社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



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【雇止め】リンゲージ事件(東京地判平23.11.8労判1044号71頁)

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リンゲージ事件(東京地判平23.11.8労判1044号71頁)

1.事件の概要

Xは、平成10年12月に、訴外A社に契約期間1年の英会話教室の外国人講師として採用され、契約を8回更新した。平成19年7月、A社は分社したY社に語学事業本部に係る営業を全部譲渡した、A社の講師等も全員Y社に引き継がれた。その後、Xは、Y社との間で契約を1回更新した。
ところが、平成19年8月に別の外国人講師の雇止め事件が発生したことから、それまで休眠状態にあった労働組合支部が復活し、同年9月24日、Xが支部執行委員長に就任した。
そのような中、同年9月11日、Y社語学事業本部長の指示により、語学教室各校を統括する主任より各校の管理者に宛てて、組合員について、どんな小さなことでも気になる行動は報告することを求める内容の電子メールが発信され、Xがレッスン中に女生徒に自分の腹部を触らせたなどの情報が寄せられた。そこで、Y社はXに対し、同年10月30日、警告書を交付してXに署名を求めたが、Xがこれを拒否したところ、Y社は同年11月5日、Xを同年12月15日付で雇止めにした。
これに対して、XがY社に従業員としての地位確認等を請求したのが本件である。

2.判決の要旨

Xは、平成10年12月にA社に雇用された後、本件雇止めを受けるまで10年間にわたり、A社ないしY社の経営する語学学校の外国人講師として雇用されてきたこと、その間、A社とは8回、Y社とは1回の契約更新を経ていること、平成11年以降、本件雇止めまでの間、A社ないしY社において、最初の契約が更新されたにもかかわらず2回目以降の契約の更新がされずに雇止めとなった外国人講師は、東京ではX以外にいなかったことがそれぞれ認めらたことから、Xにおいて本件契約が更新されると期待することには合理性があったと認められるから、本件雇止めについては、解雇権濫用法理が類推適用されるものと解するのが相当である。
この点、Y社は、A社とY社とが別法人であることを強調するが、A社からY社への営業譲渡は語学事業本部の営業全部の譲渡であって、当時、A社に雇用されていた語学事業本部所属の講師や職員は、すべてY社が来よう契約を承継し・・・(中略)、外国人講師については契約期間もA社時代の残存期間を引き継ぐ取り扱いとしたこと・・・(中略)、A社からY社に営業譲渡された前後で、語学学校におけるXら外国人講師の業務に格別の変更があったとは認められず、契約更新時の対応も当該営業譲渡の前後で格別の差異は認められないこと・・・(中略)等の事情に照らせば、単に契約主体がA社からY社に変わったことのみをもって、Xの雇用継続に対する上記期待が合理性を失うとは考え難いと言うべきである。
本件雇止めは、組合員のみをターゲットにした情報収集によって得られたネガティブ情報に基づいて行われたものであり、当該情報収集がなければ、本件雇止め自体が存在しなかったという関係にあるものと認められるから、本件雇止めについては、厳格な意味で不当労働行為に該当するかはともかく、Xが本件組合の組合員であったことに起因して課せられた不利益であると評価せざるを得ず、そうであるとすれば、本件雇止めは、社会的に相当なものであるとは認め難いから、無効と言うほかはない。

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