社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【雇止め】伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件(高松高判平18.5.18労判921号33頁)

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伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件(高松高判平18.5.18労判921号33頁)

1.事件の概要

Xは、派遣会社Y1社の登録型の派遣労働者であり、Y1社の株式の100%を保有するY2銀行のA支店で、昭和62年5月から業務に従事していた。XとY1社との間の労働契約の期間は6か月であり、平成12年5月末まで更新されてきた(Xは訴外B社に採用され、その後、Y1社がB社の派遣事業部門の事業譲渡を受けて、Xとの労働契約も承継している)。Xは、平成10年頃から、Y2銀行のA支店に赴任してきた上司と折り合いが悪くなり、次第にその関係が悪化した。Y2銀行は、Y1社との労働者派遣契約は更新しないこととし、Y1社は、同12年5月31日に、Xとの労働契約の更新を拒絶して雇止めした。
Xは、この雇止めは権利濫用であるとし、また、XとY2銀行との間には、黙示の労働契約が成立しているとしてY1社およびY2銀行に対し、労働契約上の地位確認等を求めて訴えを提起した。1審は、Xの請求を棄却したため、Xが控訴したのが本件である。

2.判決の概要

雇止めとなった当時、XがA支店への派遣による雇用継続について強い期待を抱いていたことは明らかというべきである。しかし、派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも立法目的とし、派遣期間の制限規定をおくなどして両目的の調和を図っているところ、同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない。そうすると、上記のようなXの雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえないと解される。

派遣労働者と派遣先との間に黙示の雇用契約が成立したといえるためには、単に両者の間に事実上の使用従属関係があるというだけではなく、諸般の事情に照らして、派遣労働者が派遣先の指揮命令のものに派遣先に労務を供給する意思を有し、これに関し、派遣先がその対価として派遣労働者に賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、両者間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在することが必要である
本件では、XがY2銀行の指揮命令のもとにY2銀行に労務を供給する意思を有し、これに関し、Y2銀行がその対価としてXに賃金を支払う意思が推認され、社会通念上、XとY2銀行間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在したものとは、到底認めることができない。

Y1会社は、派遣元として必要な人的物的組織を有し、適切な業務運営に努めており、独立した企業としての実体を有し、派遣労働者の採用や、派遣先、就業場所、派遣対象業務、派遣期間、賃金その他就業条件の決定、派遣労働者の雇用管理等について、Y2銀行とは独立した法人として意思決定を行っており、Y1会社は、Y2銀行の第二人事部でもなければ、賃金支払代行機関でもない。
したがって、法人格否認の法理を適用しうる場合とは認められない。


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