社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



労災保険給付を受けて休業する労働者に対する解雇制限にかかる判決について(平27.6.9基発0609第4号)

労災保険給付を受けて休業する労働者に対する解雇制限にかかる判決について(平27.6.9基発0609第4号)

労災保険給付を受けて休業する労働者に対する解雇制限にかかる判決について(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)


平成27年6月8日、労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労基法」という。)第19条第1項ただし書の適用にかかる解釈について、最高裁判所第二小法廷において別添のような判決がなされたので、下記に留意の上、監督指導業務の運営について遺憾なきを期されたい。

1 労基法第19条第1項ただし書の解釈にかかる同判決の要旨は次のとおりであること。

(1) 労基法上の使用者の災害補償義務は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)が行われている場合には、それによって実質的に行われているといえるので、災害補償を使用者自身が負担している場合と、労災保険給付が行われている場合とで、労基法第19条第1項ただし書の適用を異にすべきものとはいい難い。

(2) 労災保険給付が行われている場合は、打切補償として相当額の支払がされても傷病又は疾病が治るまでは必要な給付が行われるため、労基法第19条第1項ただし書の適用があるとしても、労働者の利益につきその保護に欠くことになるものともいい難い。

(3) したがって、労災保険法第12条の8第1項第1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労基法第75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法第81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法第19条第1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当である。

2 今後における労基法第19条第1項ただし書の適用にかかる解釈運用は、上記1の(3)によって行うものであること。

【解雇】学校法人専修大学(差戻審)事件(最判大二小平27.6.8労判1147号50頁) - 社会保険労務士川口正倫のブログ


※モデル就業規則の解雇事由にかっこ書き「会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。」の意義はこの通達・判例にあります。
業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者 が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。) 。

長女の出産に際し、その家族の世話をするために泊まっている長女宅から出勤する途中の事故は、通勤災害か(昭52.12.23基収1027号)

長女の出産に際し、その家族の世話をするために泊まっている長女宅から出勤する途中の事故は、通勤災害か(昭52.12.23基収1027号)

(問)
 被災労働者Hは、看護婦として医療法人T病院に勤務し、通常は自宅より通勤していたものであるが、同一市内に住む長女が出産するに際し、いわゆる核家族(夫婦と子供2人―長女4歳、次女3歳)である長女宅の家事、産褥等の世話をするため、昭和52年1月4日より被災当日である1月19日まで15日間長女宅に泊り込み、そこから通勤していたものである。
 被災労働者は、当日(1月19日)午前8時30分から勤務のため、午前7時40分頃長女の夫が運転する自家用車に長女の子供2人とともに同乗し長女宅を出発した。そして、午前7時45分頃子供の託児先に到着し、子供を託児先にあずけてすぐ車に引き返し、勤務先に送ってもらうため再び車に乗ろうとしたとき、道路が消雪パイプの水で凍結していたため、足をすべらせて転倒したものである。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 本件の場合、被災労働者が長女宅に居住し、そこから通勤する行為は、客観的に一定の持続性が認められるので、当該長女宅は被災労働者にとっての就業のための拠点、つまり住居と認められる。
 また、被災労働者は、長女に代ってその子供を世話する立場にあったと認められるので、被災労働者が出勤の途中で当該子供を託児先にあずけるためにとる経路は、本人の就業のためにとらざるを得ない経路であり、合理的な経路と認められる。
 したがって当該出勤行為は通勤と認められるので、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。

夫の看病のため、姑と交替で1日おきに寝泊りしている病院から出勤する途中の事故は、通勤災害か(昭和52.12.23基収981号)

夫の看病のため、姑と交替で1日おきに寝泊りしている病院から出勤する途中の事故は、通勤災害か(昭和52.12.23基収981号)


(問)
 被災労働者は、夫の入院先である病院に宿泊し、翌朝、当該病院より勤務先への出勤途中、路面が凍結しアイスバーン状になっているところを歩行中に転倒し、尾骨部を地面に打ち負傷したものである。
 なお、被災労働者は、昭和51年11月19日当該病院で夫が頸椎の手術を行ったため、手術当日より同12月7日までの9日間は勤務を休み、付添看護にあたり、その後被災当日である12月16日までは勤務のかたわら母親と1日交替で看護にあたっていた。交替で看護にあたっていた間は通勤経路は自宅から勤務先に出勤し、業務終了後、当該病院へ行き看護にあたり、翌日は当該病院から直接勤務先へ出勤し、業務終了後自宅に帰るという態様を繰り返していた。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 入院中の夫の看護のため妻が病院に寝泊りすることは社会慣習上通常行われることであり、かつ、手術当日から長期間継続して寝泊りしていた事実があることからして、被災当日の当該病院は、被災労働者にとって就業のための拠点としての性格を有する「住居」と認められる。
 したがって、本件災害は労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。

自動車通勤の労働者が帰宅途中、前の自動車に向けてクラクションを鳴らしたことから射殺された事件は、通勤災害か(昭和52.12.23基収1032号)

自動車通勤の労働者が帰宅途中、前の自動車に向けてクラクションを鳴らしたことから射殺された事件は、通勤災害か(昭和52.12.23基収1032号)

(問)
 被災者は昭和52年8月27日業務終了後、車で退勤の途中、午後5時25分頃自宅を目前にしたところで、前に自動車が停滞していたので、その発進を促すようにクラクションを2回鳴らしたところ、被災者の車の1台おいた前に停車していた乗用車を運転していた男に、クラクションを鳴らしたことに文句をつけられ、男が所持していたピストルで射殺されたものである。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 本件災害は、自動車通勤に通常付随する行為(クラクションを鳴らす行為)が原因となって発生したものと認められるので、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。

就業時間前に労働組合集会に参加するため、通常の出勤時刻より1時間半ほど早く会社へ向かう途中の事故は、通勤災害か(昭和52.9.1基収793号)

就業時間前に労働組合集会に参加するため、通常の出勤時刻より1時間半ほど早く会社へ向かう途中の事故は、通勤災害か(昭和52.9.1基収793号)

(問)
 当局管内において下記事故が発生しましたが、通勤災害の認定上疑義が生じましたので、何分のご教示をお願い致します。

1 事案の概要
(1) 所定労働時間
  別添1 勤務割表による
(2) 災害発生の日の就業開始の予定時刻又は就業終了の時刻
  午後4時30分(5月15日)~午前1時30分(5月16日)
(3) 災害発生の日に住居又は就業の場所を離れた時刻
  午後2時25分頃(自宅出発)
(4) 通勤経路
  別添2 通勤経路略図
(5) 災害発生状況
 被災労働者らK観光タクシー㈱の従業員で組織する労働組合は、賃上げ要求に対する会社側の回答は不満であるとして、昭和52年5月14日午後4時30分より翌日の5月15日午後4時30分まで24時間ストを決行していたが、スト終了前の5月15日午後3時から午後4時30分まで、営業所を含む全組合員参加による決起集会を本社構内駐車場で開くことになっていた。
 被災労働者Tは、本社勤務であるが、スト終了直後、即ち5月15日午後4時30分からの勤務となっていたため、決起集会終了後直ちに勤務に就く心づもりをして、決起集会に出席するため、いつもより1時間30分位早い午後2時25分頃バイクを運転して自宅を出発し、通常の通勤経路を会社へ向って時速15㎞位で走行中、市内K町Aコープ前路上において横風を受け身体のバランスを失い、バイク諸共転倒し負傷したものである。
 なお当日は、朝から曇天で風速約12m位の風が吹いており、前記場所にさしかかったとき、家並みの間からの強風を受けたものである。
2 問題点
 被災者が5月15日、通常の出勤時間より約1時間30分程早く自宅を出た行為は、労働組合の決起集会に参加するためのものであると考えるとき、その行為は業務以外の目的のためであるところから、就業との関連性はないものと解されるも、反面、当該集会の終了予定時刻が、被災者の当日の就業開始時刻と接続しているところから、就業との関連性を全く否定出来ない点を考慮するとき、被災者の当該行為を就業との関連性なしとする事にはいささか疑義がある。
3 当局の見解
 被災者が通常の出勤時刻よりも1時間30分程早く自宅を出発した行為が、決起集会に接続した被災者の勤務ダイヤに就業する予定を含んでいたとしても、第一義的には労働組合の決起集会に参加する目的であったと認められ、加えてスト中であったことなどから検討するとき、当該行為は就業との関連性はなかったものと解さざるを得ず、従って、本件は労災保険法第7条第1項第2号にいう通勤災害には該当しないものと考えられる。

(別添 1)
   K観光タクシーの勤務時間割等
1 勤 務 割
 ①7:00~16:00 ⑧16:30~1:30
 ②7:30~16:30 ⑨17:00~2:00
 ③8:00~17:00 ⑩17:30~2:30
 ④9:00~21:30 ⑪18:30~8:00当直
 ⑤8:30~18:00 ⑫当直明(非番)
 ⑥休日 ⑬公休
 ⑦12:00~23:30
2 就業の態様及びその人員
 (1) 勤務は、上記1のダイヤを1日交替で順次繰り下げて就業する。
 (2) 一ダイヤの勤務人員は、10~11人である。
3 被災労働者の勤務ダイヤ
被災労働者の当日のダイヤは上記1の⑧である。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 労働者が住居から就業の場所へ向かう行為が通勤と認められるためには、当該行為が業務と密接な関連をもって行われたものであることを要する。
 本件の場合、被災労働者が当日業務に従事することになっていたことは客観的に明らかであり、しかも被災労働者が、労働組合の集会に参加する目的で、通常の出勤時刻より約1時間30分早く住居を出た行為は、社会通念上就業との関連性を失わせると認められるほど所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に行われたものとはいえないので、当該行為は通勤と認められる。
 したがって、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。

自動車で通勤途中、犬をひきそうになった労働者が飼い主から暴行を受けた場合は、通勤災害か(昭和52.7.8基収538号)

自動車で通勤途中、犬をひきそうになった労働者が飼い主から暴行を受けた場合は、通勤災害か(昭和52.7.8基収538号)

(問)
 当局管内において左記の災害が発生し、被災労働者から通勤災害に係る保険給付の請求がありましたが、その認定についていささか疑義がありますので、何分の御教示をいただきたくお伺い致します。

1 災害発生状況
 被災労働者Y.Sは、当日午前10時が出勤時刻であるので、午前9時10分頃北本市の自宅を乗用車で出発し、通常の通勤経路を進行していたところ、勤務先近くの十字路に差しかかり、そこで一たん停車して約5キロメートル/時の速度で左折しようとしたとき、突然女性の「アッ」という驚きの声が聞こえたので、停車してドアを開けたところ、下図地点にいた加害者T.Kにいきなり一方的に殴るなどされ負傷(顔面打撲擦過傷)したものである。
 なお、女性が驚きの声をあげたのは、加害者の飼犬が同図A地点(加害者宅前)からB地点(加害者のいた場所)に行こうとして、突然路上に飛び出し、被災労働者の乗用車の下に入ったためと思われるが、結果的には当該飼犬は負傷しなかった(加害者は負傷したと主張している。)。

 〔参考事項〕
 災害発生場所付近の状況
 災害発生場所はアスファルト舗装された幅4.8mの道路であるが、被災労働者の勤務先方向には通り抜けできないので、当該道路を通行する自動車はそのほとんどがN交通㈱と付近の居住者のもので、通行量は極く少ない。

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2 当局の意見
 被災労働者は、確かに通勤途上で被災したものであるが、当該地域で粗暴犯罪が多発している等の特段の事情が認められないので、本件災害は、通勤途上において偶発的に発生した機会原因的なものであり、通勤に通常伴う危険が具体化したものではなく、単なる暴行事件であると思料されるがいささか疑義がある。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 自動車で通勤する労働者が、通勤の途中で犬をひきそうになることは通常発生し得る出来事であり、また、このような出来事に遭遇した場合において、当該犬の飼主が反射的に当該労働者に対して暴行に及ぶこともあり得ることである。このような場合、他に暴力を引き起こす通勤と関係のない事由が認められない限り、通勤と暴行との間に相当因果関係が認められる。
 本件の場合、被災労働者と加害者とは全く見ず知らずであり、私的な怨恨関係が認められず、また、被災労働者は一方的に暴行を受けており、加害者の暴行を誘発するような言動を一切行っていないものである。このことから、本件における暴行は、通勤を原因として発生したものであり、通勤との相当因果関係が認められるものである。
 従って、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。

休職者の被保険者資格の取扱いと保険料負担(昭26.3.9保文発619号)

休職者の被保険者資格の取扱いと保険料負担(昭26.3.9保文発619号)

休職と被保険者資格について(昭26.2.28電経総40号厚生省保険局長あて電気事業経営者会議事務局長照会)


健康保険料は法第七十一条第二項により毎月につき各保険者の標準報酬に保険料率を乗じ各保険者よりその負担分を徴収する事になつて居りますが、被保険者が労働協約又は就業規則により雇傭関係は存続するが会社より賃金の支給を停止されたような場合(例えば病気若しくは公職就任又は事故による無給休職の如き)には其の保険料算定の基礎を失い保険料の徴収は不可能となりますが、かかる場合

1 被保険者資格を喪失し保険給付を受け得ざる事になるか。

2 前項の場合資格を喪失せしめず保険給付を受けうるものとすれば負担能力なき保険料の合法的処置は如何にすればよいか。

以上二点に対し、

法第二十条並第五十五条との関連に於て、その取扱の均衡を失せざるよう取扱い度いと存じますので何分の御教示を御願い致します。



休職と被保険者資格について(昭26.3.9保文発619号電気事業者経営者会議事務局長あて厚生省保険局長回答)


昭和二十六年二月二十八日附電経総第四〇号を以て御照会になりました標記について左記のとおりお答えします。


1 健康保険の被保険者が、労働協約又は就業規則等により雇傭関係は存続するが会社より賃金の支給を停止されたような場合には、箇々の具体的事情を勘案検討の上、実質は使用関係の消滅とみるを相当とする場合例えば被保険者の長期にわたる休職状態が続き実務に服する見込がない場合又は公務に就任しこれに専従する場合等に於ては被保険者資格を喪失せしめるのが妥当と認められる。

2 右の趣旨に基き被保険者の資格を喪失することを要しないものと認められる病気休職等の場合は、賃金の支払停止は一時的のものであり使用関係は存続するものとみられるものであるから、事業主及び被保険者はそれぞれ賃金支給停止前の標準報酬に基く保険料を折半負担し事業主はその納付義務を負うものとして取扱うことが妥当と認められる。

労働基準法の一部を改正する法律案の概要

労働基準法の一部を改正する法律案の概要

厚生労働省から公表されました
https://www.mhlw.go.jp/content/000591650.pdf

こちらとほぼ同じ内容です。
賃金等債権の消滅時効が令和2年4月から3年へ伸長の見込み - 社会保険労務士川口正倫のブログ

改正の趣旨

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により、使用人の給料に係る短期消滅時効が廃止されることや、労働政策
審議会の建議等を踏まえ、労働基準法における賃金請求権の消滅時効期間等を延長するとともに、当分の間の経過措置を講ずる。

改正の概要

1.賃金請求権の消滅時効期間の延長等

・賃金請求権の消滅時効について、令和2年(2020年)4月施行の改正民法と同様に5年に延長
消滅時効の起算点が客観的起算点(賃金支払日)であることを明確化
(※)退職手当(5年)、災害補償、年休等(2年)の請求権は、現行の消滅時効期間を維持

2.記録の保存期間等の延長

・賃金台帳等の記録の保存期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長
・割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長

3.施行期日、経過措置、検討規定

・施行期日:改正民法の施行の日(令和2年(2020年)4月1日)
・経過措置:賃金請求権の消滅時効、賃金台帳等の記録の保存期間、割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間は、当分の間は3年。
施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用
・検討規定:本改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じる

独自統計等の概要(労働者派遣法第 30 条 の4第1項第2号イ)

独自統計等の概要(労働者派遣法第 30 条 の4第1項第2号イ)

局長通達(※)で定める賃金構造基本統計調査及び職業安定業務統計で把握できる職種と派遣労働者が実際に行う業務との間に乖離がある場合などは、局長通達で示す統計以外の統計(独自統計等)を用いることが可能。
※令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について(令和元年7月8日付け職発0708第2号
① 統計法第2条第6項の基幹統計調査又は同条第7項に規定する一般統計調査に該当する調査
② ①以外の地方公共団体又は独立行政法人等(統計法第2条第2項の独立行政法人等)による統計
③ ①及び②以外の統計
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新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(令和2年2月4日時点版)

新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(令和2年2月4日時点版)

新型コロナウイルスに関する事業主・職場のQ&A|厚生労働省

安全衛生に関する問い合わせ

問1 職場で取り組むべき新型コロナウイルス対策にはどのようなことがありますか。

 予防法としては、一般的な衛生対策として、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様に、咳エチケット※や手洗い、うがい、アルコール消毒など行っていただくようお願いします。
 また、湖北省から帰国・入国される方あるいはこれらの方と接触された方におかれましては、咳や発熱等の症状がある場合には、マスクを着用するなどし、事前に保健所へ連絡したうえで、受診していただきますよう、御協力をお願いします。
 また、医療機関の受診にあっては、湖北省の滞在歴があることまたは湖北省に滞在歴がある方と接触したことを事前に申し出てください。

※ 咳エチケットとは、感染症を他人に感染させないために、個人が咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえることです。
特に電車や職場、学校など人が集まるところで実践することが重要です。



問2 労働者が湖北省に滞在していましたが、どのような対応をしたらよいのでしょうか。

 入国してから2週間の間に、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを実施の上、あらかじめ保健所に連絡の上速やかに医療機関を受診していただきますよう、御協力をお願いします。なお、受診に当たっては、湖北省への滞在歴があることを申告してください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
 また、湖北省に滞在していた方と接触された方で咳や発熱等の症状がある場合にも同様に受診してください。



問3  労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置を講ずる必要はありますか。

 2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなりますので、それに従っていただく必要があります。
労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業制限の措置については対象となりません。


労働基準法に関する問い合わせ

問4  新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 新型コロナウイルス感染症の現状からは、中国国内ではヒトからヒトへの感染は認められるものの、我が国において、現在、流行が認められている状況ではありません。
 国民の皆様におかれては、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様にお一人お一人の咳エチケットや手洗いなどの実施がとても重要です。感染症対策に努めていただくようお願いいたします。
 また、新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取扱については、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。
 なお、賃金の支払の必要性の有無等については、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものですが、法律上、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要性の有無については、一般的には以下のように考えられます。(以下は現時点の状況を基にしており、今後の新型コロナウイルスの流行状況等に応じて変更される可能性がありますのでご留意ください。)

①労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合
 新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。

②労働者に発熱などの症状があるため休業させる場合
 新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用すること等が考えられます。
 一方、例えば熱が37.5度以上あることなど一定の症状があることのみをもって一律に労働者を休ませる措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

武漢市を含む湖北省から帰国した労働者等の新型コロナウイルスに感染した可能性のある労働者を休業させる場合
 入国してから2週間の間に、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを実施の上、あらかじめ保健所に連絡の上速やかに医療機関を受診していただきますよう、御協力をお願いします。なお、受診に当たっては、湖北省への滞在歴があることを申告してください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。また、湖北省に滞在していた方と接触された方で咳や発熱等の症状がある場合にも同様に受診してください。
 医療機関の受診の結果を踏まえても、職務の継続が可能である労働者について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

※なお、①から③において休業手当を支払う必要がないとされる場合においても、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討する等休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。



問5  新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどうですか。

年次有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものですので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則等の規定に照らし適切に取り扱ってください。



問6  新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護等のために労働者が働く場合、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

 御質問については、新型コロナウイルスに関連した感染症への対策状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の新型コロナウイルスが指定感染症に定められており、一般に急病への対応は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
 ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、 過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を 月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより 疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。
 そもそも、労働基準法32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていただくことが必要です。
 しかし、災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。
 なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。