社会保険労務士川口正倫のブログ

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日立電子事件(東京地判昭和41.3.31労民集17巻2号368頁)

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日立電子事件(東京地判昭和41.3.31労民集17巻2号368頁)

1.事件の概要

XはY社に技術者として雇用されていたとこと、福岡市にある同系列A社の九州営業所に出向させる旨の内示を受けた。そこで、Xは、同命令が不当労働行為に当たるとして、地位保全仮処分を申請した。そこで、Xは、同命令が不当労働行為に当たるとして、地位保全仮処分を申請した。Y社は、同仮処分の裁判結果が出るまで出向命令を延期してほしい旨のXの要求を容れたが、その後仮処分申請が却下されるや、Xを業務命令違反を理由に懲戒解雇処分に処した。そこで、Xは、遠隔地の別会社で営業職で勤務することは、契約内容を変更するものであること等を理由に、懲戒解雇の無効を主張して訴えを提起した。なお、Y社の就業規則には、「社員は社名により社外の業務に専従させた場合は専従期間休職させる」旨の規定があった。

2.判決の概要

労働力の処分利用を目的とする雇用契約は、・・・(中略)目的たる給付の性質上使用者と労働者との間における命令服従の人的関係をその基盤とするものであって、右契約の性質に鑑みれば、労働者は別段の特約がない限り当該使用者の指揮命令下において使用者のためにのみ労務提供の義務を負担し、使用者が労働者に求め得るところも自己の指揮命令下に自己のためにする労務の給付にとどまるものと解するのが相当であり、民法625条が使用者の第三者への権利譲渡、労働者の第三者による労務提供につきいずれも相手方の承諾を要する旨規定した趣旨も、上述したような労務給付義務(又はこれに対応する権利)の一身専属的な特質を考慮したものといえる。・・・(中略)また、労働基準法15条、労働基準法施行規則5条の精神からいっても、使用者は労働契約に際し明示した労働条件の範囲を超えて当該労働者の労働力の自由専慾な使用を許すものではなく、当該労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠なくして労働者を第三者のために第三者の指揮下において労務に服させることは許されないものというべきである。
仮に就業規則に契約変更の効力を認める見解をとるとしても、その根拠規定は規則上明白なものであることを要するものというべく、出向義務に関する直接規定もなしに休職事由の規定中・・・(中略)不明確な定めがあるからといって、就業規則上出向義務を創設したものと解することはとうてい困難である。

3.解説

使用者は、労働契約に基づき労働者を雇用しているので、これと異なる第三者の指揮命令を受けて勤務を命じることはできない。本判決は、そのような労働契約における人的関係および民法625条による労働契約の一身専属的な特質から、「当該労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠なくして」労働者に出向を命じることはできないとの見解を示したもの。また、就業規則に出向についての定めがあったとしても、その記載が直接に出向義務を定めるものではなく、休職事由の一つとして定められている限りは、就業規則により出向義務が創設されたとはいえないとしている。

(使用者の権利の譲渡の制限等)
第625条 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
2.労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
3.労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。

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