社会保険労務士川口正倫のブログ

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【管理監督者】東和システム事件(東京地判平21.3.9労判981号21頁)

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東和システム事件(東京地判平21.3.9労判981号21頁)

参照法条 : 労働基準法37条、労働基準法41条、労働基準法115条、民事訴訟法134条
裁判年月日 : 2009年3月9日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)6975

1.事件の概要

Xらは、ソフトウェア開発等を営むY社で、課長代理の職位で、システムエンジニア(SE)として勤務していた。Xらが、Y社に対し、未払いの時間外手当等の請求をしたのが本件である。

2.判決の概要

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される。具体的には、①職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、③管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
Y社は、Xらの職制上の地位「課長代理」でなく、特定の業務における地位である「プロジェクトリーダー」の権限等について、管理監督者であると主張するようである。しかしながら、・・・(中略)プロジェクトリーダーは、個々のシステム開発等の業務(プロジェクト)ごとに選任され、プロジェクトによっては、Xらよりも職制上上位にある者がプロジェクトに入っていても、適性等によっては、例えばXらが、それを追い越してプロジェクトリーダーに選任されることがあり、Xらもやや大きめのプロジェクトチームになると、リーダーでなくメンバーとなることもあるなど、職制上の地位と不可分ではないことが認められる。・・・(中略)プロジェクトの人数はプロジェクトリーダーごとに異なるが、Y社従業員1名ないし案件によっては最大100名程度のものまであり、Xらは、最大でも4~5名のプロジェクトチームのリーダーに選任されることが多く、プロジェクトによっては、Xらよりも職制上上位にある者(統括部長、部長、次長等)がプロジェクト責任者に選任される。
しかし、Xらは、・・・(中略)プロジェクトチームの構成員を決定する権限もなく、パートナーと呼ばれる下請会社を決定する権限もなく、それは上記の職制上上位にある統括部長、部長、次長等が決定しており、また、Xらはプロジェクトのスケジュールを決定することもできず、こちらはY社の重要な顧客である訴外A社が決定しており、作業指示もA社の決定したマスター線表という計画表に沿って行われるものと認められる。このような状況下で、この程度の部門を統括することでは、部門全体の統括的な立場にあるということは困難である。
部下に対する労務管理上の決定権等について、・・・(中略)Xらが、その部下であるチーム構成員(作業担当者)の人事考課をしたり、昇給を決定したり、処分や解雇を含めた待遇の決定に関する権限を有していた事実は認められない。従業員の新規採用を決定する権限があるどころか、・・・(中略)プロジェクトチームの構成員を決定する権限すらない。Y社が主張するように、原告らが部下の休暇の承認をしていたとしても(それすら、より上位の者の決裁を得ていたようであるが)、このような状況下では、Xらが経営者と一体的な立場にあるものということは、到底できない。
また、原告らが、前記スケジュールに拘束されて、出退勤の自由を有するといった状況で到底ない事実も認められる。以上検討したところによれば、その余の要素について検討するまでもなく、Xらは、管理監督者には当たらないというべきである。



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