社会保険労務士川口正倫のブログ

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【普通解雇】ヒロセ事件(東京地判平14.10.22労判838号15頁)

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ヒロセ事件(東京地判平14.10.22労判838号15頁)

参照法条   : 労働基準法89条3号、民法1条3項
裁判年月日 : 2002年10月22日
裁判所名   : 東京地
裁判形式   : 判決
事件番号   : 平成13年 (ワ) 24688 
裁判結果   : 請求棄却(確定)
出典      : 労働判例838号15頁/労経速報1818号18頁

1.事件概要

Xは、各種電気機械器具の製造及び販売などを業とするY社に、海外重要顧客である訴外A社での勤務歴等に着目して業務上必要な日英の語学力、品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断されて、品質管理部海外顧客担当で主事一級という待遇で中途採用された。
Xは、入社4か月後に、上司への誹謗、業務命令違反、基本的、専門的知識、能力の欠如、職場規律違反等を理由に、就業規則の規定に基づき解雇されました。
これに対し、Xが、Yに、従業員としての確認を求めて提訴したのが本件である。

2.判決の要旨

Xの職歴、特に海外重要顧客である訴外A社での勤務歴に着目し、業務上必要な日英の語学力、品質管理能力を備えた即戦力となる人材と判断して品質管理部海外顧客担当で主事1級という待遇で採用し、Xもそのことを理解して雇用されていることから、長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、Y社が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、適正がない場合に全く異なる部署に配転を検討する場合ではない。労働者が雇用時に予定された能力を全く有さず、これを改善しようとしないような場合は解雇せざるを得ないのであって、就業規則の規定もこのような趣旨をいうものと解するのが相当である。
Xの業務遂行態度・能力について見るに、Xは、実はA社ではさしたる勤務経歴を有さず品質管理に関する知識や能力が不足していた。また、Xの作成した英文の報告書にはいずれも自社や相手先の名称、クレーム内容、業界用語など到底許容しがたい重大な誤記・誤訳や英語の読解力があれば一見して明らかであるものを含め多数の誤記・誤訳があり、期待した英語能力にも大きな問題があり、日本語能力についても、Xが日本語でY社に提出する文書を妻に作成させながら、自己の日本語能力が不十分であることを申し出ず、かえって、その点の指摘に反論するなど、客観的にはY社にXの日本語能力を過大に評価させていたことから、当初、履歴書等で想定されたのとは全く異なり極めて低いものであった。さらには、英文報告書は上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に違反し、上司の指導に反抗するなど勤務態度も不良であった。このような点からするとXの業務遂行態度・能力は上記条項に該当するものと認められる。
「Xは、訴外B社のクレーム処理の英文報告書の誤記、誤訳について、「Y社が見直す暇もないほど急がせたために生じたミスである。」と述べるが、当時、Xは一見して明らかな誤訳を見直す時間もないほど多忙ではなく、また、仮にXにその主張のような英語の読解力があるならば、Xが供述するとおり翻訳ソフトで翻訳しただけで全く見直しをしなかったということになり、仕事に対する誠意を著しく欠くものとしてやはり上記条項に該当するといわなければならない。
これらの点の改善努力については、本採用の許否を決定するに際し、日本語能力や他からの指導を受け入れる態度、すなわち協調性に問題があるとされ、Xにおいて改善努力をするという約束の下に本採用されたのであるから、上司の指摘を謙虚に受け止めて努力しない限りY社としては雇用を継続できない筋合いのものであった。しかるに、本採用後、Xが日本語能力等の改善の努力をした形跡はなく、かえって、その後さらに英語力や品質管理能力にも問題があることが判明したにもかかわらず、Xの態度は、訴外C副参事から正当な指導・助言を受けたのに対し、筋違いの反発をし、品質管理に関する知識や能力が不足しているにもかかわらず、ごくわずかの期間にすぎないA社での経験や能力を誇大に強調し、「上司の承認を得る」という手続を踏まずに報告書を提出するという業務命令違反をし、さらには、訴外D部長ら上司からの改善を求める指導に対し自己の過誤を認めず却って上司を非難するなど、Xはその態度を一層悪化させており、XはY社からの改善要求を許否する態度を明確にしたといえるから、これらの点の改善努力は期待できず、上記条項に該当するものと認められる。
Xには「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り将来の見込みがない」というべきであり、就業規則に定める解雇事由に該当する。
就業規則の定める解雇事由に該当する事実がある場合でも、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、解雇権の濫用として無効になると解するのが相当である。
しかし、Xが指摘する事情には、すべて理由がないうえ、Xは重要な経歴(特にA社の在職期間)を詐称しており(Xは、「履歴書/職務経歴書」はXの妻がXから具体的内容の指示を受けずに作成し、Xはその内容を確認しないまま提出したと供述するが、仮にそうだとするとXは正確な内容の履歴書を提出しようという意欲すらないといえる。)、本件解雇が入社後4か月半程度でされたものであることからすると、本件解雇は、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとは到底いえない。


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