社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】東芝柳町工場事件 最一小判昭和49.7.22民集28巻5号927頁

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東芝柳町工場事件 最一小判昭和49.7.22民集28巻5号927頁

 

参照法条 : 民法626条、労働基準法20条,21条
裁判年月日 : 1970年9月30日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和43年 (ネ) 1844 、昭和43年 (ネ) 1891

1.事件の概要

 Xらは、Y社に契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取り交わした上で基幹臨時工として雇い入れられたが、当該契約が5回ないし23回にわたって更新された後、Y社はXらに雇止めの意思表示をした。Xらの採用に際して、Y社側に長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があり、Xらも期間の定めにかかわらず継続雇用されるものと信じて契約書を取り交わしたのであり、本工に登用されることを強く希望していたという事情があった。また、Xらとの契約更新に当っては、必ずしも契約期間終了の都度直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではなかった。
XらがY社を相手取り、雇用契約上の地位の確認等を求めて提訴したのが本件である。
第一審(横浜地昭和43.8.19民集28巻5号953頁)は、「漸次その臨時性を失い本件雇止めの当時にはすでに存続期間の定めのない労働契約・・(中略)・・に転移したものと解するのが相当」であり、更新拒絶の意思表示は法律上解雇の意思表示とみるべきとした。これに対し、第二審(東京高判昭和45.9.30民集28巻5号995頁)では、「当然更新を重ねて、あたかも期間の定めなき契約と実質的に異ならない状態で存在していた」と認定のうえ、本雇止めは臨時工就業規則の定める解雇の意思表示であるとし、「理論上、右事由に形式的に該当するときでも、それを行使すること著しく苛酷にわたる等相当でないときは会社は解雇権を行使し得ないと解するのが相当」とした。

 

2.判決の概要

 本件各労働契約は、当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各雇止めの意思表示は、実質において解雇の意思表示にあたる。そして、就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行なわれるものであるが、解雇事由に形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。
本件労働契約においては、単に期間が終了したという理由だけではY社において雇止めを行なわず、Xらもまたこれを期待、信頼し、このような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきたものというべきである。そして、このような場合には、経済事情の変動により剰員を生じる等、Y社において従来の取扱いを変更して右条項を発動してもやむを得ないと認められる特段の事情の存しない限り、期間満了を理由として雇止めをすることは、信義則上からも許されないものといわなければならない。

 

3.解説

 有期雇用の複数回更新後の雇止めについては、あくまで期間の定めのある契約のままであり、期間の満了により契約は終了するという考え方、反復してきた場合、期間の定めのない契約に転化するという考え方(転化説)、実質的には期間の定めのない契約とみて、解雇法理を類推適用する考え方(状態説)に分かれていたが、最高裁が状態説を採用したのが本判例である。
なお、本判例は現在では労働契約法19条に実体法化されている。

 

労働契約法第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

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