社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



事業場所有地内の組合会館で行われた「旗びらき」に参加するため、業務終了後2時間程度とどまった帰りの事故は、通勤災害か(昭50.3.30基収2606号)

バナー
Kindle版 職場の出産・育児関係手続ガイドブック~令和の常識~
定価:800円で好評発売中!!


にほんブログ村
続き

事業場所有地内の組合会館で行われた「旗びらき」に参加するため、業務終了後2時間程度とどまった帰りの事故は、通勤災害か(昭50.3.30基収2606号)

(問)
1 被災労働者の通勤経路
 別添略図(1)のとおり自宅からK駅まで徒歩、同駅から汽車(国鉄)に乗りT駅で下車、徒歩で事業場まで往復する経路である。
2 災害発生の状況
 被災労働者は、当日午前8時00分~午後4時30分までの就業を終え、別添略図(1)のとおり事業場の向側に建設された労働組合会館において午後5時20分頃より開催された(予定時間午後5時~午後6時)労働組合主催の旗開きにN工場第一支部委員として他支部委員89名とともに参加し(当該労働者は午後4時50分頃に到着)、談合、飲食した後、午後6時10分頃中座し、T駅発6時39分、K駅着6時52分の汽車を利用し、下車後通常経路により帰宅中、対向車に接触負傷したものである。
3 参考事項
 イ 労働組合会館について
  ① 当会館は、産業道路(幅12m)開通により事業場と分離された向側にある事業場の所有地(別添(1))239.20㎡に同事業場、労働組合員の拠金により建設され、労働組合が管理している。

 ② 当該事業場では労務管理上、産業道路向側にある関連事業場へ行く場合、社用外出簿に用件を記載して外出するが、労働組合執行委員等の労働組合会館への用件の場合は自由としている。
 ③ 当会館と事業場は前記①のとおり、事業場所有地に分離して建設されているが、別添(2)<略>のとおり横断歩道で結ばれており、会館への用件は、横断歩道の通行を厳守している。
 ④ 当該事業場の警備については、事業場が委託した警備会社が行っているが、労働組合会館についても隣接して職員駐車場があり、あわせて警備している。

4 当局の意見
 本災害は当日業務終了後、労働組合主催の旗びらき等のため午後4時30分~6時10分まで約1時間40分参加し、合理的な経路を経由して帰宅途中受傷したものであるが、労働組合会館は事業場の所有地に建設されてはいるが、産業道路をへだてて向側にあり労働組合員の拠金により建設され、かつ、管理されているもので、事業場内の施設とは解せられなく、組合会館は合理的な経路上にあるが、旗びらきの目的で他支部(丸の内支部)の組合員も参加しており、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行なった、いわゆる「中断」後の災害であり通勤災害と認められないのが妥当と思料される。

5 疑義の点
 労働組合会館は産業道路の開通により事業場と分離された、向側に建設されたものであるが、事業場の所有地であり、広く事業場の一角に建設された施設内と解すれば、被災労働者についてはN工場の労働者であり、業務終了後職場で労働組合の会合に出席し、約1時間40分の時間でもあり、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められる程長時間にわたっていないものと思料され、いささか疑義がある。


(答)
 通勤災害と認められる。


(理 由)
1 本件の場合、従業員用の駐車場のある当該事業場所有地については、元来、本社工場と同一敷地内にあったものが産業道路ができたことによって二分されたものであり、また、現実に事業主による管理が行われているところから、本社工場と一体性を有する事業場施設といえ、業務の終了後、当該事業場施設内に存する労働組合会館の利用中はまだ「就業の場所」内にあるものと認められる。
2 次に、当該被災労働者が業務を終了した後、帰途につくため、就業の場所を出るまでの間、当該就業の場所内で費した時間(1時間40分)も社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失うと認められるほど長時間であるとも認められない。
3 したがって、本件は、就業との関連性に基づく退勤行為中に被災したことから、労災保険法第7条第1項第2号にいう通勤災害と認められる。