社会保険労務士川口正倫のブログ

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地震に際して発生した災害は、どのような場合に業務上災害となるか(昭49.10.25基収2950号)

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地震に際して発生した災害は、どのような場合に業務上災害となるか(昭49.10.25基収2950号)

(問)
 地震に際し、当局管下S労働基準監督署管内のI半島南部に多数の被害が生じ、被災者総数714名のうち就業中の労働者18名が死傷しましたが、これが業務上外の取扱いについていささか疑義がありますので、下記により何分のご指示を願いたく禀伺いたします。

一 事務所が土砂崩壊により埋没したための災害
 被災者は、事務所内において就業中地震が発生し、事務所西側にある標高85米のH山の山腹が崩れ落ち、一瞬のうちに、事務所の建物がW地区の一部とともに崩壊した土砂に埋没しその下敷きとなり死亡した。
 なお、崩壊したH山は急傾斜の山で、岩盤上の表土は粘土の風化したもろい地層で、岩盤と表土の間に地下水が浸透し、粘着力が弱く不安定な状況であったところへ、地震によるキ裂が生じたため表土が崩壊したものである。

二 作業現場でブロック塀が倒れたための災害
 被災者は他の3名の労働者と共にM町O地先の道路上で仮設橋ならびに道路上の盛土をならす作業を行っていたところ地震が発生し、道路際の民家のブロック塀が倒壊し、たまたまその付近で作業中の被災者が下敷きとなり死亡した。
 なお、倒壊したブロック塀は築造後9年目であるが、石積とコンクリート土台間の鉄筋による補強がなかったため、他の塀は倒壊しなかったのに、当該塀のみが倒壊したものである。

三 選別作業場が倒壊したための災害
 被災者達は、柱とトタン屋根のみで囲いのない作業場において天草の選別作業をしていたが、地震に際し作業場が倒壊したため下敷きとなり負傷した。

四 岩石が落下し、売店が倒壊したための災害
 被災者は売店内において土産品の陳列棚を整理中に地震があり、売店の裏山の岩石や土砂が売店の上に落下したため建物が倒壊し、その下敷きとなり負傷した。

五 山腹に建設中の建物が土砂崩壊により倒壊したための災害
 被災者達は、保健所新築工事現場において作業中地震があり裏山が崩壊したため、建築中の建物が土砂に押されて倒壊し負傷した。

六 バス運転手の落石による災害
 被災者は、Z発D行定期路線バスを運転中、崖を切崩して拡幅した地点にさしかかったとき地震があり、右側の崖の上約80米から落下した約500瓩の岩石が運転台後部の屋上部に衝突したため、車輛は大破し、その際窓ガラスの破片を顔面にうけ負傷した。

七 建築現場の足場から転落した災害
 被災者は、民家の増築工事現場において2階の丸太足場の上でスジカイを入れる作業中に地震があり、丸太足場が激しく振動したため、足を滑らせ、約2米下の地面に転落、負傷した。

八 工場から屋外へ避難する際の災害
 被災者達は工場において旋盤作業中地震があり、建物全体が大きく揺れ、モルタルの壁土が落下し身体に当ったため危険を感じ、避難しようとして、Fは窓から飛び降り、Tは中二階から階下に飛び降りた際それぞれ負傷した。

九 避難の途中車庫内のバイクに衝突した災害
 被災者は温泉管工事に出掛けるべく準備中に地震があり、激しい揺れに危険を感じ、屋外に避難しようとして車庫においてあったバイクに衝突し、負傷した。

一〇 倉庫から屋外へ避難する際の災害
 被災者は、M町Aの倉庫で貨物の積込作業中に地震があり、驚いて避難しようと倉庫外へ出るとき足を踏み外し負傷した。


(答)
 本件については、いずれも貴見のとおり業務災害として取扱われたい。


(理 由)
一 労災保険における業務災害とは、労働者が事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験法則上認められる場合をいい、いわゆる天災地変による災害の場合にはたとえ業務遂行中に発生したものであっても、一般的に業務起因性は認められない。
 けだし、天災地変については不可抗力的に発生するものであって、その危険性については事業主の支配、管理下にあるか否かに関係なく等しくその危険があるといえ、個々の事業主に災害発生の責任を帰することは困難だからである。
 しかしながら、当該被災労働者の業務の性質や内容、作業条件や作業環境あるいは事業場施設の状況などからみて、かかる天災地変に際して災害を被りやすい事情にある場合には天災地変による災害の危険は同時に業務に伴う危険(又は事業主の支配下にあることに伴う危険)としての性質をも帯びていることとなる。
 したがって、天災地変に際して発生した災害も同時に災害を被りやすい業務上の事情(業務に伴う危険)があり、それが天災地変を契機として現実化したものと認められる場合に限り、かかる災害について業務起因性を認めることができるものである。前述の業務起因性の反証事由としての「天災地変による」の取扱いを、単に天災地変に際して発生したということのみをもって解し取扱うべきでないことはいうまでもない。
 一般に、天災地変に際しての災害については、家屋の倒壊や落石・土砂崩壊を直接原因として発生するものであり、この場合もともと家屋あるいは山等の四囲の状況が災害(倒壊、落石崩壊)を惹起せしめる危険な要因を有していたという場合において、たまたま生じた天災地変が契機となって家屋の倒壊あるいは山の崩壊を生ぜしめた場合は、前述の業務起因性の反証事由としての「天災地変による」というべきでなく、天災地変を契機として当該家屋等に内在した危険が現実化したとみるのが妥当である。
 したがって、かかる要因が存しないにもかかわらず災害が生じたという場合はもちろん、更にその天災地変が非常な強度を有していたためかかる要因の有無に関係なく、一般に災害を被ったという場合(たとえば関東大震災等による災害)には業務起因性が認められない。
 けだし、かかる大規模な天災地変の場合は事業主の支配・管理下の有無を問わず、一般的に災害を受ける危険性があり、業務上の事情が無かったとしても同じように天災地変によって被災したであろうと認められるからで、かかる場合の災害はその発生状況の如何を問わず全て業務起因性が認められないこととなる。

二 また、天災地変その他業務と関連する突発的事情によって臨機応変に行われる避難行為については、当該行為の合理性ないし必要性の有無を考慮し、その是非を判断する必要があり、一般的に業務行為中に事業場施設に危険な事態が生じた場合において当該労働者が業務行為の継続が困難と判断しその危難を避けるために、当該施設より避難するという行為は、合理的行為として認められるものである。
 したがって、かかる合理的行為(業務行為)を行うに際して被った災害は、一般的に業務起因性が認められるものであるが、当該災害の原因がもっぱら天災地変による場合、私的行為、恣意行為による場合には業務起因性が認められないことはいうまでもない。

三 ところで、本件の場合地震に際して発生した災害の業務起因性を検討すると、次の通りである。

(1) 事務所が土砂崩壊により埋没したための災害
 本件土砂崩壊には、地震だけでなく、当該N地区の特有な事情に基づき発生したもの、すなわち崩壊したH山は傾斜の山で岩盤上の表土は粘土の風化によってもろく、且つ長い間における岩盤と表土の間への地下水の浸透による粘着力の弱化による不安定な状況にあり、常に崩壊の危険を有していたため、かかる状況下にある当該事業場には崩壊による埋没という危険が内在していたものといえるので、それが地震とあいまって現実化したものと認められる。

(2) 作業現場でブロック塀が倒れたための災害
 屋外労働者にとっては自己の作業現場を取りまく四囲の状況が事業施設の状況といえるので、本件の場合は、当該施設(塀)の特有な事情(補強のための鉄筋が入ってなかった。)が地震とあいまって災害を発生せしめたものと認められる。

(3) 選別作業場が倒壊したための災害
 柱とトタン屋根のみで囲いもないという当該選別作業場の構造の脆弱性による危険が地震とあいまって現実化したものと認められる。

(4) 岩石が落下し、売店が倒壊したための災害
 急傾斜の崖下にある事業場に勤務する労働者には、常に落石等による災害を被る危険を有しており地震を契機としてその危険が現実化したものと認められる。

(5) 山腹に建設中の建物が土砂崩壊により倒壊したための災害
 本件については、山の中腹に建築するという現場の立地条件の劣悪さと未完成建築物の構造上の脆弱性による危険が、地震を契機として現実化したものと認められる。

(6) バス運転手の落石による災害
 崖下を通過する交通機関は常に落石等による災害を被る危険を有しており、地震を契機としてその危険が現実化したものと認められる。

(7) 建築現場の足場から転落した災害
 本件については、丸太足場上での作業そのものに伴う危険が地震を契機として現実化したものと認められる。

(8)、(9)及び(10)避難中の災害
 業務行為中に事業場施設に危険な事態が生じたため、業務行為の継続が困難と判断し、危険を避けるために当該施設外へ避難するという被災労働者らの行為は、単なる私的行為又は恣意行為と異なり合理的な行為、すなわち業務付随行為であり当該避難行為が私的行為、恣意行為と認められない限り、かかる避難行為中の災害については業務起因性が認められる。