社会保険労務士川口正倫のブログ

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二以上勤務者の社会保険料の計算~ポイントとなる視点とは

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二以上勤務者の社会保険料の計算~ポイントとなる視点とは

二以上勤務者は、関係会社間の役員兼務など何らかの関係のある会社間で行われる実例が多いですが、
他社の報酬月額は年金機構から発行される「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」を通じてしかわからない
という視点をもって理解することが大切です。(この視点を持たずに、「算定基礎届は他の事業所の報酬月額を合算して提出する」といったような誤った理解をする人もいます。)

1.二以上勤務者の社会保険料の決定方法

二以上勤務者の社会保険料は、次の例のように決定されます。

年齢:25歳

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:267,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:133,000円

(1)標準報酬月額の決定

標準報酬月額は、報酬月額を合算した額を標準報酬月額表に当てはめます。

この例では、A社とB社の報酬月額を合算すると、267,000円+133,000円=400,000円 となり、この400,000円を標準報酬月額表に当てはめると、395,000円~425,000円の範囲で標準報酬月額は410,000円となります。

(2)適用される保険料率

健康保険料率は各県毎に異なりますが、二以上勤務者の場合は選択事業所の属する都道府県(健康保険証に記載される協会けんぽ支部)の保険料率が適用されます。なお、厚生年金の保険料は全国共通です。
ここでは、令和1年7月の保険料を計算するものとすると、適用事業所は東京都であるため、健康保険料率9.9%、厚生保険料率18.3%が適用され、

    健康保険保険料=410,000円×9.9%=40,590円

    厚生年金保険料=410,000円×18.3%=75,030円

となります。

(3)各事業所の保険料

各事業所の保険料は、(2)で計算される保険料を報酬月額で按分した額となります。各事業所の報酬月額を標準報酬月額表に当てはめた標準報酬月額で按分するのではありませんのでご注意ください。
従って、各社の保険料は次のとおりとなります。

    A社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{267,000円}{267,000円+133,000円}=27,093.8円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{267,000円}{267,000円+133,000円}=50,082.52円


    B社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{133,000円}{267,000円+133,000円}=13,496.1円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{133,000円}{267,000円+133,000円}=24,947.47円

※なお、健康保険保険料は小数点以下1桁まで、厚生年金保険料は小数点以下2桁まで利用します。最終的には、事業所の全従業員分を加算して1円未満を切り捨てた金額を事業主は納付することになります。ついでいえば、本人負担分(給与控除額)は、保険料額を2で割り端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げて1円とします。(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律

2.随時改定

(1)随時改定の考え方

二以上勤務者の標準報酬月額は、各事業所の報酬月額を合算して年金機構が決定しますが、随時改定が必要かどうかの判断は、各事業所の報酬月額を標準報酬月額表に当てはめて判断します。
標準報酬月額の決定が合算された報酬月額を基に行うのに、随時改定については各事業所の報酬月額で判断するのは違和感があるところですが、これについても「他社の報酬月額は年金機構から発行される「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」を通じてしかわからない」という視点から考えると理解できます。各事業所で随時改定に該当するか判断しようと思っても、現時点における他社の報酬月額を知り得ないなら、合算した報酬月額を計算すること自体が不可能だからです。

(2)随時改定の例

1.で計算した例を用いて、実際に随時改定をどう判断するのかを見てみます。

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:267,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:133,000円

A社で令和1年9月の昇給で、報酬月額が290,000円になり、9月・10月・11月の3か月とも同額であったとします。
A社における従前の等級は、

   報酬月額267,000円  標準報酬月額260,000円 健康保険20等級  厚生年金17等級

でしたが、9月の昇給により9月~11か月の報酬月額の平均を求めて、標準報酬月額に当てはめると、

   平均報酬月額290,000円  標準報酬月額300,000円 健康保険22等級  厚生年金19等級

となるため、2等級以上の変動となり随時改定(12月月変)に該当とすると判断することになります。
ちなみに、A社では知りえないB社の9月~11月報酬月額を133,000円と仮定し合算すると、随時改定に該当しないと判断されますが、これは誤りです。(月変漏れの発生)

次に、この場合の保険料の算定を見ていきます。
まず、B社は、A社の昇給の事実を知り得ませんので、何も手続は行われません。そのため年金機構では、B社の報酬月額を以前届出(例えば、資格取得や算定基礎届等)があった133,000円として、1.と同様に按分して保険料を計算します。
具体的には、次のとおりとなります。

まず、A社からの月額変更届に記載された平均報酬月額とB社の報酬月額を合算して、標準報酬月額表に当てはめます。
合算すると、290,000円+133,000円=423,000円 となり、この423,000円を標準報酬月額表に当てはめると、395,000円~425,000円の範囲で標準報酬月額は410,000円となります。
合算して求められる標準報酬月額にはこのように変動はありませんが、保険料は次のように計算され、A社及びB社とも保険料は変更となります。


    A社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{290,000円}{290,000円+133,000円}=27,827.6円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{290,000円}{290,000円+133,000円}=51,439.00円


    B社
        健康保険保険料= 410,000円×9.9%×\frac{133,000円}{290,000円+133,000円}=12,762.3円

        厚生年金保険料= 410,000円×18.3%×\frac{133,000円}{290,000円+133,000円}=23,590.99円

※なお、B社では、ある日突然、年金機構から「二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬月額決定通知書」が送られて来て保険料の変更を知らされることになります。

3.報酬月額139万円以上の場合の扱い

今度は次のような場合の社会保険料を考えてみます。

年齢:25歳

A社(東京都・協会けんぽ・選択事業所)
報酬月額:1,500,000円

B社(神奈川県・協会けんぽ・非選択事業所)
報酬月額:500,000円

合算報酬月額:2,000,000円なので、健康保険標準報酬月額1,390,000円、健康保険標準報酬月額620,000円となりますので、各社の令和1年8月の保険料は次のようになります。

    A社
        健康保険保険料= 1,390,000円×9.9%×\frac{1,500,000円}{1,500,000円+500,000円}=103,207.5円

        厚生年金保険料= 620,000円×18.3%×\frac{1,500,000円}{1,500,000円+500,000円}=85,095.00円


    B社
        健康保険保険料= 1,390,000円×9.9%×\frac{500,000円}{1,500,000円+500,000円}=34,402.5円

        厚生年金保険料= 620,000円×18.3%×\frac{500,000円}{1,500,000円+500,000円}=28,365.00円


さて、ここでA社の報酬月額が令和1年9月に3,000,000円と2倍になったとします。
150万円も報酬が上がればが2等級以上の変動になるでしょうから、随時改定の対象になるかと思われますが、従前の報酬月額が150万円で既に最高等級を超えていますので、A社だけで見て等級の変更はなく、随時改定には該当しません。
しかし、保険料の按分率は大幅に変動するため( \frac{3}{4}  ⇒ \frac{6}{7} )、保険料負担の公平性の観点からすれば、年金機構に対して何らかの届出をして保険料を変更してもらう必要がありそうです。

実際にこのような例があり、年金機構に確認したところ、特に届出は必要無いとのことでした。
随時改定に該当して月額変更届を提出された場合には保険料が変わりますが、随時改定に該当しなければ報酬月額がいくら変動しても特に届出の必要は無く、直近の算定基礎届の提出まで(直近の9月分の保険料)、保険料は変更されません。

なお、令和2年2月より、二以上勤務者についても、選択事業所の所在地を管轄する事務センターへの提出が可能となりました。
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