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『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(パートタイム有期雇用労働法)の逐条解説①-第1章

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続き

同一労働同一賃金について定めた『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(パートタイム有期雇用労働法)についてわかりやすく解説します

第2章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説②-第2章
第3章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説③-第3章

偉そうに断定的な表現で記載していますが「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(H31.1.30基発0130第1号・H31.1.30職発0130第6号・H31.1.30雇均発0130第1号・H31.1.30開発0130第1号)」という通達を読みやすくアレンジしただけです。


第1章 総 則
第1章は、本法の目的、短時間・有期雇用労働者の定義、事業主等の責務、国及び地方公共団体の責務等、第2章の短時間・有期雇用労働者対策基本方針や第3章及び第4章に規定する具体的措置に共通する基本的考え方を明らかにするものです。

1.1 目 的(第1条)

(目的)
第一条 この法律は、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性が増大していることに鑑み、短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

(1)趣旨
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート有期法」という)の目的は、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性が増大していることに鑑み、短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することにあります。

(2)パート有期法の対象
どのような雇用形態を選択しても納得が得られる待遇が受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにする観点から、行政指導、紛争の解決等も含めて一体的に対応するため、いわゆる非正規雇用労働者のうち、直接雇用である短時間労働者と有期雇用労働者がパート有期法の対象となります。

(3)主な用語の意味
① 「職業能力の開発及び向上等」の「等」には職業紹介の充実等(第21条)が含まれています。

② 「措置等を講ずる」の「等」には、事業主等に対する援助(第19条)、紛争の解決(第4章)及び雇用管理の改善等の研究等(第28条)が含まれています。

③ 「待遇の確保等」の「等」には、次のような内容が含まれています。
○ 短時間・有期雇用労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)。
○ 通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性を全ての短時間・有期雇用労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)。

④ 「あわせて経済及び社会の発展に寄与する」とは、少子高齢化労働力人口減少社会に入った我が国においては、短時間・有期雇用労働者について、通常の労働者と均衡のとれた待遇の確保や通常の労働者への転換の推進等を図ることは、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図ることとなるだけでなく、短時間・有期雇用労働者の意欲、能力の向上やその有効な発揮等による労働生産性の向上等を通じて、経済及び社会の発展に寄与することともなることを明らかにしたものです。

1.2 定 義(第2条)

(定義)
第二条 この法律において「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(当該事業主に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業主に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の一週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。
2 この法律において「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいう。
3 この法律において「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者及び有期雇用労働者をいう。

(1)趣旨
パート有期法の対象となる短時間労働者及び有期雇用労働者の定義を定めています。

(2)雇用形態の該当性
短時間労働者や有期雇用者の該当性は、パートタイマー、アルバイト、契約社員など名称には左右されません。したがって、例えば名称が「パートタイマー」であっても、当該事業主に雇用される通常の労働者と同一の所定労働時間である場合には、パート有期法の対象となる短時間労働者には該当しません。ただし、このような場合でも、有期雇用労働者に該当する場合には、有期雇用労働者として対象となります。
なお、派遣労働者については、派遣先においてこの法律が適用されることはありませんが、別途、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(。以下「労働者派遣法」という。)により、就業に関する条件の整備が図られています。

(3)通常の労働者
第2条の「通常の労働者」とは、社会通念に従い、比較の時点で当該事業主において「通常」と判断される労働者のことをいいます。そして、当該「通常」の概念については、就業形態が多様化している中で、いわゆる「正規型」の労働者が事業所や特定の業務には存在しない場合も出てきているため、ケースに応じて個別に判断をすべきものとされています。具体的には、「通常の労働者」とは、いわゆる正規型の労働者及び事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者(以下「無期雇用フルタイム労働者」という。)のことをいいます。また、パート有期法が業務の種類ごとに短時間労働者を定義していることから、「通常」の判断についても業務の種類ごと行われます。なお、業務の種類については、『厚生労働省編職業分類』の細分類の区分等を参考にし、個々の実態に即して判断されます。
この場合において、いわゆる正規型の労働者とは、労働契約の期間の定めがないことを前提として、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等(例えば、長期雇用を前提とした待遇を受けるものであるか、賃金の主たる部分の支給形態、賞与、退職金、定期的な昇給又は昇格の有無)を総合的に勘案して判断されることになります。また、無期雇用フルタイム労働者とは、その業務に従事する無期雇用労働者(事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者をいう。以下同じ。)のうち、1週間の所定労働時間が最長の労働者をいいます。したがって、いわゆる正規型の労働者の全部又は一部が、無期雇用フルタイム労働者にも該当する場合があります。

(4)「予定労働時間が短い」の意味
「所定労働時間が短い」とは、わずかでも短ければ該当するもので、例えば通常の労働者の所定労働時間と比べて1割以上短くなければならないといった基準はありません。

(5)短時間労働者である否かの判定
短時間労働者であるか否かの判定は、具体的には以下の基準に従って判断されます。
① 同一の事業主における業務の種類が1つの場合
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となります。(第2条第1項括弧書以外の部分。図の1-(1)から1-(3)まで)。
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② 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合
原則として、同種の業務に従事する1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となります。(第2条第1項括弧書。図の2-(1))。
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③ 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいない場合
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となります。(第2条第1項括弧書以外の部分。図2-(2)のC業務)。
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④ 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合であって、同種の業務に従事する通常の労働者以外の者が当該業務に従事する通常の労働者に比べて著しく多い場合(当該業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間が他の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間のいずれよりも長い場合を除く。)
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い当該業務に従事する者が短時間労働者となります。(第2条第1項括弧書中厚生労働省令で定める場合(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則第1条)。図の2-(3)のB業務)。
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(法第二条の厚生労働省令で定める場合)
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則第一条 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「法」という。)第二条の厚生労働省令で定める場合は、同一の事業所に雇用される通常の労働者の従事する業務が二以上あり、かつ、当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する労働者の数が当該通常の労働者の数に比し著しく多い業務(当該業務に従事する通常の労働者の一週間の所定労働時間が他の業務に従事する通常の労働者の一週間の所定労働時間のいずれよりも長い場合に係る業務を除く。)に当該事業所に雇用される労働者が従事する場合とする。

これは、たまたま同種の業務に従事する通常の労働者がごく少数いるために、そのような事情がなければ一般には短時間労働者に該当するような者までもが短時間労働者とならないことを避ける趣旨ですので、適用に当たって同種の業務に従事する通常の労働者と、当該事業主における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者の数を比較する際には、同種の業務において少数の通常の労働者を配置する必然性等から、事業主に短時間労働者としての法の適用を逃れる意図がないかどうかを考慮すべきものとされています。

この判断基準は、労働者の管理については、その従事する業務によって異なっていることが通常と考えられることから、短時間労働者であるか否かを判断しようとする者が従事する業務と同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合は、その労働者と比較して判断することとしたものです。なお、同種の業務の範囲を判断するに当たっては、『厚生労働省編職業分類』の細分類の区分等を参考にし、個々の実態に即して判断されます。

(6)短時間労働者の定義に係る用語の意義はそれぞれ次のとおりとされています。
① 「1週間の所定労働時間」を用いるのは、短時間労働者の定義が、雇用保険法等労働関係法令の用例を見ると1週間を単位としていることにならったものです。この場合の1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り原則として日曜日から土曜日までの暦週をいいます。ただし、変形労働時間制が適用されている場合や所定労働時間が1月、数箇月又は1年単位で定められている場合などには、次の式によって当該期間における1週間の所定労働時間として算出します。

     (当該期間における総労働時間)÷((当該期間の暦日数)/7)

なお、日雇労働者のように1週間の所定労働時間が算出できないような者は、短時間労働者としてはパート有期法の対象となりませんが、有期雇用労働者として対象となります。ただし、日雇契約の形式をとっていても、明示又は黙示に同一人を引き続き使用し少なくとも1週間以上にわたる定形化した就業パターンが確立し、上記の方法により1週間の所定労働時間を算出することができる場合には、短時間労働者として対象となります。

② 「事業主」を単位として比較することとしていることの趣旨は、第8条に統合された整備法による改正前の労働契約法第20条において、事業主を単位として、期間の定めのある労働契約を締結している労働者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者との間の不合理と認められる労働条件の相違を禁止していたこと、及び同一の事業所には待遇を比較すべき通常の労働者が存在しない場合があるなど、事業所を単位とすると、十分に労働者の保護を図ることができない場合が生じていると考えられているためです。

(7)有期雇用者
「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます。(第2条第2項)

(8)短時間・有期雇用労働者
「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者及び有期雇用労働者をいいます。(第2条第3項)。

1.3 基本的理念(第2条の2)

(基本的理念)
第二条の二 短時間・有期雇用労働者及び短時間・有期雇用労働者になろうとする者は、生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができる機会が確保され、職業生活の充実が図られるように配慮されるものとする。

短時間・有期雇用労働者としての就業は、労働者の多様な事情を踏まえた柔軟な就業のあり方として重要な意義を有していますが、短時間・有期雇用労働者の職務の内容が意欲や能力に見合ったものでない場合、待遇に対する納得感や、意欲及び能力の有効な発揮が阻害されるほか、短時間・有期雇用労働者としての就業を実質的に選択することができないこととなりかねません。
そこで、本条は、短時間・有期雇用労働者としての就業が、柔軟な就業のあり方という特長を保ちつつ、労働者の意欲及び能力が有効に発揮できるものとなるべきであるとの考えのもと、短時間・有期雇用労働者及び短時間・有期雇用労働者になろうとする者が、生活との調和を保ちつつその意欲や能力に応じて就業することができる機会が確保されるべきことを基本的理念として明らかにしています。また、あわせて、短時間・有期雇用労働者が充実した職業生活を送れるようにすることが、社会の活力を維持し発展させていくための基礎となるとともに、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図る上でも不可欠であることに鑑み、その職業生活の充実が図られるような社会を目指すべきであることから、その旨についても基本的理念としています。
 本条の基本的理念は、次条の事業主等の責務やこれらを踏まえた第3章第1節の各種措置等とあいまって、短時間・有期雇用労働者という就業のあり方を選択しても納得が得られる待遇が受けられ、多様な働き方を自由に選択できる社会の実現を図るものです。

1.4 事業主等の責務(第3条)

(事業主等の責務)
第三条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、その就業の実態等を考慮して、適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換(短時間・有期雇用労働者が雇用される事業所において通常の労働者として雇い入れられることをいう。以下同じ。)の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとする。
2 事業主の団体は、その構成員である事業主の雇用する短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関し、必要な助言、協力その他の援助を行うように努めるものとする。

1.4.1 基本的考え方

労働者の待遇をどのように設定するかについては、基本的には契約自由の原則にのっとり、個々の契約関係において当事者の合意により決すべきものですが、現状では、短時間・有期雇用労働者の待遇は必ずしもその働きや貢献に見合ったものとなっていないほか、他の雇用形態への変更が困難であるといった状況も見られます。
このような中では、短時間・有期雇用労働者の待遇の決定を当事者間の合意のみに委ねていたのでは短時間・有期雇用労働者は「低廉な労働力」という位置付けから脱することができないと考えられており、それでは、少子高齢化労働力人口減少社会において期待されている短時間・有期雇用労働者の意欲や能力の有効な発揮がもたらされるような公正な就業環境を実現することは難しくなります。
 そこで、パート有期法は、第1条に定める法の目的である「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができる」ことを実現するために、短時間・有期雇用労働者の適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)について、事業主が適切に措置を講じていく必要があることを明らかにするため、第3条において、短時間・有期雇用労働者について、その就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとすることを事業主の責務としています。
 第3章以下の事業主の講ずべき措置等に関する規定は、この第3条の事業主の責務の内容として、目的を達成するために特に重要なものを明確化したものです。また、第15条に基づき定める短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインについては、当該責務に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要なものを具体的に記述しています。
なお、本条で用いられている各用語の意義は次のとおりです。

① 短時間・有期雇用労働者の就業の実態等
第3条において考慮することとされている「その就業の実態等」の具体的な内容としては、短時間・有期雇用労働者の「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」、経験、能力、成果、意欲等をいいます。

② 雇用管理の改善等に関する措置等
「雇用管理の改善等に関する措置等」とは、第3章第1節に規定する「雇用管理の改善等に関する措置」と、法第22条に規定する苦情の自主的解決に努める措置をいいます。

③ 通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等
パート有期法は、短時間・有期雇用労働者について、就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇を確保することを目指していますが、これは、一般に短時間・有期雇用労働者の待遇が通常の労働者と比較して働きや貢献に見合ったものとなっておらず低くなりがちであるという状況を前提として、通常の労働者との均衡(バランス)をとることを目指した雇用管理の改善を進めていくという考え方をとっています。
通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の「均衡のとれた待遇」は、就業の実態に応じたものとなりますが、その就業の実態が同じ場合には、「均等な待遇」を意味します。一方、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、就業の実態が異なる場合、その「均衡のとれた待遇」とはどのようなものであるかについては、一義的に決まりにくい上、待遇と言ってもその種類(賃金、教育訓練、福利厚生施設等)や性質・目的(職務の内容との関連性等)は一様ではありません。
そのような中で、事業主が雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図っていくため、第3章第1節においては、講ずべき措置を定めたものです。具体的には、第8条において、全ての短時間・有期雇用労働者の全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間を除く。)を対象に、その待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間で、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」及び「その他の事情」のうち、待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとするいわゆる均衡待遇規定を設けています。
また、第9条において、通常の労働者と職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である短時間・有期雇用労働者について、その全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間を除く。)を対象に、短時間・有期雇用労働者であることを理由として差別的取扱いをしてはならないとするいわゆる均等待遇規定を設けています。
その上で、第10条から第12条までにおいては、短時間・有期雇用労働者の就業の実態を踏まえつつ、賃金、教育訓練及び福利厚生施設の3つについて、それぞれ講ずべき措置を明らかにしています。法第11条第1項は、職務の内容が通常の労働者と同一であるという就業の実態や、職務との関連性が高い待遇であるといった事情を踏まえて具体的な措置の内容を明らかにしたもので、法第12条は、全ての通常の労働者との関係で普遍的に講ずべき措置の内容について明らかにしたものです。
一方、第10条及び第11条第2項については、就業の実態が多様な短時間・有期雇用労働者全体にかかる措置として、具体的に勘案すべき就業の実態の内容(職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験等)を明記しています。これらの勘案すべき就業の実態の内容を明記しているのは、これらの要素が通常の労働者の待遇の決定に当たって考慮される傾向にあるのとは対照的に、短時間・有期雇用労働者について十分に考慮されている現状にあるとは言い難く、短時間・有期雇用労働者についても、これらに基づく待遇の決定を進めていくことが公正であると考えられるためです。
また、「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等」の「等」としては、次のものが含まれます。
○ 短時間・有期雇用労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)
○ 通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性を全ての短時間・有期雇用労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)

1.4.2 基本的考え方均衡のとれた待遇の確保の図り方について

(1)基本的考え方
短時間・有期雇用労働者についての、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保に当たっては、短時間・有期雇用労働者の就業の実態等を考慮して措置を講じていくことになりますが、「就業の実態」を表す要素のうちから「職務の内容」及び「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」の2つを、第8条において通常の労働者との待遇の相違の不合理性を判断する際の考慮要素として例示するとともに、 第9条等において適用要件としています。これは、現在の我が国の雇用システムにおいては、一般に、通常の労働者の賃金をはじめとする待遇の多くがこれらの要素に基づいて決定されることが合理的であると考えられている一方で、短時間・有期雇用労働者については、これらが通常の労働者と全く同じ、又は一部同じであっても、所定労働時間が短い労働者であるということ、あるいは期間の定めがある労働契約を締結している労働者であるということのみを理由として待遇が低く抑えられている場合があることから、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保を図る際に、短時間・有期雇用労働者の就業の実態をとらえるメルクマールとして、これらの要素を特に取り上げています。
なお、第8条においては、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の待遇の相違の不合理性を判断する際の考慮要素として、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」のほかに、「その他の事情」を規定いますが、「その他の事情」については、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではなく、考慮すべきその他の事情があるときには考慮すべきとの意味です。

(2)職務の内容
「職務の内容」とは、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」をいい、労働者の就業の実態を表す要素のうちの最も重要なものです。

(3)業 務
「業務」とは、職業上継続して行う仕事のことをいいます。

(4)責任の程度
「責任の程度」とは、業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいいます。具体的には、授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)、業務の成果について求められる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度、ノルマ等の成果への期待の程度等を指しています。責任は、外形的にはとらえにくい概念ですが、実際に判断する際には、責任の違いを表象的に表す業務を特定して比較することが有効です。
また、責任の程度を比較する際には、所定外労働も考慮すべき要素の一つですが、これについては、例えば、通常の労働者には所定外労働を命ずる可能性があり、短時間・有期雇用労働者にはない、といった形式的な判断ではなく、実態として業務に伴う所定外労働が必要となっているかどうか等を見て、判断することとになります。例えば、トラブル発生時、臨時・緊急時の対応として、また、納期までに製品を完成させるなど成果を達成するために所定外労働が求められるのかどうかが実態として判断されます。
なお、ワークライフバランスの観点からは、基本的に所定外労働のない働き方が望ましく、働き方の見直しにより通常の労働者も含めてそのような働き方が広まれば、待遇の決定要因として所定外労働の実態が考慮されること自体が少なくなっていくものと考えられます。

(5)職務の内容が同一であることの判断手順
「職務の内容」については、第8条において考慮され得るとともに、第9条等の適用に当たって、通常の労働者と短時間労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要です。職務の内容の同一性については、具体的には以下の手順で比較していくこととなりますが、  「職務の内容が同一である」とは、個々の作業まで完全に一致していることを求めるものではなく、それぞれの労働者の職務の内容が「実質的に同一」であることを意味します。したがって、具体的には、「業務の内容」が「実質的に同一」であるかどうかを判断し、その後に「責任の程度」が「著しく異なって」いないかを判断することになります。
まず、第一に、業務の内容が「実質的に同一」であることの判断に先立って、「業務の種類」が同一であるかどうかをチェックします。これは、『厚生労働省編職業分類』の細分類を目安として比較し、この時点で異なっていれば、「職務内容が同一でない」と判断することとなります。
一方、業務の種類が同一であると判断された場合には、次に、比較対象となる通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の職務を業務分担表、職務記述書等により個々の業務に分割し、その中から「中核的業務」と言えるものをそれぞれ抽出します。
「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、当該職務を代表する中核的なものを指し、以下の基準に従って総合的に判断します。
 ○ 与えられた職務に本質的又は不可欠な要素である業務
 ○ その成果が事業に対して大きな影響を与える業務
 ○ 労働者本人の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について、抽出した「中核的業務」を比較し、同じであれば、業務の内容は「実質的に同一」と判断し、明らかに異なっていれば、業務の内容は「異なる」と判断します。なお、抽出した「中核的業務」が一見すると異なっている場合には、当該業務に必要とされる知識や技能の水準等も含めて比較した上で、「実質的に同一」と言えるかどうかを判断します。
 ここまで比較した上で業務の内容が「実質的に同一である」と判断された場合には、最後に、両者の職務に伴う責任の程度が「著しく異なって」いないかどうかをチェックします。そのチェックに当たっては、「責任の程度」の内容に当たる以下のような事項について比較します。
○ 授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範 囲等)
○ 業務の成果について求められる役割
 ・トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度
 ・ノルマ等の成果への期待の程度
 ・上記の事項の補助的指標として所定外労働の有無及び頻度
この比較においては、例えば管理する部下の数が一人でも違えば、責任の程度が異なる、といった判断をするのではなく、責任の程度の差異が「著しい」といえるものであるかどうかを判断します。
なお、いずれも役職名等外見的なものだけで判断せず、実態を見て比較します。
以上の判断手順を経て、「業務の内容」及び「責任の程度」の双方について、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とが同一であると判断された場合が、「職務の内容が同一である」ことになります。

(6)「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことについて
① 「職務の内容及び配置の変更の範囲」
現在の我が国の雇用システムにおいては、長期的な人材育成を前提として待遇に係る制度が構築されていることが多く、このような人材活用の仕組み、運用等に応じて待遇の違いが生じることも合理的であると考えられています。この法律は、このような実態を前提として、人材活用の仕組み、運用等を、均衡待遇を推進する上での考慮要素又は適用要件の一つとして位置付けています。人材活用の仕組み、運用等については、ある労働者が、ある事業主に雇用されている間にどのような職務経験を積むこととなっているかを見るものであり、転勤、昇進を含むいわゆる人事異動や本人の役割の変化等(以下「人事異動等」という。)の有無や範囲を総合判断するものですが、これを法律上の考慮要素又は適用要件としては「職務の内容及び配置の変更の範囲」と規定したものです。
「職務の内容の変更」と「配置の変更」は、現実にそれらが生じる際には重複が生じ得るものです。つまり、「職務の内容の変更」とは、配置の変更によるものであるか、そうでなく業務命令によるものであるかを問わず、職務の内容が変更される場合を指しています。
一方、「配置の変更」とは、人事異動等によるポスト間の移動を指し、結果として職務の内容の変更を伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。また、それらの変更の「範囲」とは、変更により経験する職務の内容又は配置の広がりを指すものです。
② 「同一の範囲」
職務の内容及び配置の変更が「同一の範囲」であるとの判断に当たっては、一つ一つの職務の内容及び配置の変更の態様が同様であることを求めるものではなく、それらの変更が及び得ると予定されている範囲を画した上で、その同一性を判断するものです。
例えば、ある事業所において、一部の部門に限っての人事異動等の可能性がある者と、全部門にわたっての人事異動等の可能性がある者とでは、「配置の変更の範囲」が異なることとなり、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が同一であるとは言えません。ただし、この同一性の判断は、「範囲」が完全に一致することまでを求めるものではなく、「実質的に同一」と考えられるかどうかという観点から判断します。

③ 「変更されることが見込まれる」
職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)の同一性を判断することについては、将来にわたる可能性についても見るものであるため、変更が「見込まれる」と規定されたものです。ただし、この見込みについては、事業主の主観によるものではなく、文書や慣行によって確立されているものなど客観的な事情によって判断されます。
また、例えば、通常の労働者の集団は定期的に転勤等があることが予定されているが、ある職務に従事している特定の短時間・有期雇用労働者についてはこれまで転勤等がなかったという場合にも、そのような形式的な判断だけでなく、例えば、同じ職務に従事している他の短時間・有期雇用労働者の集団には転勤等があるといった「可能性」についての実態を考慮して、具体的な見込みがあるかどうかで判断するものです。
なお、育児又は家族介護などの家族的責任を有する労働者については、その事情を配慮した結果として、その労働者の人事異動等の有無や範囲が他と異なることがあるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに当たって、そのような事情が考慮されます。考慮の仕方としては、例えば、通常の労働者や短時間・有期雇用労働者のうち、人事異動等があり得る人材活用の仕組み、運用等である者が、育児又は家族介護に関する一定の事由(短時間・有期雇用労働者についても通常の労働者と同じ範囲)で配慮がなされ、その配慮によって異なる取扱いを受けた場合、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに際しては、その取扱いについては除いて比較されることが考えられます。

(7)「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことの判断手順
「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことについては、第9条の適用に当たって、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要となります。第9条に関しては、この検証は、1.4.2(5)において示した手順により、職務の内容が同一であると判断された通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について行います。
まず、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について、配置の変更に関して、転勤の有無が同じかどうかを比較します。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなります。
次に、転勤が双方ともあると判断された場合には、全国転勤の可能性があるのか、エリア限定なのかといった転勤により移動が予定されている範囲を比較します。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなります。
転勤が双方ともない場合、及び双方ともあってその範囲が「実質的に」同一であると判断された場合には、事業所内における職務の内容の変更の態様について比較します。
まずは、職務の内容の変更(事業所内における配置の変更の有無を問わない。)の有無を比較し、この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなります。同じであれば、職務の内容の変更により経験する可能性のある範囲も比較し、異同を判断します。また、第8条における「職務の内容及び配置の変更の範囲」の異同についても、上記の観点から判断します。

1.4.3 事業主の団体の責務(第3条第2項)

短時間・有期雇用労働者の労働条件等については、事業主間の横並び意識が強い場合が多く、事業主の団体を構成している事業にあっては、事業主の団体の援助を得ながら構成員である複数の事業主が同一歩調で短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を進めることが効果的です。そこで、事業主の団体の責務として、その構成員である事業主の雇用する短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関し必要な助言、協力その他の援助を行うように努めることを明らかにしたものです。
 なお、これら事業主及び事業主の団体の責務を前提に、国は必要な指導援助を行うこととされ(第4条)、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主、事業主の団体その他の関係者に対して、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項についての相談及び助言その他の必要な援助を行うことができることとされています。(第19条)

1.5 国及び地方公共団体の責務(第4条)

(国及び地方公共団体の責務)
第四条 国は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等について事業主その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じてこれらの者に対し必要な指導、援助等を行うとともに、短時間・有期雇用労働者の能力の有効な発揮を妨げている諸要因の解消を図るために必要な広報その他の啓発活動を行うほか、その職業能力の開発及び向上等を図る等、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めるものとする。
2 地方公共団体は、前項の国の施策と相まって、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るために必要な施策を推進するように努めるものとする。

(1)国の責務(第4条第1項)
国は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等について、事業主その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じて必要な指導、援助等を行うとともに、短時間・有期雇用労働者の能力の有効な発揮を妨げている諸要因の解消を図るために必要な広報その他の啓発活動を行うほか、その職業能力の開発及び向上等を図る等、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めるものとされています。
具体的内容は、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインの策定、事業主に対する報告徴収、助言、指導、勧告及び公表、調停の実施を含む紛争の解決の援助、啓発活動の実施、事業主等に対する援助の実施、職業訓練の実施、職業紹介の充実等です。

(2)地方公共団体の責務(第4条第2項)
地方公共団体は、国の施策と相まって短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るために必要な施策を推進するように努めるものとされています。
 具体的内容は、広報啓発活動、職業能力開発校等における職業訓練の実施、労政事務所等における講習等の開催等です。

続き

第2章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説②-第2章
第3章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説③-第3章