社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



定時決定(算定基礎届)の年間平均額による報酬の算定

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定時決定(算定基礎届)の年間平均額による報酬の算定

1.はじめに

定時決定(算定基礎届)は、毎年4月~6月の3か月間の報酬月額の平均を基に当年9月以降の標準報酬月額を決定(必然的に社会保険料が決定)される制度です。 簡単に言うと、毎年4月~6月の給料が高くなると、9月以降の社会保険料が高くなります。社会保険料は、将来の年金の受取額に影響するため、高いことが必ずしも損だとといういうわけではありませんが、例えば、3月決算の会社で4月~5月にかけて繁忙期となる経理部門や、人事異動や新卒社員の入社により4月が繁忙期となる引越会社や不動産会社、あるいは人事部門などに勤務する方は、例月よりも報酬が高くなる傾向にあり、4月~6月の給与を基に標準報酬月額を決定することが公平であるとはいえません。生活残業している方でも、この期間は残業しないようにするということ言っているのを耳にしたことがあります。

そこで、まだまだあまり活用されていないようですが、2011年より社会保険の標準報酬月額の算定の特例「年間平均による算定」が設けられました。

2.「年間平均による算定」を利用できる要件

年間平均による算定を利用するためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

① 「通常の方法で算出した標準報酬月額」(※1)と「年間平均で算出した標準報酬月額」(※2)の間に2等級以上の差が生じた場合であって、

② この2等級以上の差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合

③ さらに、被保険者が同意していること

(※1) 「通常の方法で算出した標準報酬月額」とは、当年4月~6月の3か月間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額(支払基礎日数17日未満の月を除く。)

(※2) 「年間平均で算出した標準報酬月額」とは、前年の7月~当年の6月までの間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額(支払基礎日数17日未満の月を除く。)

この制度は社会保険料の負担を軽くするためではなく、例月の報酬月額と決定される標準報酬月額との乖離を無くすために設けられていますので、「年間平均で算出した標準報酬月額」が高くなる場合でも、要件を満たせば(当然、その要件には被保険者(本人)の同意が含まれます。)、利用することが可能です。

3.例外的に「年間平均による算定」を利用できないケース

3つの要件を満たしていたとしても、次のようなケースでは、例外的に「年間平均よる算定」の対象とはなりません。

 ・前年の7月~当年の6月までの支払基礎日数が17日未満の月のみの場合

  (例 1年間休職しているようなケース)

 ・当年4月~5月に資格取得した場合

  (一年間の報酬月額の平均の計算対象となる月が一月も確保されていないため)

 ・当年7~9月に被保険者報酬月額変更届による随時改定を行った場合

 ・当年7月1日時点で一時帰休*1が解消される見込みがない場合

4.提出書類等

 ① 「健康保険・厚生年金保険被保険者月額算定基礎届」・・・通常の算定基礎届です。     ※ 備考欄に必ず“年間平均”と記入してください。

 ② 「年間報酬の平均で算定することの申立書」

     年間報酬の平均算定申立書

     年間報酬の平均算定申立書(記入例)

 ③ 「保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」

     保険者算定申立に係る・・・・の同意等

     保険者算定申立に係る・・・・の同意等(記入例)

※ 例年発生することが見込まれることを確認するためなど、必要に応じて、賃金台帳等の資料の提出を求められることがあります。

詳細につきましては、日本年金機構HPをご確認ください。 なお、随時改定(月額変更届)についても同様の制度がありますが、別の機会にご説明いたします。

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*1:一時帰休:会社が経営難や売り上げ低下に陥ったことで仕事量を減らすことになった際、従業員に一時的に休業させることをいいます。通常、休業手当等が支給されていますが、特例的な取り扱いがされます。日本年金機構HP参照