社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【配転】 東京海上日動火災保険(契約社員)事件(東京地判平19.3.26労判941号33頁)

東京海上日動火災保険契約社員)事件(東京地判平19.3.26労判941号33頁)

参照法条 : 民事訴訟法134条、労働基準法89条、労働基準法90条
裁判年月日 : 2007年3月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)2001

1.事件の概要

Xは、損害保険業等を目的とするY社で、損害保険の契約募集等に従事する外勤の正規従業員である「契約係社員」(リスクアドバイザー、以下、RA)である。RAは、専属・専業の強い販売力を有するグループ全体のリテール戦略を担う存在とY社により位置づけられており、内勤社員とは異なって賃金体系は個々の業績が強く反映する構造となっていた。さらに、転勤がないものとして募集・採用手続きが行われており、内勤社員への転換制度もなく、またXらの志望動機も転勤がないことや地域との結びつきを挙げていることの反映として、現に業務内容も顧客との個人的信頼を基礎にしていた。
Y社は、総資産及び経常利益において業界一位の企業であり、RAには、内勤従業員とは別の就業規則を適用し、そこでは「会社は業務の都合により、従業員に配置転換、勤務の異動または出向を命ずることができる」としていた。
Y社は平成17年10月に、RA制度を平成19年7月までに廃止すること、廃止後、RAは退職して代理店を開業するか、職種変更して継続雇用されるか、退職して新しい仕事を自己開拓するかを選択すること、退職する場合には支援金を支払う、という方針を提案・通知した。RA制度廃止は、業界を取り巻く環境が厳しくなるおそれが指摘される中、損害保険販売の各手段別に効率性を算定し、RAの効率性が悪く収支均衡を図ることが困難であること、希望退職を募ることでは抜本的解決となりえないこと理由としていた。継続雇用された場合、変更後の職種も損害保険に関する業務ではあるが、収入は減額される可能性が高いものであった。多数派組合とは廃止を前提とした処遇につき合意が成立したが、廃止自体についての協議を求めたXらの所属する少数派組合との間では合意は成立しなかった。そこでXが、Y社に対して、自らの労働契約が職種限定契約であり、RA制度の廃止は労働契約に違反し労働条件を不利益に変更する無効なものであると主張して、平成19年7月以降もRAの地位にあることの確認を求めたのが本件である。

2.判決の概要

RAの業務内容、勤務形態及び給与体系には、他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し、そのためY社は、RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し、それに応じた者と契約係特別社員としての労働契約を締結し、正社員への登用にあたっても、職種及び勤務地の限定の合意は、正社員としての労働契約に黙示的に引き継がれたものと見ることができる。それゆえ、Y社とXらRAとの間の労働契約は、Xらの職務をRAとしての職務に限定する合意を伴うものと認めるのが相当である。
労働契約において職種を限定する合意が認められる場合には、使用者は、原則として、労働者の同意がない限り、他職種への配転を命ずることはできないというべきである。問題は、労働者の個別の同意がない以上、使用者はいかなる場合も、他職種への配転を命ずることができないかという点である。労働者と使用者との間の労働契約関係が継続的に展開される過程をみてみると、社会情勢の変動に伴う経営事情により当該職種を廃止せざるを得なくなるなど、当該職種に就いている労働者をやむなく他職種に配転する必要性が生じるような事態が起こることも否定し難い現実である。このような場合に、労働者の個別の同意がない以上、使用者が他職種への配転を命ずることができないとすることは、あまりにも非現実的であり、労働契約を締結した当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。そのような場合には、職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも、採用経緯と当該職種の内容、使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度、変更後の業務内容の相当性、他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度、それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し、他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には、当該他職種への配転を有効と認めるのが相当である。そして、当該正当な理由(以下「正当性」という。)の存否を巡って、使用者であるY社は、①職種変更の必要性及びその程度が高度であること、②変更後の業務内容の相当性、③他職種への配転による不利益に対する代償措置又は労働条件の改善等正当性を根拠付ける事実を主張立証し、他方、労働者であるXらは、①採用の経緯と当該職種の特殊性、専門性、②他職種への配転による不利益及びその程度の大きさ等正当性を障害する事実を主張立証することになる。
そして、Y社は、RA制度を廃止しそれに伴いXらRAの職種を変更することについて、経営政策上首肯し得る高度の合理的な必要があること、Y社がXらRAに対しRA制度廃止後に継続雇用を希望している者に提示している業務内容はこれまでの経験、知識を活かすことのできる業務であって不適当なものとはいえないことを立証することができている。*1そうだとすると、Xらにおいて、RA制度廃止に伴う不利益が大きい等の正当性を障害する事実を立証することができない限り、Y社の職種変更についての正当性を認めることになる。そこで、以下では、RA制度廃止に伴う不利益の大きさ等の正当性を障害する事実の存否等について検討することにする。
Y社がRA制度を廃止してXらを他職種へ配転することに、経営政策上、首肯しうる高度の合理的な必要性があること及び他職種の業務内容は不適当でないことが認められる。しかし、他方で、RA制度の廃止によりXらの被る不利益は、Xらの生活面においては職種限定の労働契約を締結した重要な要素である転勤のないことについて保障がなく、Xらの生活の基礎となる収入の将来的な不安定性が予想され、とりわけ職種変更後2年目以降は、月例給与分が保障されるのみで賞与相当分につき大幅な減収となることが見込まれる。そうだとすると、Y社がXらに提示した新たな労働条件の内容をもってしては、RA制度を廃止してXらの職種を変更することにつき正当性があるとの立証が未だされているとはいえない現状にある。
 以上によれば、XらとY社との間で職種を限定する合意が認められ、Xらが他職種に転進することに同意をしていない本件にあっては、現時点で職種変更につき正当性が認められるような特段の事情が立証されていない以上、Y社の主張は理由がないということになる。

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*1:①と②は立証できている