社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【休職】JR東海事件(大阪地判平11.10.4労判771号25頁)

JR東海事件(大阪地判平11.10.4労判771号25頁)

1.事件の概要

鉄道事業を営むY社の従業員で、車両の整備業務等に従事してきたXは、脳内出血で倒れ私傷病欠勤となり、欠勤日数が180日を超えたので、就業規則に基づき病気休暇を命じられた。就業規則では、病気休暇の期間は3年以内であり、期間満了時に復職できない場合には、退職すると定められていた。Xの休職期間は3年となったところ、Xは復職の意思を表示してきたが、Y社内の判定委員会は復帰不可能と判定し、Y社はその判定に基づきXを退職扱いとした。そこで、Xは、この退職扱いは違法であるとして従業員としての地位確認等を求めて訴えを提起した。

2.判決の概要

労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前に業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。

身体障害等によって、従前の業務に対する労務提供を十全にはできなくなった場合に、他の業務においても健常者と同じ密度と速度の労務提供を要求すれば労務提供が可能な業務はあり得なくなるのであって、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業の規模や社員の配置、異動の可能性、職務分担、変更の可能性から能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきであり、Y社においても、例えば重量物の取り扱いを除外したり、仕事量によっては複数の人員を配置して共同して作業させ、また工具等の現実の搬出搬入は貸し出しを受ける者に担当させるなどが考えられ、Y社の企業規模から見て、Y社がこのような対応を取り得ない事情は窺えない。そうであれば、少なくとも工具室における業務についてXを配置することは可能である。


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【雇止め】伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件(高松高判平18.5.18労判921号33頁)

伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件(高松高判平18.5.18労判921号33頁)

1.事件の概要

Xは、派遣会社Y1社の登録型の派遣労働者であり、Y1社の株式の100%を保有するY2銀行のA支店で、昭和62年5月から業務に従事していた。XとY1社との間の労働契約の期間は6か月であり、平成12年5月末まで更新されてきた(Xは訴外B社に採用され、その後、Y1社がB社の派遣事業部門の事業譲渡を受けて、Xとの労働契約も承継している)。Xは、平成10年頃から、Y2銀行のA支店に赴任してきた上司と折り合いが悪くなり、次第にその関係が悪化した。Y2銀行は、Y1社との労働者派遣契約は更新しないこととし、Y1社は、同12年5月31日に、Xとの労働契約の更新を拒絶して雇止めした。
Xは、この雇止めは権利濫用であるとし、また、XとY2銀行との間には、黙示の労働契約が成立しているとしてY1社およびY2銀行に対し、労働契約上の地位確認等を求めて訴えを提起した。1審は、Xの請求を棄却したため、Xが控訴したのが本件である。

2.判決の概要

雇止めとなった当時、XがA支店への派遣による雇用継続について強い期待を抱いていたことは明らかというべきである。しかし、派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも立法目的とし、派遣期間の制限規定をおくなどして両目的の調和を図っているところ、同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない。そうすると、上記のようなXの雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえないと解される。

派遣労働者と派遣先との間に黙示の雇用契約が成立したといえるためには、単に両者の間に事実上の使用従属関係があるというだけではなく、諸般の事情に照らして、派遣労働者が派遣先の指揮命令のものに派遣先に労務を供給する意思を有し、これに関し、派遣先がその対価として派遣労働者に賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、両者間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在することが必要である
本件では、XがY2銀行の指揮命令のもとにY2銀行に労務を供給する意思を有し、これに関し、Y2銀行がその対価としてXに賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、XとY2銀行間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在したものとは、到底認めることができない。

Y1会社は、派遣元として必要な人的物的組織を有し、適切な業務運営に努めており、独立した企業としての実体を有し、派遣労働者の採用や、派遣先、就業場所、派遣対象業務、派遣期間、賃金その他就業条件の決定、派遣労働者の雇用管理等について、Y2銀行とは独立した法人として意思決定を行っており、Y1会社は、Y2銀行の第二人事部でもなければ、賃金支払代行機関でもない。
したがって、法人格否認の法理を適用しうる場合とは認められない。


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【退職勧奨】日本アイ・ビー・エム事件(東京高判平24.10.31労経速2172号3頁)

日本アイ・ビー・エム事件(東京高判平24.10.31労経速2172号3頁)

1.事件の概要

情報システムに関わる製品、サービスの提供等を業とするY社は、業績が低迷するなか、リーマン・ショックの影響も受けて、退職勧奨を行うこととした。この退職勧奨においては、①所定の退職金に加えて、加算金(特別支援金)として、月額給与額の最大で15か月分を支給する、②自ら選択した再就職支援会社から再就職支援を受ける、という特別支援プログラムを用意し、それを実施するためのRAプログラムを立ち上げた。Y社は、RAプログラムへの応募勧奨が退職強要とならないように、実施担当の管理職に対して、具体的方法についての講義や面接研修を実施していたが、他方で自覚と責任を持たせるため、応募者予定数の達成しかんでは、結果責任を問う趣旨とも受け取れる注意喚起を行っていた。
Y社の従業員であるXは、平成18年3月、うつ病を発症し、平成20年1月以降、在宅勤務を認められていた。なお、Y社の定年は60歳で、Xの60歳の誕生日は、平成22年5月29日であったため、平成20年10月から1年7か月後には定年退職の予定であった。
Xは、業績評価が相対的に低いことと、定年退職を控え、健康面での不安を抱えながら就労していることを主要な理由として、RAプログラムの対象者となり、平成20年10月28日、上司との面談で、特別支援プログラムに応募するよう求められたが、Xは60歳の定年まで勤めたい旨返答した。同年11月13日、再び面談があり、上司は、RAプログラムの対象とすることを断念して、業務改善を求めるメールをXに送ったが、Xはこれにも反発した。
Xは、Y会社の退職勧奨は、Xの自由な意思決定を不当に制約するとともに、Xの名誉感情等の人格的利益を侵害した違法な退職強要であり、Xは精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、330万円の支払い等を求めて訴えを提起した。なお、本件では、X以外にRAプログラムの対象となり、退職勧奨を受けた3名の原告がいる。1審は、Xの請求を棄却したので、Xは控訴した。

2.判決の概要

労働契約は、一般に使用者と労働者が、自由な意思で合意解約することができるから、基本的に、使用者は、自由に合意解約の申入れをすることができるというべきであるが、労働者も、その申入れに応ずべき義務はないから、自由に合意解約に応じるか否かを決定することができなければならない。したがって、使用者が労働者に対し、任意退職に応じるよう促し、説得等を行うこと(以下、このような促しや説得等を『退職勧奨』という。)があるとしても、その説得等を受けるか否か、説得等に応じて任意退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであり、退職勧奨は、その自由な意思形成を阻害するものであってはならない。
したがって、退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべである。


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【解雇】セガ・エンタープライゼス事件(東京地判平11.10.15労判770号34頁)

セガ・エンタープライゼス事件(東京地判平11.10.15労判770号34頁)

1.事件の概要

Xは、Y社において、人材開発部人材教育課、企画制作部企画制作一課、開発業務部国内業務課等の部署に次々と異動を命じられたが、その後、所属部署から、与える仕事がないと通告され、他の部署での仕事も見つからなかったので、退職勧告を受けた。Xはこの退職勧告を受け入れなかったため、Y社は、就業規則19条1項2号の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由にあたるとしてXを解雇した。なお、Xの人事考課の順位は下位10%未満であり、Xと同じ効果結果の従業員は、約3500名の従業員のうち200名であった。
これに対して、Xが、解雇は無効であるといsて、従業員としての地位保全等の仮処分を申請したのが本件である。

2.判決の概要

Xが、Y社の従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。・・・(中略)就業規則19条1項各号に規定する解雇事由をみると、『精神又は身体の障害により業務に堪えないとき』、『会社の経営上やむを得ない事由があるとき』など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、2号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、2号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。
Xについて、検討するに、確かに・・・(中略)平均的な水準に達しているとはいえないし、Y社の従業員の中で下位10パーセント未満の考課順位ではある。しかし、・・・(中略)右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。・・・(中略)就業規則19条1項2号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできないからである。
Y社としては、Xに対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり、・・・(中略)、いまだ『労働能率が劣り、向上の見込みがない』ときに該当するとはいえない。
したがって、本件解雇は、権利の濫用に該当し、無効である。


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二以上勤務者の社会保険料の計算~ポイントとなる視点とは

二以上勤務者の社会保険料の計算~ポイントとなる視点とは

二以上勤務者は、関係会社間の役員兼務など何らかの関係のある会社間で行われる実例が多いですが、
他社の報酬月額は年金機構から発行される「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」を通じてしかわからない
という視点をもって理解することが大切です。(この視点を持たずに、「算定基礎届は他の事業所の報酬月額を合算して提出する」といったような誤った理解をする人もいます。)

1.二以上勤務者の社会保険料の決定方法

二以上勤務者の社会保険料は、次の例のように決定されます。

年齢:25歳

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:267,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:133,000円

(1)標準報酬月額の決定

標準報酬月額は、報酬月額を合算した額を標準報酬月額表に当てはめます。

この例では、A社とB社の報酬月額を合算すると、267,000円+133,000円=400,000円 となり、この400,000円を標準報酬月額表に当てはめると、395,000円~425,000円の範囲で標準報酬月額は410,000円となります。

(2)適用される保険料率

健康保険料率は各県毎に異なりますが、二以上勤務者の場合は選択事業所の属する都道府県(健康保険証に記載される協会けんぽ支部)の保険料率が適用されます。なお、厚生年金の保険料は全国共通です。
ここでは、令和1年7月の保険料を計算するものとすると、適用事業所は東京都であるため、健康保険料率9.9%、厚生保険料率18.3%が適用され、

    健康保険保険料=410,000円×9.9%=40,590円

    厚生年金保険料=410,000円×18.3%=75,030円

となります。

(3)各事業所の保険料

各事業所の保険料は、(2)で計算される保険料を報酬月額で按分した額となります。各事業所の報酬月額を標準報酬月額表に当てはめた標準報酬月額で按分するのではありませんのでご注意ください。
従って、各社の保険料は次のとおりとなります。

    A社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{267,000円}{267,000円+133,000円}=27,093.8円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{267,000円}{267,000円+133,000円}=50,082.52円


    B社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{133,000円}{267,000円+133,000円}=13,496.1円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{133,000円}{267,000円+133,000円}=24,947.47円

※なお、健康保険保険料は小数点以下1桁まで、厚生年金保険料は小数点以下2桁まで利用します。最終的には、事業所の全従業員分を加算して1円未満を切り捨てた金額を事業主は納付することになります。ついでいえば、本人負担分(給与控除額)は、保険料額を2で割り端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げて1円とします。(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律

2.随時改定

(1)随時改定の考え方

二以上勤務者の標準報酬月額は、各事業所の報酬月額を合算して年金機構が決定しますが、随時改定が必要かどうかの判断は、各事業所の報酬月額を標準報酬月額表に当てはめて判断します。
標準報酬月額の決定が合算された報酬月額を基に行うのに、随時改定については各事業所の報酬月額で判断するのは違和感があるところですが、これについても「他社の報酬月額は年金機構から発行される「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」を通じてしかわからない」という視点から考えると理解できます。各事業所で随時改定に該当するか判断しようと思っても、現時点における他社の報酬月額を知り得ないなら、合算した報酬月額を計算すること自体が不可能だからです。

(2)随時改定の例

1.で計算した例を用いて、実際に随時改定をどう判断するのかを見てみます。

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:267,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:133,000円

A社で令和1年9月の昇給で、報酬月額が290,000円になり、9月・10月・11月の3か月とも同額であったとします。
A社における従前の等級は、

   報酬月額267,000円  標準報酬月額260,000円 健康保険20等級  厚生年金17等級

でしたが、9月の昇給により9月~11か月の報酬月額の平均を求めて、標準報酬月額に当てはめると、

   平均報酬月額290,000円  標準報酬月額300,000円 健康保険22等級  厚生年金19等級

となるため、2等級以上の変動となり随時改定(12月月変)に該当とすると判断することになります。
ちなみに、A社では知りえないB社の9月~11月報酬月額を133,000円と仮定し合算すると、随時改定に該当しないと判断されますが、これは誤りです。(月変漏れの発生)

次に、この場合の保険料の算定を見ていきます。
まず、B社は、A社の昇給の事実を知り得ませんので、何も手続は行われません。そのため年金機構では、B社の報酬月額を以前届出(例えば、資格取得や算定基礎届等)があった133,000円として、1.と同様に按分して保険料を計算します。
具体的には、次のとおりとなります。

まず、A社からの月額変更届に記載された平均報酬月額とB社の報酬月額を合算して、標準報酬月額表に当てはめます。
合算すると、290,000円+133,000円=423,000円 となり、この423,000円を標準報酬月額表に当てはめると、395,000円~425,000円の範囲で標準報酬月額は410,000円となります。
合算して求められる標準報酬月額にはこのように変動はありませんが、保険料は次のように計算され、A社及びB社とも保険料は変更となります。


    A社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{290,000円}{290,000円+133,000円}=27,827.6円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{290,000円}{290,000円+133,000円}=51,439.00円


    B社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{133,000円}{290,000円+133,000円}=12,762.3円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{133,000円}{290,000円+133,000円}=23,590.99円

※なお、B社では、ある日突然、年金機構から「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」が送られて来て保険料の変更を知らされることになります。

3.報酬月額139万円以上の場合の扱い

今度は次のような場合の社会保険料を考えてみます。

年齢:25歳

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:1,500,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:500,000円

合算報酬月額:2,000,000円なので、健康保険標準報酬月額1,390,000円、健康保険標準報酬月額620,000円となりますので、各社の令和1年8月の保険料は次のようになります。

    A社
        健康保険保険料= 1,390,000円×9.9%×\frac{1,500,000円}{1,500,000円+500,000円}=103,207.5円

        厚生年金保険料= 620,000円×18.3%×\frac{1,500,000円}{1,500,000円+500,000円}=85,095.00円


    B社
        健康保険保険料= 1,390,000円×9.9%×\frac{500,000円}{1,500,000円+500,000円}=34,402.5円

        厚生年金保険料= 620,000円×18.3%×\frac{500,000円}{1,500,000円+500,000円}=28,365.00円


さて、ここでA社の報酬月額が令和1年9月に3,000,000円と2倍になったとします。
150万円も報酬が上がればが2等級以上の変動になるでしょうから、随時改定の対象になるかと思われますが、従前の報酬月額が150万円で既に最高等級を超えていますので、A社だけで見て等級の変更はなく、随時改定には該当しません。
しかし、保険料の按分率は大幅に変動するため( \frac{3}{4}  ⇒ \frac{6}{7} )、保険料負担の公平性の観点からすれば、年金機構に対して何らかの届出をして保険料を変更してもらう必要がありそうです。

実際にこのような例があり、年金機構に確認したところ、特に届出は必要無いとのことでした。
随時改定に該当して月額変更届を提出された場合には保険料が変わりますが、随時改定に該当しなければ報酬月額がいくら変動しても特に届出の必要は無く、直近の算定基礎届の提出まで(直近の9月分の保険料)、保険料は変更されません。

なお、令和2年2月より、二以上勤務者についても、選択事業所の所在地を管轄する事務センターへの提出が可能となりました。
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特別の配慮を要する者に対する配慮(平6.1.4基発1号、平11.3.31基発168号)


特別の配慮を要する者に対する配慮(平6.1.4基発1号、平11.3.31基発168号)

使用者は、1か月単位の変形労時間制及び1週間単位の非定型的変形労働時間制と同様、1年単位の変形労働時間制の下で労働者を労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練又は教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならないこととされていること(労働基準法施行規則第12条の6)。その場合に、労働基準法67条の規定は、あくまでも最低基準を定めたものであるので、労働基準法66条第1項の規定による請求をせずに変形労働時間が8時間を超える場合には、具体的状況に応じ法定以上の育児時間を与えることが望ましいものである。

労働基準法施行規則第12条の6 使用者は、法第三十二条の二、第三十二条の四又は第三十二条の五の規定により労働者に労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練又は教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならない。

労働基準法第66条 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。

(育児時間)
労働基準法第67条 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
2 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。

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法定労働時間の総枠を超える割増賃金(平6.5.31基発330号・平9.3.25基発195号)

法定労働時間の総枠を超える割増賃金(平6.5.31基発330号・平9.3.25基発195号)


1年単位の変形労働時間制において、変形期間を52週とした場合、法定労働時間の総枠は、40時間×52週=2,080時間となるが、この総枠を超える労働が行われたか否かは、変形期間終了まで確定しないこととなる。

① 上記の場合、変形期間を通じた法定労働時間の総枠を超える労働時間に係る割増賃金は、変形期間終了後にまとめて支払えばよいのか。

② この場合の時効の起算日は、いつの時点となるのか。


① 変形期間を通じた法定労働時間の総枠を超える労働時間に係る割増賃金については、一般的に変形期間終了時点で初めて確定するものであり、その部分については、変形期間終了直後の賃金支払期日に支払えば足りる。
なお、例えば、変形期間終了1か月前に労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合などのように変形期間の終了を待たずに法定労働時間の総枠を超えた場合についてはこの限りではないこと。

② 変形期間終了時に確定する割増賃金については、当該変形期間終了直後の賃金支払期日が時効の起算日となる。


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1年単位の変形労働時間制において時間外労働となる時間(平6.1.4基発1号・平9.3.25基発195号)

1年単位の変形労働時間制において時間外労働となる時間(平6.1.4基発1号・平9.3.25基発195号)~法第37条の規定の適用を受ける時間

1年単位の変形労働時間制を採用した場合に時間外労働となるのは、次の時間であること。

① 1日について、労働協定により8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を超えて、それ以外の日は8時間を超えて労働させた時間

② 1週間については、労使協定により40時間を超える労働時間を定めた週はその時間を超えて、それ以外の週は40時間を超えて労働させた時間(①で時間外労働となる時間を除く。)

③ 変形期間の全期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く。)

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1年単位の変形期間における所定労働時間の総枠(平6.1.4基発1号・平9.3.15基発195号)

1年単位の変形期間における所定労働時間の総枠(平6.1.4基発1号・平9.3.15基発195号)

1年単位の変形労働時間制は、週40時間労働制を前提とする制度であり、変形期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えない定めをすることが要件とされているが、その趣旨は、変形期間における労働時間の合計を次の式によって計算される時間の範囲内とすることが必要であるということ。


         40× \frac{変形期間の暦日数}{7}


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1年単位の変形労働時間制における労働日数の限度(平11.1.29基発45号)

1年単位の変形労働時間制における労働日数の限度(平11.1.29基発45号)

労働日数の限度が適用されるのは、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制に限られるものであること。
労働基準法施行規則第12条の4第3項の「対象期間について1年当たり」とは、具体低には、対象期間が3か月を超え1年未満である1年単位の変更労働時間制に関しては、当該対象期間における労働日数の限度は、次の式によって計算するという意味であること。

      対象期間における労働日数の限度=1年当たりの労働日数の限度× \frac{対象期間の暦日数}{365}


上記の式により計算して得た数が整数とならない場合の取扱いについては、「限度」である以上、労働日数がこの限度を超えることはできないこと(例えば、労働日数の限度が93.3日であれば労働日数を94日とすることはできないこと。)から、結果として、小数点以下の端数は切り捨てて適用することとなるものであること。
なお、対象期間がうるう日を含んでるか否かによって、対象期間における労働日数の限度及び上記の式に変更はないものであること。例えば、旧協定がない場合において対象期間を1年とするときは、労働日数の限度は常に280日であること。

労働基準法施行規則第12条の4第3項
法第三十二条の四第三項の厚生労働省令で定める労働日数の限度は、同条第一項第二号の対象期間(以下この条において「対象期間」という。)が三箇月を超える場合は対象期間について一年当たり二百八十日とする。ただし、対象期間が三箇月を超える場合において、当該対象期間の初日の前一年以内の日を含む三箇月を超える期間を対象期間として定める法第三十二条の四第一項の協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)(複数ある場合においては直近の協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)。以下この項において「旧協定」という。)があつた場合において、一日の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める一日の労働時間のうち最も長いもの若しくは九時間のいずれか長い時間を超え、又は一週間の労働時間のうち最も長いものが旧協定の定める一週間の労働時間のうち最も長いもの若しくは四十八時間のいずれか長い時間を超えるときは、旧協定の定める対象期間について一年当たりの労働日数から一日を減じた日数又は二百八十日のいずれか少ない日数とする。

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