037頁)

富士重工事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号1037頁)

参照法条 : 労働基準法2章、89条1項9号
裁判年月日 : 1977年12月13日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和49年 (オ) 687 

1.事件の概要

Y社は、従業員の一部が就業時間中に無断で職場を離脱して、原水爆禁止運動に関わる他の従業員の署名を集めたり、資金調達のためにハンカチを作成することを依頼するなどの活動をしていることを知り、これを就業規則違反の行為であるとして調査を開始した。調査に当たって、労働者Xに事情聴取を行ったところ、Xは一部の質問への回答を拒否した。このため、Y社は、これを就業規則の上長の指示遵守、規則遵守に関する規定に違反するものとして、Xを譴責処分とした。そこで、Xは、譴責処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認を求めて提訴した。

2.判決の概要

そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するために、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、命令等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。しかしながら、企業が右のように企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできない。なぜなら、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労度提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである。そして、右の観点に立って考えれば、当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務内容になっている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である。



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【管理監督者】東和システム事件(東京地判平21.3.9労判981号21頁)

東和システム事件(東京地判平21.3.9労判981号21頁)

参照法条 : 労働基準法37条、労働基準法41条、労働基準法115条、民事訴訟法134条
裁判年月日 : 2009年3月9日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)6975

1.事件の概要

Xらは、ソフトウェア開発等を営むY社で、課長代理の職位で、システムエンジニア(SE)として勤務していた。Xらが、Y社に対し、未払いの時間外手当等の請求をしたのが本件である。

2.判決の概要

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される。具体的には、①職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、③管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
Y社は、Xらの職制上の地位「課長代理」でなく、特定の業務における地位である「プロジェクトリーダー」の権限等について、管理監督者であると主張するようである。しかしながら、・・・(中略)プロジェクトリーダーは、個々のシステム開発等の業務(プロジェクト)ごとに選任され、プロジェクトによっては、Xらよりも職制上上位にある者がプロジェクトに入っていても、適性等によっては、例えばXらが、それを追い越してプロジェクトリーダーに選任されることがあり、Xらもやや大きめのプロジェクトチームになると、リーダーでなくメンバーとなることもあるなど、職制上の地位と不可分ではないことが認められる。・・・(中略)プロジェクトの人数はプロジェクトリーダーごとに異なるが、Y社従業員1名ないし案件によっては最大100名程度のものまであり、Xらは、最大でも4~5名のプロジェクトチームのリーダーに選任されることが多く、プロジェクトによっては、Xらよりも職制上上位にある者(統括部長、部長、次長等)がプロジェクト責任者に選任される。
しかし、Xらは、・・・(中略)プロジェクトチームの構成員を決定する権限もなく、パートナーと呼ばれる下請会社を決定する権限もなく、それは上記の職制上上位にある統括部長、部長、次長等が決定しており、また、Xらはプロジェクトのスケジュールを決定することもできず、こちらはY社の重要な顧客である訴外A社が決定しており、作業指示もA社の決定したマスター線表という計画表に沿って行われるものと認められる。このような状況下で、この程度の部門を統括することでは、部門全体の統括的な立場にあるということは困難である。
部下に対する労務管理上の決定権等について、・・・(中略)Xらが、その部下であるチーム構成員(作業担当者)の人事考課をしたり、昇給を決定したり、処分や解雇を含めた待遇の決定に関する権限を有していた事実は認められない。従業員の新規採用を決定する権限があるどころか、・・・(中略)プロジェクトチームの構成員を決定する権限すらない。Y社が主張するように、原告らが部下の休暇の承認をしていたとしても(それすら、より上位の者の決裁を得ていたようであるが)、このような状況下では、Xらが経営者と一体的な立場にあるものということは、到底できない。
また、原告らが、前記スケジュールに拘束されて、出退勤の自由を有するといった状況で到底ない事実も認められる。以上検討したところによれば、その余の要素について検討するまでもなく、Xらは、管理監督者には当たらないというべきである。



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【管理監督者】ゲートウェイ21事件(東京地判平20.9.30労判977号74頁)

ゲートウェイ21事件(東京地判平20.9.30労判977号74頁)

参照法条 : 労働基準法41条2号、労働基準法3章、労働基準法9章
裁判年月日 : 2008年9月30日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)20926

1.事件の概要

Xは、留学・海外生活体験商品を扱うY社に、支店長として勤務して、役員に次ぐ最高の職位(シニアブランチマネージャー)であった。XがY社を退職後、未払の残業代等を請求したのが本件である。

2.判決の概要

Xの職務内容は、部門の統括的な立場にあり、部下に対する労務管理上の決定権等はあるが、それは小さなものにすぎないといえる。また、時間外手当が支給されないことを十分に補うだけの待遇を受けておらず、出退勤についての自由も大きなものではないといえる。これを総合すれば、Xは、経営者との一体的な立場にあり、労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されるような地位とそれに見合った処遇にある者とはいえず、労働時間等に関する規定の適用を除外されることが適切であるとはいうことができない。したがって、Xは管理監督者には当たらないというべきであるから、Y社はXの時間外労働に対する手当の支払を免れないというべきである。

3.解説

支店長という肩書きで、かつ、役員に次ぐ職位ではあったが、管理監督者性を否定された判決。
なお、余談であるが、この「株式会社ゲートウェイ21」は、2008年10月に破産し、その際に約1800人の方が留学費用(総額9億5000万円)を支払ったのに渡航できなくなるなど大きな問題となった。
www19.atwiki.jp



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