社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】日立メディコ事件 最一小判昭和61.12.4労判486号6頁

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日立メディコ事件 最一小判昭和61.12.4労判486号6頁

 

参照法条 : 労働基準法2章、民法629条
裁判年月日 : 1986年12月4日
裁判所名 : 最高一小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和56年 (オ) 225

 

1.事件の概要

 Xは、昭和45年12月1日から同月20日までの期間を定めてY社の柏工場に臨時員として雇用され、同月21日以降、期間2か月の労働契約が5回更新されてきたが、Y社は不況に伴う業務上の都合を理由に、昭和46年10月21日以降の契約の更新を拒絶した。
Y社の柏工場の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当たっては学科試験や技能試験等は行わず簡易は方法で採用を決定していた。Y社は、臨時員の契約更新に当たっては、更新契約の約1週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4.雇用期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていたものであり、XとY社との間の5回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度、新たな契約を更新する旨を合意することによってされてきたものである。
なお、Y社は雇止めをXら臨時員等に告知した際、柏工場の業績悪化等を説明した上で、希望者には就職先の斡旋をすることを告げたが、Xはそれを希望しなかった。
XはY社を相手取り、労働契約上の従業員としての地位確認を求めて提訴したのが、本件である。
第一審(千葉地松戸支判昭和52.1.27労民集31巻6号1253頁)では、採用時に契約期間の明示がなく、契約更新は預けていた印鑑を用いて事務員が行っていたとして、本件契約を期間の定めのない契約とし、更新拒否を端的に解雇とみて、解雇権の濫用を認定した。これに対し、第二審(東京高判昭和55.12.16労判354号35頁)では、更新が本人の意思を確認して行われたとし、「転化説」および「状態説」のいずれも排斥し、さらに、本工との間で解雇について合理的差異があるとして、解雇を有効とした。

 

2.判決の概要

 本件労働契約の期間の定めを民法第90条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によって、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいはXとY社との間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできない。
柏工場の臨時員は、季節的な労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推されるが、臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。
独立採算制が採られているY社の柏工場において、事業場やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当、不合理であるということはできず、希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。

 

3.解説

 期間の定めのない契約と実質的に異ならない場合に、有期雇用の複数回更新後の雇止めについては、期間の定めのない契約に転化するという考え方(転化説)、実質的には期間の定めのない契約とみて、解雇法理を類推適用する考え方(状態説)に分かれていたが、有期契約が期間の定めのない契約と実質的に同視できない場合でも,作業内容・更新回数などから雇用継続が期待されていた場合には,解雇権濫用法理の類推があり得ることを最高裁が示した判例
また、整理解雇に当たり、有期契約の労働者を正規従業員に先立って雇止めすることを認める見解も示している。

 

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