社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



自動車で通勤途中、犬をひきそうになった労働者が飼い主から暴行を受けた場合は、通勤災害か(昭和52.7.8基収538号)

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自動車で通勤途中、犬をひきそうになった労働者が飼い主から暴行を受けた場合は、通勤災害か(昭和52.7.8基収538号)

(問)
 当局管内において左記の災害が発生し、被災労働者から通勤災害に係る保険給付の請求がありましたが、その認定についていささか疑義がありますので、何分の御教示をいただきたくお伺い致します。

1 災害発生状況
 被災労働者Y.Sは、当日午前10時が出勤時刻であるので、午前9時10分頃北本市の自宅を乗用車で出発し、通常の通勤経路を進行していたところ、勤務先近くの十字路に差しかかり、そこで一たん停車して約5キロメートル/時の速度で左折しようとしたとき、突然女性の「アッ」という驚きの声が聞こえたので、停車してドアを開けたところ、下図地点にいた加害者T.Kにいきなり一方的に殴るなどされ負傷(顔面打撲擦過傷)したものである。
 なお、女性が驚きの声をあげたのは、加害者の飼犬が同図A地点(加害者宅前)からB地点(加害者のいた場所)に行こうとして、突然路上に飛び出し、被災労働者の乗用車の下に入ったためと思われるが、結果的には当該飼犬は負傷しなかった(加害者は負傷したと主張している。)。

 〔参考事項〕
 災害発生場所付近の状況
 災害発生場所はアスファルト舗装された幅4.8mの道路であるが、被災労働者の勤務先方向には通り抜けできないので、当該道路を通行する自動車はそのほとんどがN交通㈱と付近の居住者のもので、通行量は極く少ない。

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2 当局の意見
 被災労働者は、確かに通勤途上で被災したものであるが、当該地域で粗暴犯罪が多発している等の特段の事情が認められないので、本件災害は、通勤途上において偶発的に発生した機会原因的なものであり、通勤に通常伴う危険が具体化したものではなく、単なる暴行事件であると思料されるがいささか疑義がある。

(答)
 通勤災害と認められる。

(理 由)
 自動車で通勤する労働者が、通勤の途中で犬をひきそうになることは通常発生し得る出来事であり、また、このような出来事に遭遇した場合において、当該犬の飼主が反射的に当該労働者に対して暴行に及ぶこともあり得ることである。このような場合、他に暴力を引き起こす通勤と関係のない事由が認められない限り、通勤と暴行との間に相当因果関係が認められる。
 本件の場合、被災労働者と加害者とは全く見ず知らずであり、私的な怨恨関係が認められず、また、被災労働者は一方的に暴行を受けており、加害者の暴行を誘発するような言動を一切行っていないものである。このことから、本件における暴行は、通勤を原因として発生したものであり、通勤との相当因果関係が認められるものである。
 従って、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当する。