社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



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【雇止め】明石書店事件(東京地決平22.7.30労判1014号83頁)

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明石書店事件(東京地決平22.7.30労判1014号83頁)

1.事件の概要

Xは、本の出版・販売等を業とするY社に、有期雇用の契約社員として勤務していた。Y社では、従業員は使用時は全員有期雇用(多くは6か月)の契約社員として採用され、その後、雇用期間1年の雇用契約を更新するなり正社員化するという雇用管理が行われていた。Xは、平成19年10月9日、契約期間を平成20年4月30日までとする有期雇用契約を締結してY社に採用され、その後、2回の契約更新をした(2回目以降の契約期間は1年)。
平成20年3月末、Y社が別の契約社員を雇止めにしたことから労使紛争となり、同年7月、Xを含むY社の従業員22名は労働組合支部を結成して、Xがその副支部長に就任した。一方、Y社は、同年11月頃、今後の契約社員の取扱いについて、概ね3年を目処に正社員化できない者ついては雇止めとし(方針A)、同時点で既に契約期間が3年を経過している者は正社員化を進めて行く(方針B)旨決定し、同年12月、訴外組合員Dの契約更新に関し、不更新条項の入った契約書を示したが、D及び組合がこれを拒否したので、Y社は同月末日付けでDを雇止めした(その後、Dは会社に対して地位確認等の訴えを提起し、平成21年12月21日、これを認容する判決が出された)。
平成21年3月31日、Y社はXに対し、「本労働契約期間終了時(平成22年4月30日)をもって、その後の新たな労働契約を結ばず、本契約は終了する」との条項(不更新条項)を入れた労働契約の締結を申し込んだ。Xは、同年4月22日、Y社常務取締役訴外Fに一人で面談し、本件不更新条項を保留にして本件労働契約の更新ができないかと尋ねたが、F常務がこれを断ったところ、XはY社の提示した条件で契約締結を了解すると回答し、その場で契約書が作成された。
平成22年1月、組合は会社にXの契約更新を求めたが、Y社は不更新条項を根拠にこれを拒否したため、XがY社での従業員としての地位保全等仮処分を求めたのが本件である。

2.決定の要旨

少なくとも従前においては、Y社の社内においては、機関の定めのある労働契約を締結していた契約社員には、更新の合理的な期待があると評価できることは明らかであり、そうであるからこそ、Y社は、方針Aと方針Bを定めたのである。このような状況下で、労働契約の当事者間で、不更新条項のある労働契約を締結するという一事により、直ちに上記の判例法理の適用が排除されるというのでは、上述の期間の定めの有無による大きな不均衡を解消しようとした判例法理の趣旨が没却されることになるし、・・・(中略)Xは、Dが、本件不更新条項と同趣旨の条項の入った労働契約の署名、押印を拒否したことにより、直ちにY社によって雇止めになり、裁判による解決をすることを余儀なくされたという状況下で、労働者としての立場では、Xは不本意ながら、本件不更新条項による本件労働契約の締結をせざるを得ない状況にあったと認められることから、結局、本件不更新条項は、期間の定めのある労働契約を解雇権濫用法理の類推適用にあたって、本件不更新条項を付したことが、権利濫用の適用に当たって、評価障害事実として総合考慮の一内容として考慮の対象になるものと解するのが相当である。


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