社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【休職】JR東海事件(大阪地判平11.10.4労判771号25頁)

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JR東海事件(大阪地判平11.10.4労判771号25頁)

1.事件の概要

鉄道事業を営むY社の従業員で、車両の整備業務等に従事してきたXは、脳内出血で倒れ私傷病欠勤となり、欠勤日数が180日を超えたので、就業規則に基づき病気休暇を命じられた。就業規則では、病気休暇の期間は3年以内であり、期間満了時に復職できない場合には、退職すると定められていた。Xの休職期間は3年となったところ、Xは復職の意思を表示してきたが、Y社内の判定委員会は復帰不可能と判定し、Y社はその判定に基づきXを退職扱いとした。そこで、Xは、この退職扱いは違法であるとして従業員としての地位確認等を求めて訴えを提起した。

2.判決の概要

労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前に業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。

身体障害等によって、従前の業務に対する労務提供を十全にはできなくなった場合に、他の業務においても健常者と同じ密度と速度の労務提供を要求すれば労務提供が可能な業務はあり得なくなるのであって、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業の規模や社員の配置、異動の可能性、職務分担、変更の可能性から能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきであり、Y社においても、例えば重量物の取り扱いを除外したり、仕事量によっては複数の人員を配置して共同して作業させ、また工具等の現実の搬出搬入は貸し出しを受ける者に担当させるなどが考えられ、Y社の企業規模から見て、Y社がこのような対応を取り得ない事情は窺えない。そうであれば、少なくとも工具室における業務についてXを配置することは可能である。


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