社会保険労務士川口正倫のブログ

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多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について(平20.10.3基監発1003001号)

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【多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について】(平20.10.3基監発1003001号)

標記については、平成20年9月9日付け基発第0909001号「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(以下「通達」という。)等により当該店舗における労働基準法第41条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にあるもの」(以下「管理監督者」という。)の範囲の適正化を図るよう指示されたところである。
通達については、一部に、管理監督者の範囲について誤解を生じさせかねないとの意見があることを踏まえ、管理監督者の範囲の適正化を図るための周知及び監督指導等に当たっては、以下の点について十分留意の上懇切丁寧な説明を行い、通達の趣旨・内容が正確に理解されるよう配意されたい。

① 通達は、店舗の店長等について、十分な権限、相応の待遇等が与えられていないにもかかわらず管理監督者として取り扱われるなど不適切な事案もみられることから、その範囲の適正化を図ることを目的として発出したものであること。

② 通達は、昭和22年9月13日付け発基第17号・昭和63年3月14日付け基発第150号(以下「基本通達」という。)で示された管理監督者についての基本的な判断基準の枠内で、店舗における特徴的な管理監督者の判断要素を整理したものであるので、基本的な判断基準を変更したり、緩めたりしたものではないこと。

③ 通達で示した判断要素は、監督指導において把握した管理監督者の範囲を逸脱した事例を基に管理監督者性を否定する要素を整理したものであり、これらに一つでも該当する場合には、管理監督者に該当しない可能性が大きいと考えられるものであること。

④ 通達においては、これらに該当すれば管理監督者性が否定される要素を具体的に示したものであり、これらに該当しない場合には管理監督者性が認められるという反対解釈が許されるものではないこと。これらに該当しない場合には、基本通達において示された「職務内容、責任と権限」、「勤務態様」及び「賃金等の待遇」の実態を踏まえ、労務管理について経営者と一体的な立場にあるか否かを慎重に判断すべきものであること。

なお、別添のとおり「「多店舗展開する小売業、飲食店等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」に関するQ&A」を取りまとめましたので、説明等に当たって参考とされたい。

         別添

「多店舗展開する小売業、飲食店等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日付け基発第0909001号)に関するQ&A

問1
今回の通達を発出した理由は何ですか?

答1
今回の通達は、「名ばかり管理職」として、多店舗展開企業における小規模な店舗の店長等について、十分な権限、相応の待遇が与えられていないにもかかわらず、労働基準法上の管理監督者であるとして、長時間労働を行わせるなど不適切な事案がみられることから、こうした事態に対処し、管理監督者の範囲の適正化を図る目的で出したものです。


問2
今回の通達で示された判断要素は、管理監督者に係る「基本的な判断基準(昭和22年9月13日付け発基第17号・昭和63年3月14日付け基発第150号。以下同じ。)」を緩めているのではないですか?

答2
今回の通達では、「基本的な判断基準」において示された職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇に関する基準の枠内において、また、いわゆるチェーン展開する店舗等における店長等の実態を踏まえ、最近の裁判例も参考にして、特徴的に認められる管理監督者性を否定する要素を整理したものです。
したがって、「基本的な判断基準」を変更したり、緩めたりしたものではなく、逸脱事例を具体的に示すことで、「基本的な判断基準」が適性に運用されるようにするものです。


問3
今回の通達で示された否定要素に当てはまらない場合は、管理監督者であると判断されるのですか?

答3
今回の通達で示された否定要素は、監督指導において把握した管理監督者の範囲を逸脱した事例を基に整理したものであり、すべて管理監督者性を否定する要素です。したがって、これに一つでも該当する場合には、管理監督者に該当しない可能性が大きいと考えられます。
一方、こうした否定要素の性格からは、「これに該当しない場合は管理監督者性が肯定される」という反対解釈が許されるものではありません。仮に、今回の通達で示された否定要素に当てはまらない場合であっても、実態に照らし、「基本的な判断基準」に従って総合的に管理監督者性を判断し、その結果、管理監督者性が否定されることが当然あり得るものです。


問4
「重要な要素」と「補強要素」を区分けして示した理由は何ですか?

答4
今回の通達で示した要素は、いずれも重視すべき要素ですが、その中でも「重要な要素」は、監督指導において把握した実態を踏まえ、これらの事項すら満たされていないのであれば、管理監督者性が否定される可能性が特に大きいと考えられる逸脱事例を強調して示したものです。


問5
今回の通達で、「職務内容、責任と権限」について挙げられている要素だけでは、労務管理について経営者と一体的な立場にある重要な職務と権限を有するとは言い難いのではないですか?

答5
「基本的な判断基準」において、管理監督者は「労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意」であるとされ、その範囲として、「労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し」ていることとされています。
今回の通達は、「基本的な判断基準」を前提として、その枠内で、裁判例も参考にして、管理監督者性を否定する特徴的な判断要素を示したものであって、これに該当すれば、労務管理について経営者と一体的な立場にある重要な職務と権限を有するものとして管理監督者性が肯定される、という要素を示したものではありません。


問6
店長であればパートタイマー等の採用権限があるのは当たり前であって、判断要素にならないのではないですか?

答6
監督指導において把握した実態においては、店長であってもパートタイマー等の採用権限がないケースが認められたところです。
また、今回の通達の対象は、店舗の店長だけではなく、その部下であって管理監督者として取り扱われている者の対象としていますが、このような者については、パートタイマー等の採用権限がない者が多い実態にあるので、判断要素として有効に機能するものと考えています。
なお、店舗における管理監督者の判断に当たっては、裁判例においてもパートタイマー等の採用権限の有無について判断しています。


問7
今回の判断要素の中で、「時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合」などのあまりに低い水準を示したにすぎない判断要素は、これによって管理監督者性が否定されるものはまれであるばかりか、結果として管理監督者の範囲を広げることになるのではないですか?

答7
今回の判断要素は、監督指導で把握した管理監督者の逸脱事例を踏まえ示したものであり、ご質問のような「基本的な判断要素」からの逸脱が特に著しく、問題であると考えられる実態も認められたため、否定要素として挙げたものです。
もちろん、実際の労働時間数に応じて時間単価に換算した賃金額が最低賃金額を上回ったとしても、管理監督者性が肯定されることにはならないのは当然のことです。(問3参照)
むしろ、「基本的な判断基準」において、管理監督者は賃金等についてその地位にふさわしい待遇がなされていること、とされており、最低賃金額に近い賃金水準である場合などには、当然これを満たさないこととなります。


問8
「賃金等の待遇」についての「アルバイト・パートの賃金額」「時間単価換算した場合の最低賃金額」などの要素は当然のことを言っているに過ぎず、むしろ補強要素として示されている「基本給、役職手当等の優遇措置」や「支払われた賃金の総額」の要素こそ重視されるべきではないですか?

答8
今回の通達で示した要素は、いずれも管理監督者性の判断に当たって重視すべき要素であり、補強要素としているものについても、重視されるべきことに変わりはありません。(問4参照)
時間単価に換算した賃金を比較した判断要素は、仮に賃金について何らかの優遇措置が講じられているとしても、実態として長時間労働を余儀なくされている場合には、実際の労働時間数で賃金額を割り戻すと、優遇どころか、実質的にはアルバイト・パート等の賃金額や、さらには最低賃金額にも満たないようなケースもあり、このような場合には、管理監督者性が否定されて当然と考えられることから、重要な否定要素として、特に示したものです。