社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【管理監督者】日本マクドナルド事件(東京地判平.20.1.28労判953号10頁)

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1.事件の概要

Xは、ハンバーガー等の販売等を営んでいるY社の直営店で店長として勤務していた。Y社では、店長以上の職位の従業員が労働基準法41条2号の管理監督者として扱われ、法定労働時間を超える時間外労働について割増賃金が支払われていなかった。Xが、店長職は管理監督者には該当しないとして、未払いの割増賃金の支払い等を求めて訴えを提起したのが本件である。

2.判決の概要

管理監督者については、労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条第2号)、これは管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、上記の基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものと解される。
したがって、Xが管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまいものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
Xは、①店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない、②Y社から情報提供された営業方針、営業戦略やマニュアルに基づき、店長の責任として、店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまり、かかる立場にある店長が行う職務は、特段、労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容、性質であるとはいえない、③人事考課における評価によっては、管理監督者として扱われていないY社のファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額となることがあり、また、店長の週40時間を超える労働時間の平均はファーストアシスタントマネージャーのそれを超えており、店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると、店長の賃金は、労働基準法の労働時間の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては十分であるといい難いため、管理監督者に該当しない。

3.解説

名ばかり管理職が社会問題となってきた時期の判決で非常に話題となった事件であるが、判決の内容は行政解釈である、監督又は管理の地位にある者の範囲(昭22.9.13発基17号、昭63.3.14基発150号)とほぼ同様に基準に判断されている。また、恐らく、本判決の影響により、多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平20.9.9基発0909001号)及び多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について(平20.10.3基監発1003001号)が示されたものと思われる。ただし、この店長の年収がそれなりに高水準であったことから、どういう判決が下されるかは微妙であったらしい。なお、その後、控訴審で平成21年3月に和解が成立したが(和解金1000万円)、和解までの間にマクドナルド側は賃金体系等を整備し(賃金の時効は2年なので、時間を稼いだのだろう)、他の店長から同様な訴えがなされても未払い賃金がそれほど大きくならない状態にして和解したものと思われる。(見事な落としどころだったという評価をする方もいるようです)



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