社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



賞与が前月給与の10倍を超える場合の源泉徴収税の計算

賞与が前月給与の10倍を超える場合の源泉徴収税の計算

1.賞与における通常の源泉徴収税の計算

(1) 前月の給与から社会保険料等を差し引きます。
(2) 上記(1)の金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて税率(賞与の金額に乗ずべき率)を求めます。
(3) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)×上記(2)の税率
この金額が、賞与から源泉徴収する税額になります。

2. 前月の給与の金額(社会保険料等を差し引いた金額)の10倍を超える賞与(社会保険料等を差し引いた金額)を支払う場合

①賞与の計算期間が6か月以内の場合

(1)  (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6
(2)  (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)
(3)  (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(4)  (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)
(5)  (4)×6
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

②賞与の計算期間が6か月超過の場合

(1)  (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷12
(2)  (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)
(3)  (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(4)  (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)
(5)  (4)×12
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

3.前月に給与の支払がない場合

(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6
(2) (1)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(3) (2)×6
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

4.具体的な例

役員報酬の月額報酬(定期同額給与)を下げて役員賞与(事前確定届出給与)を支給することにより、年収を下げずに社会保険料を節約するような場合は、役員賞与の支給タイミングによって、源泉徴収額が大きく異なることがあります。
最終的には、年末調整で還付もしくは徴収されるので源泉徴収額の大小はあまり大きな問題ではありませんが、控除後の支給額を大きくしたいというのが人情です。

パターン1
役員報酬 1月~6月:300万円 7月~12月:15万円
・役員賞与 7月:1710万円
・本店所在地 東京都
・年齢 50歳(扶養等数0人)

【計算】
標準賞与額:1710万円
健康保険料(介護保険料を含む)=573万円×0.1163/2=333,199円(50銭以下切捨て)
厚生年金保険料=150万円×0.183/2=137,250円
∴賞与から社会保険料等を差し引いた金額=16,629,551円・・・・・①

前月の役員報酬:300万円
前月の標準報酬月額:139万円(健康保険)・62万円(厚生年金)
健康保険料(介護保険料を含む)=80,828円
厚生年金保険料=56,730円
∴前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額=2,862,442円・・・・・②

①は②の10倍を超えていないため、通常どおり源泉徴収額を計算します。
令和2年分 源泉徴収税額表|国税庁
令和2年の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめると、2,621千円~3,495千円で扶養等数0人なので、
税率=41.861%となります。
∴賞与の源泉徴収税=16,629,551円×41.861%=6,961,296円

パターン2
役員報酬 1月~6月:300万円 7月~12月:15万円
・役員賞与 8月:1710万円
・本店所在地 東京都
・年齢 50歳(扶養等数0人)

【計算】
賞与から社会保険料等を差し引いた金額=16,629,551円・・・・①
※パターン1と同じです。

前月の役員報酬:15万円

7月の社会保険料はパターン1と同じになります。(7月から報酬が下がったので10月から随時改定で、減額されます)
∴前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額=15万円-80,828円-56,730円=12,442円・・・・②

①は②の10倍を超えているため、通常の計算方法は使用できません。
ここで、賞与の計算期間を6か月以内と6か月超過の2パターンで計算してみます。

(賞与の計算期間を6か月以内とした場合)
※ここでは、少数点以下の数字は計算途中で切り捨てます。
(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6=①÷6=2,771,585円
(2) (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)=(1)+②=2,784,027円
(3) (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
※令和2年の月額表に当てはめます。
225万円超過350万円未満に該当するため、
(3) 615,120円+(2,784,027円-2,250,000円)×40.84=833,216円
(4) (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)=833,216円
※前月の給与に対する源泉徴収税額は、0円です。(課税額12,442円なので)
(5) (4)×6=833,216円×6=4,999,296円
∴賞与の源泉徴収税=4,999,296円

(賞与の計算期間を6か月超過とした場合)
※ここでは、少数点以下の数字は計算途中で切り捨てます。
(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷12=①÷12=1,385,795円
(2) (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)=(1)+②=1,398,237円
(3) (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
※令和2年の月額表に当てはめます。
95万円超過170万円未満に該当するため、
(3) 121,480円+(1,398,237円-950,000円)×33.693%=272,504円
(4) (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)=272,504円
※前月の給与に対する源泉徴収税額は、0円です。(課税額12,442円なので)
(5) (4)×12=272,504円×12=3,270,048円
∴賞与の源泉徴収税=3,270,048円

賞与の源泉徴収税は、計算期間が6か月以内の場合の方が高くなることがわかります。
この違いは、6か月以内というのは6か月後に同等の賞与を支給すると改定した税率で計算されるためだと思われます。

パターン1とパターン2は、年収も役員賞与も同額であるにも関わらず、源泉徴収税額は大きく異なる結果となりました。(賞与計算期間を6か月超過で計算するとパターン2はパターン1の半分以下となります。)
役員報酬の月額報酬を下げて役員賞与を支給することにより、年収を下げずに社会保険料を節約する場合は、このように役員賞与を支給するタイミングによって源泉聴取税額が大きく異なることがあります。
なお、源泉徴収税は最終的には年末調整や確定申告で精算されますので、源泉徴収税額が少なければ後から徴収されることになり、年間ベースで見れば損得はありません。

新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(令和2年2月1日時点版)

新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A(令和2年2月1日時点版)

新型コロナウイルスに関する事業主・職場のQ&A|厚生労働省


<安全衛生に関する問い合わせ>
問1 職場で取り組むべき新型コロナウイルス対策にはどのようなことがありますか。

予防法としては、一般的な衛生対策として、咳エチケット※や手洗いなどを行っていただくようお願いします。

※ 咳エチケットとは、感染症を他人に感染させないために、個人が咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえることです。
特に電車や職場、学校など人が集まるところで実践することが重要です。


問2 労働者が武漢市に滞在していましたが、どのような対応をしたらよいのでしょうか。

入国してから2週間の間に、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを実施の上、速やかにお住まいの地域の保健所に連絡し、医療機関を受診するようにしてください。その際、武漢市に滞在していたことを申告するようにしてください。


問3  労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置を講ずる必要はありますか。

2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなりますので、それに従っていただく必要があります。
労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業制限の措置については対象となりません。


労働基準法に関する問い合わせ>
問4  新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどうですか。

年次有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものですので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則等の規定に照らし適切に取り扱ってください。


問5  新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護等のために労働者が働く場合、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

労働基準法32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていただくことが必要です。
しかし、災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。
なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。
御質問については、新型コロナウイルスに関連した感染症への対策状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の新型コロナウイルスが指定感染症に定められており、一般に急病への対応は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、 過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を 月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより 疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。

事業場所有地内の組合会館で行われた「旗びらき」に参加するため、業務終了後2時間程度とどまった帰りの事故は、通勤災害か(昭50.3.30基収2606号)

事業場所有地内の組合会館で行われた「旗びらき」に参加するため、業務終了後2時間程度とどまった帰りの事故は、通勤災害か(昭50.3.30基収2606号)

(問)
1 被災労働者の通勤経路
 別添略図(1)のとおり自宅からK駅まで徒歩、同駅から汽車(国鉄)に乗りT駅で下車、徒歩で事業場まで往復する経路である。
2 災害発生の状況
 被災労働者は、当日午前8時00分~午後4時30分までの就業を終え、別添略図(1)のとおり事業場の向側に建設された労働組合会館において午後5時20分頃より開催された(予定時間午後5時~午後6時)労働組合主催の旗開きにN工場第一支部委員として他支部委員89名とともに参加し(当該労働者は午後4時50分頃に到着)、談合、飲食した後、午後6時10分頃中座し、T駅発6時39分、K駅着6時52分の汽車を利用し、下車後通常経路により帰宅中、対向車に接触負傷したものである。
3 参考事項
 イ 労働組合会館について
  ① 当会館は、産業道路(幅12m)開通により事業場と分離された向側にある事業場の所有地(別添(1))239.20㎡に同事業場、労働組合員の拠金により建設され、労働組合が管理している。

 ② 当該事業場では労務管理上、産業道路向側にある関連事業場へ行く場合、社用外出簿に用件を記載して外出するが、労働組合執行委員等の労働組合会館への用件の場合は自由としている。
 ③ 当会館と事業場は前記①のとおり、事業場所有地に分離して建設されているが、別添(2)<略>のとおり横断歩道で結ばれており、会館への用件は、横断歩道の通行を厳守している。
 ④ 当該事業場の警備については、事業場が委託した警備会社が行っているが、労働組合会館についても隣接して職員駐車場があり、あわせて警備している。

4 当局の意見
 本災害は当日業務終了後、労働組合主催の旗びらき等のため午後4時30分~6時10分まで約1時間40分参加し、合理的な経路を経由して帰宅途中受傷したものであるが、労働組合会館は事業場の所有地に建設されてはいるが、産業道路をへだてて向側にあり労働組合員の拠金により建設され、かつ、管理されているもので、事業場内の施設とは解せられなく、組合会館は合理的な経路上にあるが、旗びらきの目的で他支部(丸の内支部)の組合員も参加しており、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行なった、いわゆる「中断」後の災害であり通勤災害と認められないのが妥当と思料される。

5 疑義の点
 労働組合会館は産業道路の開通により事業場と分離された、向側に建設されたものであるが、事業場の所有地であり、広く事業場の一角に建設された施設内と解すれば、被災労働者についてはN工場の労働者であり、業務終了後職場で労働組合の会合に出席し、約1時間40分の時間でもあり、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められる程長時間にわたっていないものと思料され、いささか疑義がある。


(答)
 通勤災害と認められる。


(理 由)
1 本件の場合、従業員用の駐車場のある当該事業場所有地については、元来、本社工場と同一敷地内にあったものが産業道路ができたことによって二分されたものであり、また、現実に事業主による管理が行われているところから、本社工場と一体性を有する事業場施設といえ、業務の終了後、当該事業場施設内に存する労働組合会館の利用中はまだ「就業の場所」内にあるものと認められる。
2 次に、当該被災労働者が業務を終了した後、帰途につくため、就業の場所を出るまでの間、当該就業の場所内で費した時間(1時間40分)も社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失うと認められるほど長時間であるとも認められない。
3 したがって、本件は、就業との関連性に基づく退勤行為中に被災したことから、労災保険法第7条第1項第2号にいう通勤災害と認められる。

帰宅の際、自社が入居する雑居ビルの玄関口のガラスドアにぶつかって負傷した事故は、通勤災害か、業務上災害か(昭51.2.17基収2152号の2)

帰宅の際、自社が入居する雑居ビルの玄関口のガラスドアにぶつかって負傷した事故は、通勤災害か、業務上災害か(昭51.2.17基収2152号の2)

(問)
1 事案の概要
(1) 災害の発生状況

イ 被災労働者は、昭和48年12月26日、時間外勤務を終え、帰宅するためS工業㈱が入居しているビルを出ようとした際に、玄関のドア(全面透明ガラス)が開いているものと錯覚し、当該ドアに前額部をぶつけ、その際破損したガラスにより、同部を負傷したものである。

ロ 玄関等の照明は、入居事業場の従業員が必要に応じて自由に点滅できるようになっており、災害発生時には消灯してあった。

ハ 玄関口の面積は、約2㎡でやや狭い感じであり、床はコンクリート敷である。また、当該場所には40Wの蛍光灯がついている。

ニ 被災労働者は特に走ってきて、その勢いでドアに衝突したものではなく、通常の歩行で階段を降りてきたが、玄関の蛍光灯が消えて暗くなっているので外の明りを目安にしてきて、ドアが開いているものと錯覚を起こしてドアに衝突したものである。

(2) 当該共用ビルの一般的状況

イ ビルの名称   Hビル
ロ 室数      12室
ハ 建物の構造
 鉄筋コンクリート3階建
ニ 各室の状況

 各室には洗面所、湯沸所、便所などの各施設が設置されている。
ホ 共用施設の状況
 建物の施設のうち、本件に直接関係のある共用施設としては、各室に至るまでの玄関、階段等の通路の部分及び当該部分に付設する電灯などの施設である。
ヘ その他

(イ) 共用施設(玄関、階段等)を使用する場合は、汚さず、騒音を出さず、かつ破損しないようにとの定め(慣習)があること。
(ロ) 不特定の者の出入りは少ないこと。
(ハ) 所有者は当該ビルには入居していないが、朝の開扉と夜の閉扉を行っていること。
(ニ) 当該事業場は、物品等の購入のため共用施設を使用していること。

2 問題点
(1) S工業㈱が入居しているビルには、数事業場がビル所有者から賃借し入居している、いわゆる雑居ビルで、S工業㈱は3階に入居している。
 なお、共用費(共用電灯の料金等)はビル入居事業場が均等負担している。
(2) 災害の発生場所は、入居事業場の従業員等が一般に通行する玄関口であり、当該場所はS工業㈱の事業主の占有的施設管理権のない場所である。

3 当局の見解
本件災害については、通勤災害として認めるのを相当と考える。
 すなわち、(1)本件災害は、S工業㈱の事業主の占有的施設管理権のない場所における被災労働者の退勤行為中に生じたものであること、(2)被災労働者の行為は、就業に関し、住居と就業の場所との間を、通常の経路及び方法によって行われたものと認められ、かつ、当該行為には、業務の性質を有するもの(帰宅する途中における業務行為)がないと認められること等の理由により通勤災害と認めるのが相当と考える。


(答)
 通勤災害とは認められない。


(理 由)
1 本件ビルの共用部分(玄関、廊下、階段等)は、不特定多数の者の通行を予定しているものではなく、又、その維持管理費用が当該共用ビル入居事業場の均等負担であること及びその使用にあたっての了解事項等から判断すると、当該共用ビル所有者と入居事業場の各事業主等が、当該共用部分を共同管理しているものと解することが妥当である。
2 従って、本件玄関のドアは当該事業主の施設管理下にあるもの(就業の場所)と認めることが妥当である。
3 以上のことから、本件災害は事業主の支配下における災害であって、労災保険法第7条第2項の住居と就業の場所との間の災害には該当しない。

※恐らく、業務災害にあたると判断されたものと思われる。

マイカー通勤の労働者が、自勤務先から2.5キロメートル離れた妻の勤務先まで送った後、自宅に忘れ物を取りに戻る途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2042号)

イカー通勤の労働者が、自勤務先から2.5キロメートル離れた妻の勤務先まで送った後、自宅に忘れ物を取りに戻る途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2042号)

(問)
 当局管内において、下記事故が発生しましたが、通勤災害の認定上疑義が生じましたので何分のご指示をお願いいたします。

1 事案の概要
 (1) 所属事業場
   ㈱T製作所
   T県M郡I町 仏壇製造業
 (2) 被災労働者
   A.N 男 34歳
   T県M郡N町O町営住宅
   販売部員(商品の配送、在庫管理)
 (3) 災害発生年月日
   昭和49年8月23日 午前8時15分頃(昭和49年8月23日午前8時35分死亡)
 (4) 災害発生場所
   T県M郡M町
   国道192号線
 (5) 傷病の部位及び傷病名
   頸椎骨折、頸髄損傷(死亡)
 (6) 災害発生の日の就業場所
   T県M郡I町
 (7) 所定労働時間
   午前8時~午後5時
 (8) 災害発生の日の就業開始の予定時刻
   午前8時
 (9) 災害発生の日に住居を離れた時刻
   午前7時15分頃
 (10) 通常の通勤経路(別添資料のとおり)
   マイカーにて自宅→国道192号線→県立M病院正門(妻の勤務先)→国道192号線(引返す)→M大橋→国道32号→県道→勤務先
 (11) 災害発生状況
 昭和49年8月23日被災労働者は、共稼ぎの妻が運転する軽四輪乗用車の助手席に同乗し、午前7時15分頃自宅を出発し、国道192号線を西方に向け約23.5キロメートル走行し、午前7時50分頃妻の勤務先であるM病院正門に到着、妻が出勤のため下車したので、被災労働者が軽四輪乗用車を運転し、会社に向かうべく国道192号線を引き返したが、通常勤務先へはM大橋南詰交差点を左折し北進しなければならないのに、左折せずにそのまま直進し約15キロメートル東進したM郡M町K1854-5交差点で信号待ちのため停車中の軽四輪トラックに追突し、頸椎骨折、頸髄損傷のため、午前8時35分死亡した。

2 問題点
 妻が、M病院で下車したあと、勤務先へ向かわず、自宅の方向へ直進した理由については、会社の就業に必要な書類を取りに帰るための行為と認めることができるが、自分の勤務先より約2.5キロメートル離れた妻の勤務先に迂回した後、更に21キロメートル離れた自宅まで引き返す途中の事故が通勤災害と認められるか否か疑義がある。

3 当局の見解
 マイカー通勤の共稼ぎ労働者が、妻の勤務先まで往復5キロメートルの距離を迂回する行為及び自分の勤務先方向へ左折せず自宅方向へ直進する行為が会社の就業に必要な書類を取りに帰るための行為であるとしても、明らかに通勤行為を逸脱したものと認められる。


(答)
 通勤災害として取り扱うのが妥当である。


(理 由)
1 本件の場合には、次の事由から、被災労働者と同一方向にある事業場に勤務する妻とがマイカーに相乗りして通勤することに合理性があると判断できることから、当該労働者が出退勤時に経由する経路を労災保険法第7条第2項の「合理的な経路」と認めるのが妥当である。

(1) 夫婦共稼ぎ労働者であり、両者とも就業のため自宅(住居)を出たものであること。

(2) 被災労働者の居住する地域は、山間部のいわゆる郡部であって、公共交通機関(鉄道、バス) を用いて通勤したとしても所定始業時刻に間に合わなくなる等、極めて不便であることが認められるので、マイカーを利用して通勤することが最も合理的な方法であると解されること。
 したがって、夫婦どちらかの運転するマイカーに同乗して通勤することに合理的理由があると認められること。

2 次に出勤の途中引き返したことは、会社の就業に必要な書類を忘れたことに気づき、自宅に取りに帰るための行為であると推断できることから、当該引き返す行為に「就業関連性」があると認めるのが相当である。

3 以上のことから、本件の被災労働者の災害は、就業との関連性に基づく通勤行為中に被災したものであって、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害として取り扱うのが妥当である。

業務終了後、労働組合の執行委員として労使協議会に5時間以上出席して帰宅する途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2043号)

労働組合の執行委員として労使協議会に5時間以上出席して帰宅する途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2043号)

(問)
 当局管内に下記事故が発生しましたが、これが通勤災害の認定上いささか疑義がありますので、何分のご指示を仰ぎたくりん伺いたします。

1 災害発生状況
 被災労働者S.Kは当日午後5時20分に所定の勤務を終え、午後6時より事業場内において開催された労使協議会に出席し、同協議会終了(午後11時20分ごろ)後、通勤に使用している50㏄原動機付自転車により通常の経路を帰宅途上、道路の「くぼみ」に前輪を落とし、転倒し右膝挫滅創、膝蓋靭帯損傷(全治4週間)等の負傷をしたものである。
2 労使協議会の性格
 (1) 労使協議会は、事業場と当該事業場の労働組合との間に締結されている労働協約にもとづいて、昭和47年8月以降設置されてきているものであり、定例的に月1回開催されているものである。その構成は事業場側より、常務取締役、総務部長、人事部長、人事部員が出席し、労働組合よりは、執行委員以上の役員が通常出席している。
 (2) 協議会の開催時刻は午後6時より行われているが、これは本社より約10㎞程の距離にある穂積工場に勤務する者の出席を考慮したものである。
 (3) 協議会の議案は、労働条件を含め、経営全般について労使の間において協議することが慣行として行われてきている。
 (4)労使協議会の運営規則等は設けられてはいないが、労働条件については団体交渉前の事前手続あるいは予備的なものとして運営されており、生産、経営に関する事項については、労使の協議関係として予定されているものと理解される。
 (5) 災害発生当日の協議事項は、別添の議事録<略>のとおりであり、賃金引上げを含め、経営の全般に関することが協議されたので、相当の長時間を要したものであることが認められる。
3 通勤災害として認定上の疑義
 当日の労使協議会は賃金の引上げを含め、生産、経営上の問題を含めた労使の話し合いが行われているので、その内容は事業の付随、延長行為ないしは、これに準ずるものであると認められる事項も多分にあるので、単に労働組合の役員としての行為のみであると認めることは、いささか狭きに失するのではないかと考えられる。したがって通勤災害として認定したいが疑義がある。


(答)
 通勤災害とは認められない。


(理 由)
 本件被災労働者は労働組合の執行委員として労使協議会に出席したことは、使用者との雇用契約の本旨に基づいて行う行為、すなわち、「業務」であるとはいえず、むしろ労働組合の役員としての職務で出席したものと解される。
 また、業務終了後、当該労使協議会等のために事業場施設内に滞留した時間(約6時間)も、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間であることから、当該帰宅行為が労災保険法第7条第2項の通勤とは認められない。
 したがって、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害には該当しない。

出勤途中の労働者が通常より5分遅れて自宅を出て、自転車で急いで駅まで向かう途中ので急性心不全は、通勤災害か(昭50.6.9基収4039号)

出勤途中の労働者が通常より5分遅れて自宅を出て、自転車で急いで駅まで向かう途中ので急性心不全は、通勤災害か(昭50.6.9基収4039号)

(問)
 被災労働者は、事故当日いつもの起床時刻より遅れたため、朝食もとらずに通常より5分おくれて住居を出て、急いで自転車で約500メートル先の国鉄H駅へ向った。
 その後、被災労働者がH駅構内の下りホームと通ずる階段で倒れているのを発見され、医師により手当を受けたが、そのかいもなく急性心不全により死亡した。


(答)
 通勤災害とは認められない。


(理 由)
 「通勤による疾病」とは、通勤による負傷又は通勤に関連ある諸種の状態(突発的又は異常なできごと等)が原因となって発病したことが医学的に明らかに認められるものをいうが、本件労働者の通勤途中に発生した急性心不全による死亡については、特に発病の原因となるような通勤による負傷又は通勤に関連する突発的なできごと等が認められないことから「通勤に通常伴う危険が具体化したもの」とは認められない。
 従って、本件は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害には該当しない。

大雨の中を帰宅する途中、河川の氾濫で浸水した道を通行するうちに転倒して溺死した事故は、通勤災害か(昭50.4.7基収3086号)

大雨の中を帰宅する途中、河川の氾濫で浸水した道を通行するうちに転倒して溺死した事故は、通勤災害か(昭50.4.7基収3086号)


(問)
 被災労働者は三勤(三交替勤務)を終え、午前7時10分頃発の会社専用バスに乗車し、K鉄道S駅で下車(職場同僚現認)、7時25分頃S駅からH町行きK鉄道電車に乗車し、I駅で下車(職場同僚現認)、I駅から7時40分頃のM町行き電車に乗り換えB駅で下車する。
 B駅前の自転車預かり所に立ち寄り、そこで近くの自転車預かり所にいた職場の同僚のT、G両名と一緒になったが、集中豪雨のため近くの河川がはん濫したことにより道路が浸水し、自転車通勤が不可能と判断したのか、預かり所でズボンを脱いで手に持ち傘をさして両名より先に雨の中を帰路についた。
 Tはカッパを着用していた関係で時間をとったため、被災労働者より距離で約70m程遅れて同じ帰路を進んだ。
 前を見ると被災労働者が床屋の角を右に曲ったのを目撃したのが最後であって、当日事故現場付近は集中豪雨による浸水で膝ぐらいまでの水深があり、他人の行動について注意を配る余裕すらなく、自分の足元を見るのが精一杯で事故の原因の詳細は不明である。
 被災労働者が溺死体で発見された地点は別添図<略>のとおりであり、水深約50㎝の舗装道路を通るのに周辺は田んぼばかりで建物がないので、道路の右側寄りに立つ電柱を頼りに進み(舗装道路右側と電柱の間隔は1m20㎝ぐらいで、災害現場は約5mぐらいにわたり路肩が崩れている。)、路肩のくぼみに足をとられ転落し溺死したものと推定される。


(答)
 通勤災害として取り扱われたい。


(理 由)

1 労災保険法にいう通勤災害とは、通勤に通常伴う危険が具体化したものと経験法則上認められる場合をいい、いわゆる天災地変による災害の場合には、たとえ通勤途上に発生したものであっても、一般的に「通勤による」ものとは認められない。
 しかしながら、かかる天災地変に際して、通勤途上に災害を被りやすい特段の事情がある場合には、天災地変による災害の危険性も、同時に、通勤に伴う危険と解することができる。
 従って、天災地変に際して発生した災害も同時に災害を被りやすい通勤途上の特段の事情があり、かつ、その事情とあいまって発生したものと認められる場合には、通勤に通常伴う危険が具体化したもの、すなわち「通勤による」ものと認めることが相当である。
 なお、天災地変の規模が特に大きい場合(例えば、関東大震災等による災害)には、通勤途上の有無を問わず、広範囲にわたって災害を被る危険性があり、たとえ通勤途上という事情がなかったとしても誰でもが同じように天災地変によって被災したであろうと解されるので、かかる場合の災害は、その発生状況の如何を問わず「通勤による」ものとは認められないこととなる。

2 ところで、本件の事実関係について検討すると次のとおりである。

(1) 被災労働者は、当日、業務終了後(午前7時)直ちに退社し、通常の通勤経路を経て帰宅する途中に被災したものであること。また、被災した経路は、前日来からの大雨のため、付近の川がはん濫したことにより浸水していたが、次の事実から、当該被災労働者がその経路を通行したことに合理性があると認められること。

イ 被災した経路上の浸水は、50㎝位で水の流れは西から東へとゆっくり流れており、歩けないといった状態ではなかったこと。

ロ 被災労働者が他の経路を利用しなかったのは、それが当該経路より地盤が低いため浸水の度合いが大きかったと推定できること。

ハ 当該経路の利用にあたり、経路沿いの電柱を通行のための大きな目標としたものと推定できること。

ニ 被災労働者は、当該経路を常に利用しており、この付近の地理には詳しかったこと。

ホ 当該経路に通行禁止等の措置がとられていなかったこと。

ヘ 同僚労働者も、被災労働者から少し遅れて浸水した当該経路を通行していること。

(2) 次に、本件災害が「通勤による」かどうかであるが、

イ 被災労働者は、かさをさしながら経路沿いの電柱を目標に進んだが、方向を誤って、5mにわたり崩れている路肩(かさ及び死体の発見場所からの推定による。)から足を踏みはずし、転落し溺死したものと同僚労働者の聴き取りから推定できること。

ロ 当該経路は、以前に農道を改良したもので、舗装している部分と未舗装の傾斜している路肩からできており、また、経路と田んぼの側溝との高低の差が約1m50㎝位あるうえ、被災の原因となったと推定される路肩は、浸水する以前から約5mにわたり崩れており、特に危険標識等もなかったところから(事故発生直後は危険標識を施し、現在は、コンクリートにより補強されている。)、この経路を通る者にとっては、その崩れた路肩から足をすべらせ災害を被る危険があったと考えられること、また、被災当日の当該経路は、前日からの大雨により、付近の河川がはん濫したため、50㎝位の浸水があり、しかも、濁水のため、その経路の状況がはっきり分らなかったものであること。
 などから考えると、通勤に通常伴う危険が、たまたま発生した大雨を契機として具体化したものと認めることが相当である。

3 従って、本件災害は、通勤に通常伴う危険が具体化したものとして、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害として取り扱うのが妥当である。

帰宅時に長男宅に向かう途中の合理的経路上の事故は、通勤災害か(昭50.1.17基収2653号)

帰宅時に長男宅に向かう途中の合理的経路上の事故は、通勤災害か(昭50.1.17基収2653号)

(問)
 当該労働者は、平常T郡M町Kの自宅から定期バスを利用して通勤しているが、当日16時40分勤務を終え16時45分ごろ事業場を出発し、退勤時のバス乗車場所であるA町1丁目の停留所へ向かうため国道X号線を横断中、軽四輪車にはねられ被災したものである。
 当該労働者は、通常前記停留所から16時50分又は17時20分発のM温泉行きのバスに乗車し、M温泉で乗り換え、同町Kの自宅に帰っていたが、当日はR市F町の長男宅に通勤の途次立ち寄る意思をもって事業場を出発し、前記停留所から西R線バスに乗車する予定であった。同時間帯の西R線バスは5分ごとに運行されているため特に時間を確認しないまま事業場を出発したのである(以上のことは災害発生後の調査に際して本人が申し立てたものである。)。


(答)
 通勤災害と認められる。


(理 由)
 通勤とは、被災労働者の行為を外形的、かつ、客観的にとらえて判断するものであり、本件については、たとえ長男宅に立ち寄るつもりで就業の場所を出たものであっても、いまだに通常の合理的な通勤経路上にある限りにおいては、当該被災労働者の行為は労災保険法第7条第2項の通勤と認めるのが妥当である。
 したがって、本件は、通勤災害として取り扱うのが妥当である。

マイカーで帰宅途中に、通勤経路上にある姉経営の美容院に迎えに立ち寄り崖崩れに遭った場合は、通勤災害か(昭50.1.17基収3680号)

イカーで帰宅途中に、通勤経路上にある姉経営の美容院に迎えに立ち寄り崖崩れに遭った場合は、通勤災害か(昭50.1.17基収3680号)

(問)
 被災当日、K地方は集中豪雨があり、被災労働者は、道路が崩壊の恐れがあることと、姉Sが経営するK美容室の裏のがけ崩れの危険もあるので、いっしょに早く帰ろうと思い、上司の許可を得て、午後4時30分早退し、自家用自動車を運転し帰途についた。
 被災労働者の勤務先の乗馬クラブから1.4㎞離れた通勤経路上(国道X号線)にあるK美容室前に午後4時35分頃到着、美容室前の通路が駐車禁止となっているため、前の空地に停車、そこから歩いて美容室に入って間もなく(約4~5分)裏の地山が高さ12m、幅23mにわたり約300㎥崩壊し、美容室の建物は全壊し、その際姉とともに建物の下敷となって即死したものである。


(答)
 通勤災害として取扱われたい。


(理 由)

(1) 本件のマイカー通勤労働者が、通常、退勤途中において通勤経路上にある姉の経営する美容院に立ち寄り、姉を同乗させ帰宅するため待つ行為は、通勤行為の中断に該当する。
 従って、その後は労災保険法第7条第2項の「通勤」とは認められない。しかし、被災当日については、次の事実から姉といっしょに直ちに帰宅しようとしていたものと推定され、一般に労働者が通勤の途中で行う「ささいな行為」として取扱うのが相当と認められる。

① 当該地方を襲った集中豪雨のため、通勤経路である道路が崩壊するおそれがあったので帰宅できなくなると考えたこと、また、姉が経営する美容院の裏にあるがけが崩れ美容院が倒壊する危険性があると考えられたこと等から早く姉を同乗させ帰宅しようと会社を早退していること。

② 災害が美容院に入った直後(入ってから4分位と推定されること)に発生していること。

③ 美容院には、客がいなかったことから待たずにすぐ帰ることができたものと考えられること。

(2) 次に通勤中に生じた本件災害が「通勤による」かどうかであるが、当該被災労働者の通勤経路及び当該美容院は、通称「シラス」と呼ばれる、雨に対しては極めて軟弱な土質の上に盛土をしたがけ下にあり、一般にこのような場所を通勤する労働者にとっては、雨が降れば常に土砂崩壊による災害を被る危険が内在しているものといえ、本件災害もかかる危険が、被災当日当該地方を襲った局地的な集中豪雨によって具体化したものと認められる。

(3) 従って、本件災害は、通勤に伴う危険が具体化したものと認められるので、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当するものである。