複数事業労働者の休業(補償)等給付に係る部分算定日等の取扱いについて(基管発0318第1号・基補発0318第6号・基保発0318第1号)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T210319K0010.pdf
労働者災害補償保険法(昭和22 年法律第50 号。以下「労災法」という。)第14 条に新設した部分算定日等の取扱いについては、令和2年8月21 日付け基発0821 第1号「雇用保険法等の一部を改正する法律等の施行について(労働者災害補償保険法関係部分)」等の関係通達により示されているところであるが、この取扱いに係る疑義等が複数の都道府県労働局から寄せられていることから、その取扱いを整理したので、下記の事項に留意し、事務処理に遺憾なきを期されたい。
記
1.複数事業労働者に係る休業(補償)等給付の支給要件について
(1)給付事由
休業補償給付、複数事業労働者休業給付又は休業給付(以下「休業(補償)等給付」という。)は、①「療養のため」②「労働することができない」ために③「賃金を受けない日」という3要件を満たした日の第4日目から支給される(労災法第14 条第1項本文)。
(2)「労働することができない」
上記(1)②の「労働することができない」とは、必ずしも負傷直前と同一の労働ができないという意味ではなく、一般的に働けないことをいう。したがって、軽作業に就くことによって症状の悪化が認められない場合、あるいはその作業に実際に就労した場合には、給付の対象とはならない。
このため、複数事業労働者については、複数就業先における全ての事業場における就労状況等を踏まえて、休業(補償)等給付に係る支給の要否を判断する必要がある。例えば、複数事業労働者が、現に一の事業場において労働者として就労した場合には、原則、「労働することができない」とは認められないことから、下記(3)の「賃金を受けない日」に該当するかの検討を行う必要はなく、休業(補償)等給付に係る保険給付については不支給決定となる。
ただし、複数事業労働者が、現に一の事業場において労働者として就労しているものの、他方の事業場において通院等のため、所定労働時間の全部又は一部について労働することができない場合には、労災法第14 条第1項本文の「労働することができない」に該当すると認められることがある。
(3)「賃金を受けない日」
上記(1)③の「賃金を受けない日」には、賃金の全部を受けない日と一部を受けない日とを含むが、賃金の一部を受けない日については、昭和40年7月31 日付け基発第901 号「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の施行について」及び昭和40 年9月15 日付け基災発第14 号「労災保険法第12 条第1 項第2号の規定による休業補償費の支給について」に基づき、次の日であると解される。
① 所定労働時間の全部について「労働することができない」場合であって、平均賃金(労働基準法(昭和22 年法律第49 号)第12 条の平均賃金をいう。以下同じ。)の60%未満の金額しか受けない日
② 通院等のため所定労働時間の一部について「労働することができない」場合であって、当該一部休業した時間について全く賃金を受けないか、又は「平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金との差額の60%未満の金額」しか受けない日
ここで、複数事業労働者については、複数の就業先のうち、一部の事業場において、年次有給休暇等により当該事業場における平均賃金相当額(複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した平均賃金に相当する額をいう。以下同じ。)の60%以上の賃金を受けることにより賃金を受けない日に該当しない状態でありながら、他の事業場において、傷病等により無給での休業をしているため、賃金を受けない日に該当する状態があり得る。
したがって、複数事業労働者の休業(補償)等給付に係る「賃金を受けない日」の判断については、まず複数就業先における事業場ごとに行うこと。その結果、一部の事業場でも賃金を受けない日に該当する場合には、当該日は労災法第14 条第1項の「賃金を受けない日」に該当するものとして取り扱うこと。
一方、全ての事業場において賃金を受けない日に該当しない場合は、当該日は労災法第14 条第1項の「賃金を受けない日」に該当せず、保険給付を行わないこと。
2.部分算定日における休業(補償)等給付の額について
(1)一の事業場のみに使用される労働者に係る部分算定日の取扱い
従来から、休業日であっても平均賃金の60%以上の賃金を年次有給休暇等により受ける場合は、「賃金を受けない日」に該当せず、休業(補償)給付の支給対象ではなかったが、時間単位の年次有給休暇等により休業日の所定労働時間のうち一部分について平均賃金の60%未満の賃金を受ける場合には、「賃金を受けない日」に該当し、休業(補償)給付の支給対象となっていた。
その際、このような休暇に対する賃金に関してはこれまで控除に係る規定がなく、所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働し、賃金を一部受ける場合との不均衡が生じていたことから、年次有給休暇等により賃金が支払われる場合は、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)による改正後の部分算定日に係る労災法第14 条第1項但書きの規定に基づき、給付基礎日額から実際に支払われた賃金を控除することとされたものである。
また、当該控除に際して、月単位で支給される賃金について、日割り計算による減額がなされず、当該休業日についても支給される場合は日割計算した金額(昭和45 年5 月14 日付け基発375 号に準じ30 で除した金額)を控除すること。
なお、本取扱いの適用を受けるのはあくまで「賃金」が支払われる場合であることから、「賃金」(労働の対価)ではない見舞金等は対象とならない。
例えば、部分算定日に係る給付額の算定に際しては、労災保険給付が支給されることを前提としながらこれに上積みして給付する趣旨のもの(いわゆる企業内労災補償等)、及び日割計算することができない傷病手当等(1事故に対し1回のみ支給するもの)は控除対象から除くこと。(下記(2)エにおいて同じ。)。
また、所定労働時間のうちその一部についてのみ労働する日に係る取扱いに変更はないこと。
(2)複数事業労働者に係る取扱い
上記1(3)のとおり、「賃金を受けない日」の判断は、まず複数就業先における事業場ごとに行う。このため、一部の事業場で賃金を受けない日に該当し、一部の事業場で賃金を受けない日に該当しない場合及び全ての事業場で賃金を受けない日に該当する場合は、労災法第14 条第1項の「賃金を受けない日」に該当するものとして、休業(補償)等給付の支給対象となる。
このうち、一部の事業場で賃金を受けない日に該当し、一部の事業場で賃金を受けない日に該当しない場合又は全ての事業場で賃金を受けない日に該当しているものの、平均賃金相当額の60%未満の賃金を受けている場合の保険給付額は、下記ア又はイに基づき給付基礎日額から実際に支払われる賃金(平均賃金相当額を上限とする。)を控除した額をもとに保険給付を行うこと。
ア 「賃金が支払われる休暇」(労災法第14 条第1項但書き)に係る保険給付額
上記1(3)により「賃金を受けない日」に該当すると判断される場合であって、一部賃金が年次有給休暇等により支払われる場合は、部分算定日に係る労災法第14 条第1項但書きの規定に基づき、給付基礎日額から実際に支払われた賃金(平均賃金相当額を上限とする。)を控除した金額をもとに、当該日についての保険給付を行うこと。
その際、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を給付基礎日額とした場合のほか、当該額が適当でないと認められ、令和2年8月21 日付け基発0821 第2号「複数事業労働者に係る給付基礎日額の算定について」記第1の3(2)又は(3)に基づき算定した額を給付基礎日額とした場合についても、給付基礎日額から実際に支払われた賃金(平均賃金相当額を上限とする。)を控除すること。
イ 「所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日」(労災法第14条第1項但書き)に係る保険給付額
所定労働時間とは、就業規則や労働契約等において、労働者が契約上、労働すべき時間として定められた時間を指すため、「所定労働時間のうちの一部分についてのみ労働する日」に該当するかについても、複数の就業先における事業場ごとに判断すること。「所定労働時間の一部分についてのみ労働する日」に該当する場合は、部分算定日に係る労災法第14 条第1項但書きの規定に基づき、給付基礎日額から実際に支払われた賃金(平均賃金相当額を上限とする。)を控除した金額をもとに、当該日についての保険給付を行うこと。
なお、一部の事業場において所定労働時間のうちその全部を労働し、他の事業場において通院等で労働することができず、所定労働時間のうちその全部について休業している場合もあり得るところ、この場合も「所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日」に準じて取り扱うこと。
ウ 端数処理について
部分算定日に係る処理により円未満の端数が生じる場合は、国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律(昭和25 年法律第61 号)第2条に基づき、その確定金額から端数金額を切り捨てること。
エ 休業特別支給金
休業特別支給金においても、上記と同様の処理によること。
3.メリット制における取扱いについて
複数事業労働者に係る休業補償給付のメリット制における取扱いについては、原則として、災害発生事業場に係る平均賃金相当額を平均賃金とみなして労災法第8条第1項及び第2項並びに同法第8条の2を適用したとする場合の休業給付基礎日額(以下「災害発生事業場に係る休業給付基礎日額」という。)の100 分の60 に相当する額(1円未満の端数が生じる場合は切り捨て。)を、休業補償給付の額として災害発生事業場のメリット収支率の算定基礎に算入する。
ただし、上記2(2)ア又はイに該当する場合であって、給付基礎日額から実際に支払われた賃金(平均賃金相当額を上限とする。)を控除した金額をもとに休業補償給付を支給する場合は、その控除した額のうち災害発生事業場に係る額(災害発生事業場から実際に受けた賃金)を「災害発生事業場に係る休業給付基礎日額」から除いた額の100 分の60 に相当する額(1円未満の端数が生じる場合は切り捨て。)を災害発生事業場のメリット収支率の算定基礎に算入する。
また、災害発生事業場について「賃金を受けない日」に該当しない場合は、災害発生事業場のメリット収支率に算入しないこと。
なお、自動変更対象額の適用等があいまって、上記の取扱いによる災害発生事業場のメリット収支率の算定基礎に含める額が、実際に支給する休業補償給付の額を上回る場合については、実際に支給する休業補償給付の額を災害発生事業場のメリット収支率に算入すること。
休業補償給付に付帯する休業特別支給金の取扱いについても上記と同様とすること。
4.給付額のシステム処理について
部分算定日等を含む保険給付のシステム処理については、上記2に基づき算出した給付基礎日額により、保険給付額及び特別支給金額の各日の合計額を算定し、給付別項目修正帳票(署用)(帳票種別34503)により保険給付額及び特別支給金額の各合計額を実額入力処理すること。
なお、統計・メリットに係るシステム処理については、令和2年8月21 日付け基保発0821 第1号「労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う労働基準行政システム労災サブシステムの改修について」及び令和2年10 月6日付け事務連絡「複数事業労働者の労災保険給付に係る機械処理の留意事項について」を参照すること。