1.事件の概要
X1、X2はY社の従業員であったが、X2について年休振替の不承認に端を発して上司であるT課長と対立が生じ、Tに対する暴行事件が発生して、TはXらを刑事告発した。Y社は、警察・検察の捜査結果を待って処分を検討したところ、暴行事件が発生して7年以上経過した後に、X1の不起訴処分が決まった。そこで、Y社はXらに対して、諭旨解雇を言い渡した。Xらは、退職届を提出しなかったので、懲戒解雇として扱われ、これに対してXらがY社の従業員としての地位確認を求めたのが本件である。
2.判決の概要
使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
・・・(中略)これらのことからすると、本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から・・・(中略)懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分をするような状況ではなかったものということができる。
以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由についてY社が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。
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