社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【労働者性】INAXメンテナンス事件(最三小判平23.4.12労判1026号27頁)

INAXメンテナンス事件(最三小判平23.4.12労判1026号27頁)

審判:最高裁判所
裁判所名:最高裁判所第三小法廷
事件番号:平成21年(行ヒ)473号
裁判年月日:平成23年4月12日

1.事件の概要

X社は、親会社であるA社の製造した住宅設備機器の修理を業とする会社である。X社のカスタマーエンジニア(以下、CE)は、一般労働組合BのC支部の下にD分会を結成し、B組合、C支部、D分会(以下、まとめて組合)は連名で、X社に団体交渉を申し入れた。これに対し、X社は、CEは個人事業主であり、労働組合法上の労働者ではないので、団体工場に応じる義務はないと回答した。
X社は、CEとの間で業務委託契約を締結しているが、個別の業務は、X社が、発注した顧客の所在場所を担当するCEに依頼し、CEがそれに応諾しなくても、X社は業務委託契約債務不履行と判断していなかったが、実際には応諾拒否の割合は1%弱であった。CEは業務の際、A会社の子会社の作業であることを示すため、X社の制服着用や名刺を携行し、業務終了時にはX社に報告書を提出していた。業務委託手数料は、顧客らへの請求金額に、CEの級に応じた一定率を乗じて算出されていた。CEの作業時間は1件平均約70分、1日平均計3.7時間で、X社からの平均依頼件数は月113件、平均休日取得日数は月5.8日であった。
B組合とC支部は、E労働委員会に対して、X社の団交拒否は不当労働行為(労働組合法7条2号)に該当するとして救済を申し立てたところ、Eは団交応諾と文書手交を内容とする救済命令を発した。X社は、Y(中央労働委員会)に再審査申立てをしたが、Yはこれを棄却する命令を発した。そこで、X社は、Yの命令の取消しを求めて提訴した。一審(東京地判平成21.4.22労判982号17頁)はX社の請求を棄却したため、X社が控訴したところ、二審(東京高判平成21.9.16労判989号12頁)はCEの労働者性を否定して、Yの命令を取り消したため、Yが上告したのが本件である。

2.判決の概要

CEは、X社の主たる事業であるA社の住宅設備機器の修理補修業務の遂行に不可欠な労働力として、X社の組織に組み入れられていた。また、CEとX社との間の業務委託契約の内容は、X社の定めた「業務委託に関する覚書」によって規律されており、個別の修理補修等の依頼内容をCE側で変更する余地がなかったことも明らかであるから、X社がCEとの間の契約内容を一方的に決定していたものというべきである。さらに、CEの報酬は、X社が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に、当該CEにつきX社が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するものということができる。加えて、X社からの修理補修等の依頼について、たとえCEが承諾拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても、各当事者の認識や契約の実際の運用においては、CEは、基本的にX社による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。しかも、CEは、X社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、かつ、その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。以上の諸事情を総合考慮すれば、CEは、X社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

3.解説

労働組合法上の労働者の概念(3条)は、労働基準法(9条)や労働契約法(2条1項)の労働者の概念と比べて、「使用される」という要件がないなど、文言上、より広いものとなっている。(例えば、失業者は、労働組合法上の労働者となることがあるが、労働基準法上の労働者とはなり得ない。)このことは、労働組合法上の労働者に該当するためには、労働契約関係の存在は必ずしも必要とされていないことを意味している。
ただ、その一般的な判断基準は明確ではなく、本判決もこれを明示してはいないが、

  • ①労働者が事業組織に組み入れられていること
  • ②契約内容が使用者によって一方的に決定されていること
  • ③報酬が賃金に準ずる収入として労働の対価としての性格を有すること
  • ④業務の依頼に応じるべき関係にあること(実質的に許諾の自由がなかったこと)
  • ⑤業務遂行において指揮監督下にあり、時間的かつ場所的拘束性があったこと

に言及して、CEの労働組合法上の労働者性を肯定している。(同様の基準で、合唱団員の労働者性を肯定した判例として、国・中労委(新国立劇場運営財団)事件(東京高判平成21.3.25労判981号13頁)がある。)
その後の判例ソクハイ事件(平24.11.15労経速2169号3頁)参照)では、⑥独立の事業者としての実態を備えていないこと が判断要素に追加されており、一連の判例を踏まえ、厚生労働省にある研究会(労使関係法研究会)が次のような判断基準を示している。(「Uber Eatsの配達員は労働者であるか!?~労働者の2つの意味~」参照)

  • ①労働者が事業組織に組み入れられているか
  • ②契約内容が使用者によって一方的に決定されているか
  • ③報酬が賃金に準ずる収入として労働の対価としての性格を有するか
  • ④業務の依頼に応じるべき関係にあるか(許諾の自由が欠如しているか)
  • ⑤指揮監督関係の存在(時間・場所の拘束性など)
  • ⑥事業者性(独立した経営判断に基づいて業務内容を指図し収益管理を行なっていること)の希薄さ

これらの判断要素のうち、経済的従属性を基礎付ける要素(①~③)が労働組合法上の労働者の労働者性の基本的な判断要素となり、人的従属性にかかわる事情(④、⑤)はそれがあれば労働組合法上の労働者性を肯定する方向にはたらく(それがなくても労働組合法上の労働者性を否定するものとはならない)補充的な要素として位置づけられている。また、仮にこれらの要素(①~⑤)によって労働者性が肯定されたとしても、顕著な事業者性(⑥)があると認められる特段の事情が存在する場合には労働者性は否定される。これらの点を判断するうえでは、契約の形式ではなく就業等の実態(当事者の認識や契約の実際の運用)をもとに判断しなければならない。

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