社会保険労務士川口正倫のブログ

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【有給休暇】八千代交通事件(最一小判平25.6.6労判1075号21頁)

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八千代交通事件(最一小判平25.6.6労判1075号21頁)

参照法条  : 労働基準法39条、労働基準法3条、民法709条
裁判年月日 : 2013年6月6日
裁判所名  : 最高一小
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成23(受)2183

1.事件の概要

Xは、タクシー乗務員兼特命事項担当の社員として勤務していた、一般乗用旅客自動車運送事業等を営むY社より解雇され、2年余にわたり就労を拒まれ、解雇無効、労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定した。
復職後、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかったところ、労働基準法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして5日分の賃金が支払われなかったため、Xは、Y社に対して、年次有給休暇権を有することの確認、未払賃金の支払い等を求めて提訴した。第一審、第二審ともにXの請求を認容したため、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の概要

Y社の論旨は、使用者の責めに帰すべき事由により就労することができなかった日は労働基準法39条1項及び2項にいう全労働日に含まれないと解すべきであり、本件解雇の日から解雇訴訟の判決が確定するまでの期間(平成19年5月16日から同21年8月17日まで。以下「本件係争期間」という。)は全労働日から除くべきであってこれを出勤日数に算入する余地はなく、請求の前年度(本件では平成20年7月21日から同21年7月20日まで)における全労働日が0日となるXは上記年度において同条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしていないから、本件係争期間中の労働日を全労働日に含めた上でその全部を出勤日として取り扱い被上告人は上記成立要件を満たしているとした原審の判断には法令の解釈の誤りがあるなどというものである。
労働基準法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。
無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、労働基準法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。*1
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、XはY社から無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたために本件係争期間中就労することができなかったものであるから、本件係争期間は、労働基準法39条2項における出勤率の算定に当たっては、請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。
したがって、Xは、請求の前年度において同項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているものということができる。

*1:出勤率の計算で、分母にも分子にも算入されるという意味