社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【管理監督者】徳洲会事件(大阪地判昭62.3.31労判497号65頁)

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1.事件の概要

Xは、病院を営んでいる医療法人Yの人事第2課長として、看護婦の採用業務等に主に従事していた。Y法人は、Xを労働基準法41条第2号の管理監督者とし、時間外手当等を支給していなかったが、代わりに責任手当及び特別調整手当を支給していた。このようなXが、労働基準法41条第2号の管理監督者の地位になかったとして、時間外等にかかる割増賃金の支払いを求めたのが本件である。

2.判決の概要

労働基準法41条2号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤、退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきところ、Y法人における ①Xの地位はY法人の給与制度上事務職掌5等級職員として格付けされ、人事第二課長の肩書を有し、給与面でも課長職として処遇されており、その役職に相応する手当として責任手当が支給され、②Xの職務の内容は看護婦の募集業務の全般であり、責任者として、自己の判断で看護婦の求人、募集のための業務計画、出張等の行動計画を立案・実施する権限が与えられ、業務の遂行にあたっては、必要に応じてXを補助させるために、Y法人の本部及び各病院の人事関係職員を指揮、命令する権限も与えられ、また、③Xは看護婦募集業務の遂行にあたり、一般の看護婦については、自己の調査、判断によりその採否を決定し、採用を決定した看護婦については、自己の裁量と判断により、Y社が経営する各地の病院での配属を決定する人事上の権限まで与えられ、婦長クラスの看護婦についても、その採否、配属等の人事上の最終的な決定は、Y法人の理事長に委ねられていたものの、その決定手続に意見を具申する等深く関わってきており、さらに、④Xの職務の特殊性から、夜間、休日等の時間外労働の発生が見込まれたため、包括的な時間外(深夜労働を含む。)手当として、実際の時間外労働の有無、長短にかかわりなく、特別調整手当も支給されてきた。
これらの職務権限の内容、労働時間の決定権限、責任手当・特別調整手当の支給の実態等からみると、Xは、Y法人における看護婦の採否の決定、配置等労務管理について経営者と一体的な立場にあり、出勤、退勤時にそれぞれタイムカードに刻時すべき義務を負っているものの、それは精々拘束時間の長さを示すだけにとどまり、その間の実際の労働時間はXの自由裁量に任せられ、労働時間そのものについては必ずしも厳格な制限を受けていないから、実際の労働時間に応じた時間外手当等が支給されない代わりに、責任手当、特別調整手当が支給されていることもあわせ考慮すると、Xは、労働基準法41条2号の監督若しくは管理の地位にある者に該るものと認めるのが相当である。
従って、Xが時間外労働及び休日労働に従事しても、同法41条により、同法37条の時間外及び休日労働に関する割増賃金の規定の適用が除外されるから、これによる割増賃金の請求権は発生せず、また、Xが監督若しくは管理の地位にあり、とりわけ自己の労働時間をその自由裁量により決することができ、包括的な時間外手当(深夜労働を含む)の趣旨で特別調整手当が支給されていることを考慮すると、同法37条の深夜労働による割増賃金の請求権も発生しないというべきである。



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