帰宅の際、自社が入居する雑居ビルの玄関口のガラスドアにぶつかって負傷した事故は、通勤災害か、業務上災害か(昭51.2.17基収2152号の2)
(問)
1 事案の概要
(1) 災害の発生状況
イ 被災労働者は、昭和48年12月26日、時間外勤務を終え、帰宅するためS工業㈱が入居しているビルを出ようとした際に、玄関のドア(全面透明ガラス)が開いているものと錯覚し、当該ドアに前額部をぶつけ、その際破損したガラスにより、同部を負傷したものである。
ロ 玄関等の照明は、入居事業場の従業員が必要に応じて自由に点滅できるようになっており、災害発生時には消灯してあった。
ハ 玄関口の面積は、約2㎡でやや狭い感じであり、床はコンクリート敷である。また、当該場所には40Wの蛍光灯がついている。
ニ 被災労働者は特に走ってきて、その勢いでドアに衝突したものではなく、通常の歩行で階段を降りてきたが、玄関の蛍光灯が消えて暗くなっているので外の明りを目安にしてきて、ドアが開いているものと錯覚を起こしてドアに衝突したものである。
(2) 当該共用ビルの一般的状況
イ ビルの名称 Hビル
ロ 室数 12室
ハ 建物の構造
鉄筋コンクリート3階建
ニ 各室の状況
各室には洗面所、湯沸所、便所などの各施設が設置されている。
ホ 共用施設の状況
建物の施設のうち、本件に直接関係のある共用施設としては、各室に至るまでの玄関、階段等の通路の部分及び当該部分に付設する電灯などの施設である。
ヘ その他
(イ) 共用施設(玄関、階段等)を使用する場合は、汚さず、騒音を出さず、かつ破損しないようにとの定め(慣習)があること。
(ロ) 不特定の者の出入りは少ないこと。
(ハ) 所有者は当該ビルには入居していないが、朝の開扉と夜の閉扉を行っていること。
(ニ) 当該事業場は、物品等の購入のため共用施設を使用していること。
2 問題点
(1) S工業㈱が入居しているビルには、数事業場がビル所有者から賃借し入居している、いわゆる雑居ビルで、S工業㈱は3階に入居している。
なお、共用費(共用電灯の料金等)はビル入居事業場が均等負担している。
(2) 災害の発生場所は、入居事業場の従業員等が一般に通行する玄関口であり、当該場所はS工業㈱の事業主の占有的施設管理権のない場所である。
3 当局の見解
本件災害については、通勤災害として認めるのを相当と考える。
すなわち、(1)本件災害は、S工業㈱の事業主の占有的施設管理権のない場所における被災労働者の退勤行為中に生じたものであること、(2)被災労働者の行為は、就業に関し、住居と就業の場所との間を、通常の経路及び方法によって行われたものと認められ、かつ、当該行為には、業務の性質を有するもの(帰宅する途中における業務行為)がないと認められること等の理由により通勤災害と認めるのが相当と考える。
(答)
通勤災害とは認められない。
(理 由)
1 本件ビルの共用部分(玄関、廊下、階段等)は、不特定多数の者の通行を予定しているものではなく、又、その維持管理費用が当該共用ビル入居事業場の均等負担であること及びその使用にあたっての了解事項等から判断すると、当該共用ビル所有者と入居事業場の各事業主等が、当該共用部分を共同管理しているものと解することが妥当である。
2 従って、本件玄関のドアは当該事業主の施設管理下にあるもの(就業の場所)と認めることが妥当である。
3 以上のことから、本件災害は事業主の支配下における災害であって、労災保険法第7条第2項の住居と就業の場所との間の災害には該当しない。
※恐らく、業務災害にあたると判断されたものと思われる。