社会保険労務士川口正倫のブログ

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【産前産後休業】東朋学園事件(最一小判平15.12.4労判862号14頁)

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東朋学園事件(最一小判平15.12.4労判862号14頁)

1.事件の概要

Xは、学校法人Yに、期間の定めのない労働契約で事務員として勤務していた。Xは、平成6年7月8日に出産し、翌9日から同年9月2日までの8週間、産後休業を取得した。その後、Xは、学校法人Yの育児休職規程に基づいて勤務時間の短縮を請求し、同年10月6日から翌年7月8日までの間、1日につき1時間15分の勤務時間短縮措置を受けた。
Xは、平成6年の夏季賞与および期末賞与について、賞与の支給に関する回覧文書に基づき、産前産後の休業期間が欠勤として扱われたため、給与規程において賞与の支給について90%以上の出勤を要件とする条項(以下、「本件90%条項」)に基づき、支給がなされなかった。また、平成7年度の夏季賞与についても、勤務時間短縮措置に基づく短縮時間分が欠勤日数に加算されて90%の出勤率要件を満たさないことから、支給がなされなかった。回覧文書は、給与規程に基づき作成されたもので、そこには、賞与の算定方法として欠勤日数に応じた減額が定められていると同時に、欠勤日数の算定方法についても定められていた。
これに対して、Xは、産前産後休業や勤務時間短縮措置による短縮時間分を欠勤に算入することは、労働基準法や育児・介護休業法の趣旨に反し違反であるとして、賞与の支給を求めて、学校法人Yを提訴した。一審はXの請求を認め、二審も一審の判断を支持したため、学校法人Yが上告したのが本件である。

2.判決の要旨

産前産後休業を取得し、または勤務時間の短縮措置を受けた労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、当該不就労期間を出勤として取り扱うかどうかは原則として労使間の合意にゆだねられているというべきである。
従業員の出勤率の低下防止等の観点から、出勤率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととするのは、一応の経済的合理性を有するのである。本件90%条項は、産前産後休業(労働基準法65条)や育児・介護休業法23条(現在の条項)を受けて定められた勤務時間の短縮措置を請求しうる法的利益に基づく不就労を含めて出勤率を算定するものであるから、これらの法規定の趣旨に照らすと、これにより上記権利等の行使を抑制し、ひいては労動基準法等が権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められる場合にかぎり、公序に反するものとして無効となる。
本件90%条項は、これらの権利等の行使に対する事実上の抑止力は相当強いとみるのが相当である。そうすると、本件90%条項のうち、出勤すべき日数に産前産業休業の日数を算入し、出勤した日数に産前産後休業の日数および勤務時間短縮措置による短時間分を含めないものとしている部分は、公序に反し無効であるというべきである。
賞与の計算式の適用にあたっては、産前産後休業の日数および勤務時間短縮措置による短縮時間分は、回覧文書の定めるところに従って欠勤として減額の対象となるというべきである。

3.補足

本件90%条項により、賞与を一切支給しないことは違法であることに違いはないが、原判決では、産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による短縮時間分を賞与の計算式の適用にあたって、減額することも違法としていたが、本件ではその部分については修正され、違法とはされなかった。

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