社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

興和事件(名古屋地判昭和55.3.26労判342号61頁)

興和事件(名古屋地判昭和55.3.26労判342号61頁)

1.事件の概要

Y社は、20数社の関連会社が形成している通称「コーワ・グループ」の中核3社の一つであり、これらの本店は同一の場所にあり、その業務は実質的に一体として行われている。また就業規則をはじめとする3社の各諸規則のほとんどが3社共通に作成適用され、3社の従業員は、3社間を異動してもその労働条件において大部分が共通である。また3社は、一括求人・採用方式をとり、3社を同一の経営体とみてY社の人事部が主体になって同一基準で求人、選考、採用を行い配属を決める方式ととっていた。この方式は、求人の際に応募者に対しても明示されて、Xも、入社時にその説明を受け、当初いずれの事業所に配属されるかはわからないが、勤務先が当初の事業所に特定されるわけはなく、会社の他の事業所あるいは、他の2社に転勤を命ぜられるかもしれない旨説明され、Xはこれに対し、よくわかったと返事した。ところが、Xは、採用の約5年後に、3社のうちの別会社の大阪支店勤務を命じる旨の内示を受けたため、同命令の効力を仮に停止する仮処分申請をした。

2.判決の概要

Xは採用の際に会社の出向制度を理解し、将来における興和新薬等への出向について予め包括的同意を会社に与えたものということができる。
3社の実質的一体性が高度であり、実質上同一企業の1事業部門として機能していて、いわゆる親子会社における関係以上に密接不可分の関係にあること、又統一的な人事部門によりほぼ統一的な人事管理がなされ、従前3社間の人事異動は、転勤とみなされていた実態等があること、このような実態を背景として、Xは、細部にわたって詳細にとはいえないまでも、右の基本的構造を、採用時に説明を受け、これを了承して入社したものと認められるから、右Xの採用時の右包括的同意に基づき使用者たる会社は、Xに関する将来の他の2社のうちのいずれかへの出向を命ずる権限を取得したものといわねばならない。
労働者の出向を拒む利益、即ち契約における当初の使用者のもとで労務に服する利益を、一身専属的なものとみて、これを放棄しまたは他に委ねるには、当該権利者の同意を必要とするという趣旨に解するならば、それは真に同意に値するものである限り、明示とか個別的なものに限る理由なく、暗黙或いは包括的態様のものでも足りると解すべきである。

3.解説

本判決は、グループ企業において、一括求人・採用方式が取られており、さらに採用時にその旨の説明がなされ、労働者が同意していたときには、採用時になされた暗黙の「包括的同意」であっても、労働者の同意と認めらるとの見解を示したもの。グループ内での出向が現実に多いため、下級審ながら重要な意義のある判決となった。

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