社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



帰路に着いた後、工事現場に引き返す際の事故は、通勤災害か(昭49.11.27基収2316号)

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帰路に着いた後、工事現場に引き返す際の事故は、通勤災害か(昭49.11.27基収2316号)

(問)
 被災労働者は、昭和49年3月10日よりK無線局舎新築工事の左官工事に従事していたが、同工事の最終作業日であった3月29日、同僚と2人で最後の仕上げ作業に従事していたところが、午後4時55分頃現場に来た事業主にダメ作業(手直し作業)を指示され、午後5時25分頃に同作業を終了した。仕事を終えて、各自、自分の車に荷物を積んで、午後5時30分頃帰途についたが、午後5時50分頃、次図×地点の十字路で、トラックと被災労働者の乗用車が衝突し、死亡したものである。
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災害発生当時、被災労働者の乗用車の進行方向は、自宅へ向かう方向ではなく、逆方向の工事現場へ引き返す方向であった。
 また、経路については、工事現場を出発後、途中で引き返したものと考えられ、被災労働者の自宅と工事現場との間の合理的な通勤経路であった。
 なお、被災労働者が死亡しているため、工事現場を出た後に、どういう目的で被害発生地点まで至ったのかは確証が得られなかった。


(答)
 通勤災害と認められる。


(理 由)
 本件の場合
① 災害当日は、当該工事現場の最終作業日であり、時間的に無理な工程による作業を行ったので、被災労働者は当該工事現場の責任者であることから、仕上りが気にかかっていたと推測できること。
② 被災労働者には、工事現場付近に知人や友人がいなかったこと。
③ 被災労働者は、せっかちな性格で、従前にもよく道具箱を置き忘れていたこと。
④ 被災労働者は、工事現場に向かう近道を進行中であって、工事現場の手前約400メートルの地点において被災していること。
⑤ 就業の場所を出てから災害発生までの時間が20分しか経過していないこと。などの諸事情を勘案した結果、被災労働者が退勤の途中から再び工事現場の方向に進行した行為については、当該行為が通勤行為の逸脱・中断であるとする積極的な事由が見いだせず、むしろ、工事のダメ作業の再手直しのため、もしくは、結果的には忘れ物は見当らなかったのであるが、被災労働者の性格がそそっかしく、よく工事道具等の忘れ物をしていたという事実から、就業又は通勤に必要な忘れ物を取りに、工事現場へ引き返したものと推測することが相当である。

 したがって、本件災害は、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害として取扱うのが妥当である。