Uber Eatsの配達員は労働者であるか!?~労働者の2つの意味~
1.はじめに
「Uber Eats」は、米国配達サービス大手「ウーバーテクノロジーズ」の日本法人「ウーバージャパン」が運営していて、利用者が飲食店に宅配を注文すると、専用アプリに登録している配達員が店から発注を受けて商品を取りに行き、自分の自転車やバイクで利用者の自宅等届けるサービスで、東京、大阪、福岡などで展開されています。
少々配達手数料が高いですが、一人で入りにくいお店の料理を自宅で食べることができるので、私個人としても重宝しております。
さて、よく知られているようにUber Eatsの配達員というのは「ウーバージャパン」の従業員ではなく、「ウーバージャパン」を介して、各飲食店と業務委託契約を結ぶ形となるとなり、個人事業主として扱われます。
つい先日、受取り拒否された飲食物を配達員が集合住宅の共同スペースに捨てて行く事件が発生し、「ウーバージャパン」の対応が非難されましたが、配達員と各飲食店との間の業務委託であり、また配達員を指揮監督しているわけでもないため、「ウーバージャパン」の立場からすれば、クレームを受けるのはお門違いとなるわけです。
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この件に関しては、本来なら個人事業主である配達員が注文された飲食物を弁償して配達すべきですが、そういうサービス内容なら配達員をする人がいなくなるでしょうし、飲食店や利用者としても、配達員を信用できず(「ウーバージャパン」が全く指揮命令しないのであれば、販売員は得たいの知れない謎の人となる)Uber Eatsを利用しなくなり、Uber Eatsはビジネスとして成り立たなくなります。
そういう意味で、「ウーバージャパン」は、配達員を個人事業主としながらも、全く指揮命令をしていないという立場を取ることは難しくなります。
こういう配達員の微妙な立場を象徴する出来事が、先日の配達員による労働組合の結成です。
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しかし、個人事業主であり労働者では無い配達員がなぜ「労働組合」を結成することができたのでしょうか?
「労働者」という言葉は、法的にも大きく2つの意味があるからです。
2.労働者とは?
「労働者」という言葉は、日常でも使われる場面によってニュアンスが異なりますが(例えば、いわゆる「ブルーカラー」を指すこともあれば、「従業員」と同じ意味で使われることも、「管理監督者」を除く従業員を意味することもある)、労働法における法律用語としては、「労働基準法上の労働者」と「労働組合法上の労働者」の2つの意味に大別されます。
労働基準法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働組合法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。
条文を一見してみてもわかるように、労働基準法は「使用される」という条件と支払われるのが「賃金」に限定されていることから、「労働基準法上の労働者」のほうが「労働組合法上の労働者」のほうが狭い意味になります。
結論から言えば、Uber Eatsの配達員は労働基準法上の労働者には該当しませんが、労働組合法上の労働者に該当する可能性が高いため、労働組合を結成したのですが、なぜそのように言えるのか検討してみます。
3.労働基準法上の労働者
「労働基準法上の労働者」は簡単にいうと、労働基準法の保護を受ける対象となる労働者です。これは単に労働基準法の適用だけにとどまらず、労働基準法を基礎とした労働関係諸法規(男女雇用機会均等法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法、育児介護休業法、労働者派遣法、雇用保険法、雇用対策法など)の適用範囲を定める概念としても用いられています。
労働基準法は、
- ①事業に使用される者で、かつ、
- ②賃金を支払われる者
を労働者としています(労働基準法9条)。
なお、これにあたる場合でも、
- 同居の家族のみを使用する事業に使用される労働者
- 家事使用人
は、労働基準法の適用範囲から除外しています。(労働基準法116条2項)。
従って、労働基準法上の労働者に該当するためには少なくとも、
- ①使用される=「使用者の指揮命令を受け働いていること」
- ②賃金を支払われる=「労働の対償として報酬を得ていること」
(労基法上の「賃金」:労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(労働基準法11条))
の2つの要件を備える必要があります。
しかし、2つの要件だけでは一般的過ぎるため、厚生労働省にある労働基準法研究会は1985年(昭和60年)に労働者の備える性質(労働者性)について、次のような判断基準を提示し、裁判所でもこの判断基準を取り入れています。(労働法基準会報告参照)
使用性
- ①仕事の依頼等への許諾の自由の有無(許諾の自由があれば使用性は弱まります)
- ②業務遂行上の指揮監督の有無(指揮監督が無いと使用性は弱まります)
- ③勤務時間・勤務場所の拘束性の有無(時間や場所の拘束性が無いと使用性は弱まります)
- ④他人による代替性の有無(他人によって代替可能であれば使用性は弱まります)
賃金性
- ⑤報酬が時間単位で計算されるなど労務提供の時間の長さに応じて報酬額が決まる場合は、賃金性が強くなり、逆に時間ではなく仕事の成果に対して報酬が支払われている場合は賃金性が弱くなる。
補強要素(使用性と賃金性だけは判断が困難な場合)
これをUber Eatsの配達員に当てはめると、
- ①仕事の依頼等への許諾の自由の有無(許諾の自由があれば使用性は弱まります)
⇒無(許諾の自由というか、配達員は自分が選択した配達業務のみを遂行します)
- ②業務遂行上の指揮監督の有無(指揮監督が無いと使用性は弱まります)
⇒ある程度有(「1.はじめに」で説明したように、これを否定するとUber Eatsはビジネスとして成り立ちません)
- ③勤務時間・勤務場所の拘束性の有無(時間や場所の拘束性が無いと使用性は弱まります)
⇒無(配達員に時間や場所の拘束性はありません)
- ④他人による代替性の有無(他人によって代替可能であれば使用性は弱まります)
⇒有(配達業務は誰がやっても基本的に同じですので代替可能です)
- ⑤賃金性
⇒無(時間ではなく配達という仕事の成果に対して報酬が支払われている)
- ⑥事業性の有無(機械・器具の負担、報酬の高額性)
⇒無(配達に利用する自転車やバイクは配達員の持込ですが、日常生活でも使用していることがほとんどでしょうから事業のための負担とまでは言い切れません。また、報酬はそれほど高額ではありません。)
- ⑦専属性の程度(他社の業務への従事が事実上制限されているか)
⇒無(兼業禁止でも無いでしょうから全く制限されていません。)
⇒無(社会保険等の控除どころか、士業等の個人事業主でも行われる源泉徴収すらしていないようです。)
こちらを参照
tokyoumaimon.hatenablog.jp
赤色が労働者性を強め、青色が労働者性を弱める、紫色がどちらとも言えない判断項目ですが、確かに労働者性はほとんど見受けられず、労働基準法上の労働者には明らかに該当しないことがわかります。
4.労働組合法上の労働者
労働組合法は、適用対象となる「労働者」を、職業の種類を問わず「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しています(労働組合法3条)。
この労働組合法上の労働者概念は、次の2つの点で労働基準法上の労働者と大きく異なっています。
- ①使用者に現に使用されている(使用性)が問われない
- ②報酬の面でも厳密な意味での労働対償性(賃金性)が問われず、賃金などに準ずる収入によって生活する者(給与等生活者)であれば足りるとされる。
これだけでは一般的過ぎるので、労働基準法上の労働者と同様に厚生労働省にある研究会(労使関係法研究会)が次のような判断基準を示しており、裁判所でもこの基準を取り入れています。(労働組合法上の労働性の判断基準について)
- ①労働者が事業組織に組み入れられているか
- ②契約内容が使用者によって一方的に決定されているか
- ③報酬が賃金に準ずる収入として労働の対価としての性格を有するか
- ④業務の依頼に応じるべき関係にあるか(許諾の自由が欠如しているか)
- ⑤指揮監督関係の存在(時間・場所の拘束性など)
- ⑥事業者性(独立した経営判断に基づいて業務内容を指図し収益管理を行なっていること)の希薄さ
これらの判断要素のうち、経済的従属性を基礎付ける要素(①~③)が労働組合法上の労働者の労働者性の基本的な判断要素となり、人的従属性にかかわる事情(④、⑤)はそれがあれば労働組合法上の労働者性を肯定する方向にはたらく(それがなくても労働組合法上の労働者性を否定するものとはならない)補充的な要素として位置づけられています。また、仮にこれらの要素(①~⑤)によって労働者性が肯定されたとしても、顕著な事業者性(⑥)があると認められる特段の事情が存在する場合には労働者性は否定されます。これらの点を判断するうえでは、契約の形式ではなく就業等の実態(当事者の認識や契約の実際の運用)をもとに判断しなければならないとされています。
これをUber Eatsの配達員に当てはめると、
- ①労働者が事業組織に組み入れられているか
⇒YES(配達員がいなければ事業自体が成り立たないため、明らかに組み入れられています。)
- ②契約内容が使用者によって一方的に決定されているか
⇒YES(報酬及び業務内容は「ウーバージャパン」が一方的に定めいます。)
- ③報酬が賃金に準ずる収入として労働の対価としての性格を有するか
⇒YES(報酬は配達という労働の対価としかいいようがありません。もっと高度な配達方法を独自に考案したり、配達の際に独自に別のサービスを提供する等していれば、労働の対価ではないといえるかも知れませんが)
- ④業務の依頼に応じるべき関係にあるか(許諾の自由が欠如しているか)
⇒NO(許諾の自由というか、配達員は自分が選択した配達業務のみを遂行します)
- ⑤指揮監督関係の存在(時間・場所の拘束性など)
⇒???(時間・場所の拘束はありませんが、「1.はじめに」で説明したように、指揮監督を否定するとUber Eatsはビジネスとして成り立ちません)
- ⑥事業者性(独立した経営判断に基づいて業務内容を指図し収益管理を行なっていること)の希薄さ
⇒???(配達業務を受託するかしないは配達員が自ら判断しているが、業務内容は「ウーバージャパン」が定めています)
労働基準法上の労働者と同様に、赤色が労働者性を強め、青色が労働者性を弱める、紫色がどちらとも言えない判断項目です。
なお、④と⑤は「それがなくても労働組合法上の労働者性を否定するものとはならない」項目ですので、④はNOですが青とはせず紫にしています。
こうして見ると、確かに労働組合法上の労働者には該当する可能性は高いと言えるのではないでしょうか。
今度、実際に団体交渉等が行われれば、都道府県労働委員会が判断することになりますが(不服があれば裁判所)、新しいビジネスモデルであるだけにどう判断されるか注目です。
sr-memorandum.hatenablog.com
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