社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



新卒はすぐ退職することをジャネーの法則から検証してみる

「新卒の新入社員はなぜすぐに退職するのか?」心理学的に検証してみました

1.ジャネーの法則

ジャネーの法則とは、「新卒はすぐじゃーねバイバイ」するという経験則ではありません。 れっきとした心理学の経験則です。

ジャネーの法則(ジャネーのほうそく)は、19世紀のフランスの哲学者・ポール・ジャネが発案し、甥の心理学者・ピエール・ジャネの著書において紹介された法則。 主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く評価されるという現象を心理学的に説明した。 ジャネの法則とも表記する。 簡単に言えば生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する(年齢に反比例する)と主張したものである。 (Wikipediaからの引用ジャネーの法則 - Wikipedia

これを数学的に扱うと、「生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する」のであるから、心理的な時間の長さを T、年齢を tとすれば、

dT= (k/t) dt ( kは比例定数)・・・(1)

となります。 従って、 t_0歳からY年間の間の心理的な時間の長さF(t_0,Y)は、

F(t_0,Y) = \int_{T_0}^{T_0+Y} (k/t)\,dt = k({ln(T_0+Y) - ln(T_0)})・・・(2)

となります。 (2)で例えば、T_0 =30 Y =5とすれば、30歳から5年間の心理的な時間の長さを求めることができます。

F(30,5) = \int_{30}^{35} (k/t)\,dt = k({ln(35) - ln(30)}) =0.154k ・・・(3)

ただし、これだけでは心理学的な意味がない数字なので、比較するため60歳から5年間の心理的な時間の長さを求めると、

F(60,5) = \int_{60}^{65} (k/t)\,dt = k({ln(65) - ln(60)}) =0.08k ・・・(4)

となります。 (3)と(4)を比較すると、30歳からの5年間は60歳からの5年間より約1.9倍(0.154/0.08)長く感じることがわかります。また、30歳からの5年間を60歳に換算すると約2.6年(5/1.9)、30歳の5年間と同等な心理的な長さを60歳の人に感じさせるためには、

 k({ln(60+x) - ln(60)}) =k({ln(35) - ln(30)}) ・・・(5)

という式を解く必要がありますが、 ln(x_1) - ln(x_2) =ln({x_1}/{x_2}) が成り立つため単なる一次方程式に置き換えることができ、

 x=35/30×60 - 60 = 10・・・(6)

と、60歳の人には10年間ということになります。

2.年齢別心理的時間の長さ

「石の上にも3年」という格言がありますので、物理的な時間3年が各年齢で心理的な時間何年に相当するかをグラフにしてみます。 そのために(2)を利用して、

F(t_0,3) = \int_{t_0}^{t_0+3} (k/t)\,dt = k({ln(t_0+3) - ln(t_0)})・・・(6)

を計算しますが、定数kが定まっていないため基準となる年齢を定める必要があります。そこで、新卒である22歳の物理的な時間3年と心理的な時間3年が一致しているものとして求めます。つまり、

3=F(22,3) = \int_{22}^{25} (k/t)\,dt = k({ln(25) - ln(22)})

k=\frac{3}{ln(25/22)}

これを(6)に代入して、

F(t_0,3) = {\frac{3}{ln(25/22)}}ln({\frac{T_0+3}{T_0}})・・・(7)

F(t_0,3)YT_0Xとすると(7)は、

Y= {\frac{3}{ln(25/22)}}ln({\frac{X+3}{X}})・・・(8)

となり、Yを縦軸、Xを横軸としてプロットすると次のようなグラフができます。

f:id:sr-memorandum:20190331232405p:plain

この結果によると22歳で一致していた3年間の物理的な時間と心理的な時間が、年齢を経るにつれて心理的な時間が短くなり(時間が早く流れるように感じるようになり)、33歳から34歳あたりで2年間、45歳から46歳あたり1年半、65歳あたりでは1年間となることがわかります。 実際に数値で表してみると年代によって大きな差があり、「新卒がなかなか定着しない」とか「我慢が足りない」と言われる原因の1つに、この心理的な時間の違いがあると思います。 もちろんこれだけが原因ではないでしょうが、新卒に限らず若年者と接する際には、このように心理的な時間が年代によって大きく異なるということ、よく認識しておくべきです。例えば、同じ3年間の転勤でも、20代の従業員と定年後再雇用者とでは心理的な時間の長さが全然違うのです。

次に22歳から3年間と心理的な時間において同等な期間が各年齢で何年となるかを求めてみます。

まず、(2)より22歳から物理的時間3年間の心理的時間F(22,3)は、

F(22,3) =  k({ln(25) - ln(22)}) = kln({\frac{25}{22}}) ・・・(9)

また、同じく(2)よりX歳から物理的時間Y年間の心理的時間F(X,Y)は、

F(X,Y) =  k({ln(X+Y) - ln(X)}) = kln({\frac{X+Y}{X}}) ・・・(10)

これが等しくなる方程式を求めれば、22歳から3年間と心理的な時間において同等な期間が各年齢Xで何年間Yとなるかを示すこととなります。 (9)(10)より、

Y={\frac{25}{22}}X-X・・・(11)

となり、Yを縦軸、Xを横軸としてプロットすると次のようなグラフとなります。

f:id:sr-memorandum:20190401220412p:plain

このグラフは、22歳から3年間と心理的な時間において同等な期間が各年齢で何年になるのかがわかります。たった3年の辛抱と言うのは簡単ですが、自分の心理的な時間に置き換えると35歳の人では約4.8年、45歳の人では約6.1年、60歳の人では約8.2年の辛抱となります。 こういうふうに考えると、新卒の3年というのは結構長いのではないでしょうかね。 なお、3年という結構長い時間軸で考察しましたが、同じことは1日の労働時間についても言えることです。1日8時間労働といっても、年齢によって感じる心理的な長さは全然異なります。新卒はすぐ辞めると嘆く前に、心理的な時間の差異についてまず省みてはどうでしょうか。

【性差別】日産自動車事件(最三小判昭和56.3.24民集35巻2号300頁)

日産自動車事件(最三小判昭和56.3.24民集35巻2号300頁)

参照法条 : 労働基準法3条、民法90条
裁判年月日 : 1973年3月12日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和46年 (ネ) 1114

1.事件の概要

Y社の就業規則には、「従業員は、男子満55歳、女子満50歳をもって定年として、男子は満55歳、女子は満50歳に達した月の末日をもって退職させる。」との規定が置かれていたところ、Y社は当該規準に当てはまる女性従業員であるXらに対し退職を命じた。Xらは雇用契約上の地位の確認を求めて提訴した。

2.判決の概要

原審は、Y社においては、女子従業員の担当職務は相当広範囲にわたっていて、従業員の努力とY社の活用策いかんによっては貢献度を挙げうる職種が数多く含まれており、女子従業員各個人の能力等の評価を離れて、その全体をY社に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと、しかも、女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はないこと、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、Y社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨判断したものであり・・・(中略)正当として是認することができる。そうすると、・・・(中略)Y社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である。

3.解説

今では当たり前であるが、男女別定年制を性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、違法とする見解を最高裁が初めて示した判決。


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【性差別】住友セメント事件(東京地判昭和41.12.20労民集17巻6号1407頁)

住友セメント事件(東京地判昭和41.12.20労民集17巻6号1407頁)

参照法条 : 労働基準法3条,4条,民法90条,1条の2,日本国憲法14条
裁判年月日 : 1966年12月20日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和39年 (ワ) 10401 

1.事件の概要

Xを雇用するY社では、女性労働者の採用に当たり、「結婚又は満35歳に達したときは退職する」旨の念書を提出させ、女性労働者が結婚したときには解雇しうることとしていた。Xについても、本採用前に念書を提出させていたところ、結婚後、退職しなかったために、解雇した。Xは雇用契約上の地位の確認を求めて提訴した。

2.判決の概要

両性の本質的平等を実現すべく、国家と国民との関係のみならず、国民相互の関係においても性別を理由とする合理性なき差別待遇を禁止することは、法の根本原理である。憲法14条は国家と国民との間において、民法1条2(現行民法2条)は国民相互の関係においてこれを直接明示する。労働基準法3条は国籍、信条又は社会的身分を理由とする差別を禁止し、同法4条は性差別を理由とする賃金の差別を禁止する。ところで、労基法上性別を理由として賃金以外の労働条件の差別を禁止する規定はなく、かえって、同法19条、61条ないし68条等は女子の保護のため男子と異なる労働条件を定めている。したがって、労働基準法は性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容する一方、前示の根本原理に鑑み、性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止するものと解させられる。・・・(中略)この禁止は労働法の公の秩序を構成し、労働条件に関する性別を理由とする合理性を欠く差別待遇を定める労働協約就業規則、労働契約は、いずれも民法90条に違反しその効力を生じない。

3.解説

当時、男女平等を直接規定している法律は、憲法14条1項(平等原則)と労働基準法4条(男女同一賃金の原則)があっただけで、これらの法律だけでは私人間を規範となるべき民法1条2(現行民法2条)の定める「個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。」に沿った結論を導くことはできなかった。そこで、労働条件に関する性別を理由とする合理性を欠く差別待遇は、民法の一般条項である民法90条(公序良俗)を用いて違反との見解を示したのが本件である。

(解釈の基準)
民法第2条
この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。

(公序良俗)
民法第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

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小田急電鉄と東京メトロ(業務外の非違行為による懲戒処分)

小田急電鉄東京メトロ(業務外の非違行為による懲戒処分)

昨日、こちらの「日立、無期転換求めた女性社員に解雇通告(日立型と東芝型の雇止めの法理)」で、日立と東芝による雇止めの判例について紹介しましたが、それと同じような例として「小田急電鉄」と「東京メトロ」の駅員による痴漢行為での懲戒処分というのがあります。
これも少々噴飯ものなのですが、どちらも駅員さんが業務外に電車の中で痴漢をして逮捕されて、懲戒処分を受けて争った案件で、下級審ながら、業務外の非違行為による懲戒処分の事件ではわりと有名な判例です。

小田急電鉄事件(東京高判平成15.12.11労判867号5頁)
東京メトロ事件(東京地判平成27.12.25労判1133号5頁)

小田急電鉄事件は懲戒解雇による退職金全額不支給について、東京メトロ事件は諭旨解雇の効力そのものが争われています。
小田急電鉄事件の方は、他社の路線で痴漢行為が行なわれたそうですが、その従業員がなんと既に2回も逮捕されていたことが発覚して懲戒解雇となったそうです。でも、退職金全額不支給は認められず、3割の支払いは認められました。
東京メトロ事件の方は、なんと自社の路線で痴漢行為が行なわれたそうです。でも、1回目だったことと略式命令の罰金の金額が小額だったことから悪質性が高くなかったと評価されて、懲戒解雇は認められませんでした。

でも、職場環境配慮義務の観点から考えると、こういう従業員にそのまま働いてもらうのは問題じゃないかと思うんですけど…特に女性がいる部署には配置できませんよね。

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【懲戒解雇】東京メトロ事件(東京地判平成27.12.25労判1133号5頁)

東京メトロ事件(東京地判平成27.12.25労判1133号5頁)

参照法条 : 労働契約法15条
裁判年月日 : 2015年12月25日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成26年(ワ)第27027号

1.事件の概要

旅客鉄道事業の運営等を営むY社に勤務していたXは、Y社の路線内で痴漢行為を行ない、迷惑防止条例違反で逮捕され、簡易裁判所で罰金20万円の略式命令を受けた。Y社は会社の名誉を損なったとして、平成26年4月25日付けでXを諭旨解雇処分とした。これに対して、Xが処分の無効並びに従業員としての地位確認を求めて提訴したのが本件である。

2.判決の概要

従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである。・・・(中略)本件行為は、他の鉄道会社とともに痴漢行為の撲滅に積極的に取り組むY社が運行する電車の中で行われたものであるというのである。かかる点にかんがみれば、・・・(中略)本件行為は、Yにおける懲戒の対象となり得るものというべきである。他方、本件行為につき、略式命令を請求されるにとどまり、かつ、本件略式命令についても、罰金20万円の支払を命じられるにとどまった・・・(中略)本件行為の内容、態様等に加え、本件行為に対する処罰の根拠規定・・・(中略)が定める法定刑が6月以下の懲役または50万円以下の罰金であることをも併せ考えれば、本件行為のような痴漢行為が許されないものであることは当然であるものの、本件行為は、上記規定による処罰の対象となり得る行為の中でも、悪質性の比較的低い行為であるというべきである。・・・(中略)本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかった。
 以上にかんがみれば、本件行為がYの企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきであり、Y社が他の鉄道会社とともに本件行為の当時に痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、Xが本件事故の当時駅係員として勤務していた、といった各点を考慮しても、なお、本件行為に係る懲戒処分として、諭旨解雇というXのY社における身分を失わせる処分をもって臨むことは、重きに失するといわざるを得ない。

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パートタイム・有期雇用労働法対応(同一労働同一賃金対応)のための取組手順書

パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書~わかりやすいです~

自社の状況が改正法の内容に沿ったものか点検をすることができる「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」が厚生労働省で公表されています。
このマンガわかりやすいですね。

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リーフレット全文Download
リーフレットダウンロード

厚生労働省の特設ページ
厚生労働省 同一労働同一賃金特集ページ


合わせてこちらもご参照ください。
2020年4月施行
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説

日立、無期転換求めた女性社員に解雇通告(日立型と東芝型の雇止めの法理)

雇い止めの法理と日立製作所東芝の関係

 

headlines.yahoo.co.jp

 (上記のリンクからの引用です)

 日立製作所が、5年を超えて有期雇用で働き、無期雇用への転換を求めた40代の女性社員に対し、今月末での解雇を通告したことがわかった。「無期転換」は有期雇用で5年を超えて働く労働者に法律で認められた権利で、女性社員は昨年6月に「無期転換」を申請し、今年4月から無期雇用になる予定だった。日立は事業の縮小を解雇の理由に挙げているが、女性側は「無期転換逃れだ」として解雇の撤回を求めている。(中略)

この女性社員は、日立製作所派遣社員として約10年間勤務した後、12年10月に半年間の有期契約で日立に入社。13年4月以降は、半年または1年間の契約を更新して、有期雇用で働いてきた。(中略)

女性社員によると、日立に無期転換を申し込んだのは18年6月。同年11月には、日立が準備した申請書に勤務地の変更や残業を受け入れると記入して提出したが、翌12月に「19年4月以降は仕事がなくなる」と説明された。日立は今年2月、契約社員就業規則の「業務上の都合」に基づいて3月31日付での解雇を通知した。無期転換を申し込んだ別の横浜研究所の社員にも、同日付で解雇を通知したという。

 

 

言語道断。コンプライアンスという意識が全く無いんですかね。

恐らく、人事管理の責任者が無期雇用転換権が発生する前に雇止めするのを失念していたんですね。そして、解雇にしないと自分の立場も危うくなるでしょうから、なりふり構ってられないのでしょうね。(全て私の想像ですので悪しからず)

 

労働法を勉強していると、雇止めといえば「日立」と「東芝という企業名が、すぐ頭に浮かぶくらい有名な判例があるので、少々不謹慎かも知れませんが、この記事を目にして噴出しそうになりました。

こちらがその判例です。どちらも最高裁まで争っていて労働法の超基本的な判例です。

日立メディコ事件 最一小判昭和61.12.4労判486号6頁

東芝柳町工場事件 最一小判昭和49.7.22民集28巻5号927頁

 

ちなみ、いわゆる雇止めの法理のうち、有期雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に同視できない場合でも,作業内容・更新回数などから雇用継続が期待されていた場合には,解雇権濫用法理が類推適用されるという論法を「日立型」ということがあります。

また、有期雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していて、雇止めの意思表示は、実質において解雇の意思表示にあたる場合には、解雇権濫用法理が適用されるという論法を東芝型」ということがあります。

どちらの論法も現在は労働契約法に反映されており、労働契約法第19条第1号が「東芝型」、第2号が「日立型」となります。

 

労働契約法

(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

【ハラスメント】川崎市水道局(いじめ自殺)事件(横浜地川崎支判平成14.6.27労判833号61頁、東京高判平成15.3.25労判849号87頁)

川崎市水道局(いじめ自殺)事件(横浜地川崎支判平成14.6.27労判833号61頁、東京高判平成15.3.25労判849号87頁)

参照法条 : 民法415条、労働基準法2章、民法418条、国家賠償法1条
裁判年月日 : 2002年6月27日
裁判所名 : 横浜地川崎支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成10年 (ワ) 275 

1.事件の概要

Y1市の水道局職員であった訴外Aは、職場の上司のY2~Y4から、いじめ、いやがらせを受け、精神疾患に罹り、自殺した。そこで、Aの両親XらがY1市及びY2~Y4に対し、損害賠償を請求した。第一審では、Y1市の責任は認められたが、Y2~Y4の行為は職務上のものであるとして個人の責任を否定するとともに、自殺は本人の資質ないし心因的要因も契機であったとして、7割を過失相殺したので、Xらが控訴した。そして、第二審も、この判断を維持した。

2.判決の概要

一般的に、市は市職員の管理的立場に立ち、そのような地位にあるものとして、職務行為から生じる一切の危険から職員を保護すべき債務を負うものというべきである。そして、職員の安全の確保のためには、職務行為それ自体についてのみならず、これと関連して、ほかの職員からもたらされる生命、身体等に対する危険についても、市は、具体的状況下で、加害行為を防止するとともに、生命、身体等への危険から被害職員の安全を確保して被害発生を防止し、職場における事故を防止すべき注意義務(以下「安全配慮義務」という。)があると解される。また、国家賠償法1条1項にいういわゆる「公権力の行使」とは、国又は公共団体の行う権力作用に限らず、純然たる私経済作用及び公の営造物の設置管理作用を除いた非権力的作用をも含むものと解するのが相当であるから、Y市の公務員が故意又は過失によって安全配慮義務に違背し、その結果、職員に損害を加えたときは、同条1条1項の規定に基づき、Y市は、その損害を賠償すべき責任がある。


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【ハラスメント】電通事件(最二小判平成12.3.24民集54巻3号155頁)

電通事件(最二小判平成12.3.24民集54巻3号155頁)

参照法条 : 民法709条、民法715条、民法415条、民法722条2項、民法418条
裁判年月日 : 2000年3月24日
裁判所名 : 最高二小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成10年 (オ) 217 、平成10年 (オ) 218

1.事件の概要

訴外Aは、大学を卒業後、大手広告代理店のY社に就職し、イベントなどの企画立案に従事していたところ、長時間労働が続き、だんだん疲労困憊状態になり、これにAの上司も気づいていたが、増員などの措置は講じなかった。そしてAは、うつ病に罹り、自宅で自殺した。そこで、両親であるXらは、Y社に対し、損害賠償を請求した。なお、Y社の所定労働時間では、1か月147時間、年間1,764時間であったが、Aの年間の労働時間は、3,528時間に相当する長さであった。第一審は、1億2,600万円の損害賠償を認めた。しかし、第二審は、本人の性格(うつ病に親和的)のほか、病院に行かなかった、同居している親にも責任がある、という過失を認め、賠償額を3割減額した。最高裁は、本判決でこの減額した判断を見直すよう原審に破棄差し戻した(なお、その後、高裁で和解が成立した)。

2.判決の概要

労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労心理的負担等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。・・・(中略)労働保護法規は、(中略)・・・右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労心理的負担等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。


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【安全配慮義務】大石塗装・鹿島建設事件(最一小判昭和55.12.18民集34巻7号888頁)

大石塗装・鹿島建設事件(最一小判昭和55.12.18民集34巻7号888頁)

参照法条 : 労働基準法2章、民法415条
裁判年月日 : 1974年3月14日
裁判所名 : 福岡地小倉支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和44年 (ワ) 1050 

1.事実の概要

建設会社であるY1社は、請負工事のうち塗装工事を塗装会社であるY2社に請け負わせ、Y2社の従業員である訴外Aらが右業務に従事していたところ、Aが地上に墜落し死亡したので、Aの家族であるXらは、Y1、Y2に対し、逸失利益および慰謝料の支払いを請求した。第一審は、Aが命綱を外していたとして請求を棄却したが、第二審は、養生網の開被に安全保証義務違反を認め、5割の過失相殺のうえ、Xらのうち両親の慰謝料の一部のみを認容したので、この判断を不満としてXらが上告した。最高裁は、過失割合を正当とし、慰謝料について以下のように判断した。

2.判決の概要

AとY社らとの間の雇用契約ないしこれに準ずる法律関係の当事者でないXらが雇用契約ないしこれに準ずる法律関係上の債務不履行により固有の慰謝料請求権を取得するものとは解しがたいから、Xらは慰謝料請求権を取得しなかったものというべきである。

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