社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



業務終了後、労働組合の執行委員として労使協議会に5時間以上出席して帰宅する途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2043号)

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労働組合の執行委員として労使協議会に5時間以上出席して帰宅する途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2043号)

(問)
 当局管内に下記事故が発生しましたが、これが通勤災害の認定上いささか疑義がありますので、何分のご指示を仰ぎたくりん伺いたします。

1 災害発生状況
 被災労働者S.Kは当日午後5時20分に所定の勤務を終え、午後6時より事業場内において開催された労使協議会に出席し、同協議会終了(午後11時20分ごろ)後、通勤に使用している50㏄原動機付自転車により通常の経路を帰宅途上、道路の「くぼみ」に前輪を落とし、転倒し右膝挫滅創、膝蓋靭帯損傷(全治4週間)等の負傷をしたものである。
2 労使協議会の性格
 (1) 労使協議会は、事業場と当該事業場の労働組合との間に締結されている労働協約にもとづいて、昭和47年8月以降設置されてきているものであり、定例的に月1回開催されているものである。その構成は事業場側より、常務取締役、総務部長、人事部長、人事部員が出席し、労働組合よりは、執行委員以上の役員が通常出席している。
 (2) 協議会の開催時刻は午後6時より行われているが、これは本社より約10㎞程の距離にある穂積工場に勤務する者の出席を考慮したものである。
 (3) 協議会の議案は、労働条件を含め、経営全般について労使の間において協議することが慣行として行われてきている。
 (4)労使協議会の運営規則等は設けられてはいないが、労働条件については団体交渉前の事前手続あるいは予備的なものとして運営されており、生産、経営に関する事項については、労使の協議関係として予定されているものと理解される。
 (5) 災害発生当日の協議事項は、別添の議事録<略>のとおりであり、賃金引上げを含め、経営の全般に関することが協議されたので、相当の長時間を要したものであることが認められる。
3 通勤災害として認定上の疑義
 当日の労使協議会は賃金の引上げを含め、生産、経営上の問題を含めた労使の話し合いが行われているので、その内容は事業の付随、延長行為ないしは、これに準ずるものであると認められる事項も多分にあるので、単に労働組合の役員としての行為のみであると認めることは、いささか狭きに失するのではないかと考えられる。したがって通勤災害として認定したいが疑義がある。


(答)
 通勤災害とは認められない。


(理 由)
 本件被災労働者は労働組合の執行委員として労使協議会に出席したことは、使用者との雇用契約の本旨に基づいて行う行為、すなわち、「業務」であるとはいえず、むしろ労働組合の役員としての職務で出席したものと解される。
 また、業務終了後、当該労使協議会等のために事業場施設内に滞留した時間(約6時間)も、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間であることから、当該帰宅行為が労災保険法第7条第2項の通勤とは認められない。
 したがって、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害には該当しない。