社会保険労務士川口正倫のブログ

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【普通解雇】フォード自動車事件(東京高判昭59.3.30労判437号41頁)

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フォード自動車事件(東京高判昭59.3.30労判437号41頁)

参照法条   : 労働基準法2章、民法1条3項
体系項目   : 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 : 1984年3月30日
裁判所名   : 東京高
裁判形式   : 判決
事件番号   : 昭和57年 (ネ) 615 
裁判結果   : 一部変更

1.事件の概要

Xは、自動車メーカーであるY社に昭和51年10月15日に採用された。Xの地位は、組織上社長に次ぐ最上級管理職4名のうちの1名である人事本部長で、期間の定めの無い雇用契約であった。
Y社、Xが業務の履行又は能率が極めて悪い等の理由で、昭和52年8月31日付けでXを解雇した。これに対してXは社に人事本部長としての地位確認等を求めて提訴した。

2.第一審(フォード自動車事件昭57.2.25労判382号25頁)の要旨

Xは、本訴においては、請求の趣旨記載のとおり、単に雇用契約関係存在の確認を求めるのではなく、Y社の人事本部長としての地位を有することの確認を求めていることからすると、その前提として本件契約は人事本部長という地位を特定した契約であることを自ら認めているものと解することができるばかりでなく、Xは、Y社の一般の従業員として入社した後昇進して人事本部長になったのではなく、人事本部長として中途採用されたものであることは当事者間に争いがなく、Y社はXの前任者であった訴外Aの後任として、日本人の人事本部長の適任者を捜していたこと、訴外B(以下「C」という。)は、昭和51年4月、Y社に対し、人事本部長の候補者としてXの履歴書を送付してきたこと、XはY社に採用される前は外資系(米国)の会社である訴外D社に約一六年間在籍し、その間同社の労務課長、人事部長、人事担当マネジャー、副社長補佐、社長補佐、GBG人事担当マネジャー等ほぼ一貫して人事の仕事をしてきたものであること、Y社としては、Xを人事本部長として採用するにあたり、Xが米国で教育を受けたという学歴及び右職歴に注目したこと、そして、Y社は、同年9月6日付でXに対し、月額報酬75万3700円、試用期間経過後は同社から自動車を貸与する等の待遇で人事本部長としてY社に入社するように申し出したこと、Xは右申し出を受けてY社に対し、同月13日付書簡で、同社申し出の条件で受諾する旨通知したこと、XがD社を辞めてY社に入社した理由の一つは、仕事が人事の仕事で、しかも人事本部長という地位で採用されることにあったこと、もし提供される職位が人事本部長ではなく一般の人事課員であったならば、XはY社に入社する意思はなかったこと、Y社としてもXを人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかったこと等が認められ、以上の事実を総合すれば、本件契約は、人事本部長という地位を特定した雇用契約であると解するのが相当である。
人事本部長という職務上の地位を特定した雇用契約であって、Xに特段の能力の存在を期待して中途採用したという本件契約の特殊性に鑑み、Xの執務状況を検討すると、①特に機会あるごとに、自己に課せられた仕事を部下に委譲する形ではなく、自ら仕事を担当する(ディレクターという形ではなく、Y社のいうワーキング・マネジャーとして)という方法で執務することを期待されていたにもかかわらず、執務開始後約6か月になってもそれが改善されなかったこと②ジョブ・オーディットの目的の一つが、人員整理の際の余剰人員を見つけることにあることを認識しながら、人員整理の完了した後である昭和52年4月20日までに、55の職のうち5人に面接したのみで、Xに要求されていた職務を著しく怠っていたこと、とりわけ、同年3月に訴外E社長に対し同月末日までに面接を完了する予定であると報告しながら、全くそれを行わなかったこと、③Y社の執務方法に習熟する機会を与えられながら、かつ、Y社においては社長の決裁だけでなくファスパックの承認が必要である事項が留保されていることを認識し、さらに、部下の助言を無視して規則違反を行った等のXの執務態度は、Y社の期待した人事本部長としては就業規則にいう「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」に該当し、ひいては、「雇用を終結しなければならないやむを得ない業務上の事情がある場合」にも該当する、と解するのが相当である。
 本件契約が前記において認定のとおり人事本部長という地位を特定した雇用契約であるところからすると、Y社としてはXを他の職種及び人事の分野においても人事本部長より下位の職位に配置換えをしなければならないものではなく、また、業務の履行又は能率が極めて悪いといえるか否かの判断も、およそ「一般の従業員として」業務の履行又は能率が極めて悪いか否かまでを判断するものではなく、人事本部長という地位に要求された業務の履行又は能率がどうかという基準で就業規則に該当するか否かを検討すれば足りるものというべきである。

3.第二審(フォード自動車事件昭59.3.30労判437号41頁)の要旨
第一審に対して、Xが控訴したのが本件である。
Y社の就業規則10条に「当会社はその判断で従業員の配置転換、又は転勤を命じることができる。従業員は、正当な理由がない限り、転勤又は配置転換を拒否することはできない。」と規定されていることは明らかであり、またXが本来人事関係に属しない業務に当ったことのあることは原判決四七枚目裏三行目から同末行〈同三段九行目~二○行目〉までに説示(本判決で附加した分も含む。)のとおりである。
しかしながら、先に判示のとおりXとY社間の本件雇用契約は、Xの学歴・職歴に着目して締結された。人事本部長という地位を特定した契約であって、Xとしては提供される職位が人事本部長でなく一般の人事課員であったならば入社する意思はなく、Y社としてもXを人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかったというのであり、また、前記説示にかかる業務は、Y社の組織部分の間隙に介在する分野のものであって、従前から、各部門において適宜分掌していたことが認められ、これによると、右業務は人事本部長の職務に付随するものにすぎないから、XがY社から右業務の処理を命ぜられたことがあったからといって、Xの職務上の地位にいささかも変動をもたらすものではなく、したがって、Y社にはXを人事本部長として不適格と判断した場合に、あらためて右規則10条に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではないと解するのが相当である。

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