社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



就業時間前に労働組合集会に参加するため、通常の出勤時刻より1時間半ほど早く会社へ向かう途中の事故は、通勤災害か(昭和52.9.1基収793号)

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就業時間前に労働組合集会に参加するため、通常の出勤時刻より1時間半ほど早く会社へ向かう途中の事故は、通勤災害か(昭和52.9.1基収793号)

(問)
 当局管内において下記事故が発生しましたが、通勤災害の認定上疑義が生じましたので、何分のご教示をお願い致します。

1 事案の概要
(1) 所定労働時間
  別添1 勤務割表による
(2) 災害発生の日の就業開始の予定時刻又は就業終了の時刻
  午後4時30分(5月15日)~午前1時30分(5月16日)
(3) 災害発生の日に住居又は就業の場所を離れた時刻
  午後2時25分頃(自宅出発)
(4) 通勤経路
  別添2 通勤経路略図
(5) 災害発生状況
 被災労働者らK観光タクシー㈱の従業員で組織する労働組合は、賃上げ要求に対する会社側の回答は不満であるとして、昭和52年5月14日午後4時30分より翌日の5月15日午後4時30分まで24時間ストを決行していたが、スト終了前の5月15日午後3時から午後4時30分まで、営業所を含む全組合員参加による決起集会を本社構内駐車場で開くことになっていた。
 被災労働者Tは、本社勤務であるが、スト終了直後、即ち5月15日午後4時30分からの勤務となっていたため、決起集会終了後直ちに勤務に就く心づもりをして、決起集会に出席するため、いつもより1時間30分位早い午後2時25分頃バイクを運転して自宅を出発し、通常の通勤経路を会社へ向って時速15㎞位で走行中、市内K町Aコープ前路上において横風を受け身体のバランスを失い、バイク諸共転倒し負傷したものである。
 なお当日は、朝から曇天で風速約12m位の風が吹いており、前記場所にさしかかったとき、家並みの間からの強風を受けたものである。
2 問題点
 被災者が5月15日、通常の出勤時間より約1時間30分程早く自宅を出た行為は、労働組合の決起集会に参加するためのものであると考えるとき、その行為は業務以外の目的のためであるところから、就業との関連性はないものと解されるも、反面、当該集会の終了予定時刻が、被災者の当日の就業開始時刻と接続しているところから、就業との関連性を全く否定出来ない点を考慮するとき、被災者の当該行為を就業との関連性なしとする事にはいささか疑義がある。
3 当局の見解
 被災者が通常の出勤時刻よりも1時間30分程早く自宅を出発した行為が、決起集会に接続した被災者の勤務ダイヤに就業する予定を含んでいたとしても、第一義的には労働組合の決起集会に参加する目的であったと認められ、加えてスト中であったことなどから検討するとき、当該行為は就業との関連性はなかったものと解さざるを得ず、従って、本件は労災保険法第7条第1項第2号にいう通勤災害には該当しないものと考えられる。

(別添 1)
   K観光タクシーの勤務時間割等
1 勤 務 割
 ①7:00~16:00 ⑧16:30~1:30
 ②7:30~16:30 ⑨17:00~2:00
 ③8:00~17:00 ⑩17:30~2:30
 ④9:00~21:30 ⑪18:30~8:00当直
 ⑤8:30~18:00 ⑫当直明(非番)
 ⑥休日 ⑬公休
 ⑦12:00~23:30
2 就業の態様及びその人員
 (1) 勤務は、上記1のダイヤを1日交替で順次繰り下げて就業する。
 (2) 一ダイヤの勤務人員は、10~11人である。
3 被災労働者の勤務ダイヤ
被災労働者の当日のダイヤは上記1の⑧である。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 労働者が住居から就業の場所へ向かう行為が通勤と認められるためには、当該行為が業務と密接な関連をもって行われたものであることを要する。
 本件の場合、被災労働者が当日業務に従事することになっていたことは客観的に明らかであり、しかも被災労働者が、労働組合の集会に参加する目的で、通常の出勤時刻より約1時間30分早く住居を出た行為は、社会通念上就業との関連性を失わせると認められるほど所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に行われたものとはいえないので、当該行為は通勤と認められる。
 したがって、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。