社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【雇止め】エヌ・ティ・ティ・コムチャオ事件(大阪地判平22.9.29労判1038号27頁)

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エヌ・ティ・ティ・コムチャオ事件(大阪地判平22.9.29労判1038号27頁)

1.事件の概要

Xは、労働者派遣業や電気通信サービスに関する販売受託等を行っているY社で、フリーダイヤルやナビダイヤル等の営業業務に従事していた。XとY社との労働契約は、平成21年4月1日締結され、雇用期間を平成21年4月1日から同年9月30日であったが、Y社は、平成22年2月に同年3月末日をもって雇止めする旨が記載された退職予告通知書をXに交付し、同年3月31日に雇止めとした。なお、Y社は、Xに対して、契約更新としなかったのは、「SFA投入(個々の営業マンが顧客の訪問日時、滞在時間、コミュニケーションの状況等を訪問後速やかにシステムに入力すること)の基本行動について、繰り返し指導したにも関わらず、長期において放置し、指導に従わなかったこと、実際の勤務状況に反する業務報告がなされていること等、当社の組織運営上不適切な行動が散見されたため。」という事情にある旨記載のある雇止理由説明書を交付している。
これに対して、Xが、労働契約上の地位確認等を求めたのが本件である。

2.判決の要旨

・・・(中略)Y社は、Xとの間で本件労働契約を締結したのち、1回、労働契約を更新し、同更新時に、事前に原告に対して更新意思の確認をしている上、更新後の雇用契約書も取り交わしている。しかし、Xが従事していた業務内容は、訴外A社の商品であるフリーダイヤルやナビダイヤルの営業で恒常的な業務であって、Y社自身もX採用時に、Xの関西以前での業務経験を踏まえて採用していること、X自身も労働契約が更新されるとの認識を持っていたこと、同更新時取り交わした契約書のうち、X保持分については作成日付も抜け、Xの記名捺印もなく厳格になされたことが窺えない。以上の事実を踏まえると、Xは、本件雇止め当時、同労働契約が更新されるとの合理的期待を有していたことが推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、Xに対する雇止めは解雇権濫用法理が類推適用されるとするのが相当である。
Y社は、Xに対する本件雇止めについて解雇権濫用法理が類推適用されるとしても、同雇止めにはSFAの未投入、個人行動計画表の未提出、旅費の不正請求・受領、勤務成績等が芳しくないなどの事情からして合理性があり、有効である旨を主張する。
確かに、Xには・・・(中略)Y社から指導を受けていたのに平成21年9月から同年12月中旬までに3か月半、SFAの投入をしていない上、同月25日、訴外B部長らの面接を受け、その中で注意され、また、X自身速やかに同未投入期間の情報を投入する旨約束したのに平成22年2月23日の時点でも平成21年10月分の投入ができていなかった。また、平成21年12月9日、同月10日、同月16日顧客を訪問していないのに訪問した旨虚偽報告をして旅費の不正請求、受領をしている。
しかし、Xの職務は営業職であったところ、平成21年度の個人成績(達成率&実績額ランキング)は全国のSA183人中の92位であり、C営業部の中でも23人中10位と特段問題がある成績ではなかった。・・・(中略)Xの職務の中心である営業活動それ自体については問題がなく、顧客であるD社のマネージャーからは、お願いしたことをちゃんとやっていただいているし、私が知識不足なのでわかりやすく教えてもらっている旨一応の評価を受けている。
また、Y社が主張する顧客先への訪問の虚偽報告及び旅費の不正請求であるが、主要な部分のD社とE社の関係は・・・(中略)虚偽報告及び不正請求とは認めがたい。ところで、上記平成21年12月9日、同月10日、同月16日の分の旅費の不正受領額は合計で2,190円である。そして、Xは、SFAの未投入ではB部長等から指導等は受けているが、Y社から処分までは受けていない。
以上の事実を踏まえると、Xに対して一定の責任を問う余地は十分あるが、本件雇止めが正当化されるまでの事由があるか、疑問といわざるを得ず、その他、同雇止めを正当化させるに足る事由があると認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件雇止めは、濫用があり無効といわざるを得ない。

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