社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【懲戒処分】富士重工事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号1037頁)

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富士重工事件(最三小判昭和52.12.13民集31巻7号1037頁)

参照法条 : 労働基準法2章、89条1項9号
裁判年月日 : 1977年12月13日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和49年 (オ) 687 

1.事件の概要

Y社は、従業員の一部が就業時間中に無断で職場を離脱して、原水爆禁止運動に関わる他の従業員の署名を集めたり、資金調達のためにハンカチを作成することを依頼するなどの活動をしていることを知り、これを就業規則違反の行為であるとして調査を開始した。調査に当たって、労働者Xに事情聴取を行ったところ、Xは一部の質問への回答を拒否した。このため、Y社は、これを就業規則の上長の指示遵守、規則遵守に関する規定に違反するものとして、Xを譴責処分とした。そこで、Xは、譴責処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認を求めて提訴した。

2.判決の概要

そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するために、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、命令等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。しかしながら、企業が右のように企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできない。なぜなら、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労度提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである。そして、右の観点に立って考えれば、当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務内容になっている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するのが、相当である。



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