社会保険労務士川口正倫のブログ

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【退職】学校法人白頭学院事件(大阪地判平9.8.29労判725号40頁)

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学校法人白頭学院事件(大阪地判平9.8.29労判725号40頁)

参照法条  : 労働基準法89条1項9号、民法1条3項、民法96条
裁判年月日 : 1997年8月29日
裁判所名  : 大阪地
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成8年 (ワ) 1027 
裁判結果  : 認容,一部棄却(控訴)

1.事件の概要

Xは、学校法人Yの運営する中学校及び高校において、体育教員として勤務していた。Xは、平成6年8月から平成7年5月にかけて、生徒の母親訴外Aと情交関係(なお、Xには妻子があった。)となっていたが、平成7年12月14日、Aの元夫訴外Bからこれを理由に暴行を受けるとともに、BはXに対し、携帯電話で校長に電話して学校法人Yを辞めるよう強迫したので、Xは、やむなく電話により、校長に対して学校法人Yを退職する旨告げた。同月20日、Xは、校長の勧奨を受け、退職願を書いて校長に手渡した。校長は、Yの任免及び懲戒権者で理事長に電話してこれを報告し、理事長の了承を得た。一方、Xは、帰宅後に退職を取りやめようと考え、校長に電話し退職願を撤回する旨伝えたが撤回が認められなかったため、Xが学校法人Yに対して、退職の無効と従業員としての地位確認を求めたのが本件である。

2.判決の概要

平成7年12月14日の合意解約申込による合意解約の成否については、Xは、平成7年12月12日、Bの強度かつ執拗な強迫によって、畏怖を抱き、その畏怖によって、退職する旨の意思表示をなしたが、平成8年6月6日、右意思表示を取り消す旨の意思表示をし、右意思表示は翌七日に学校法人Yに到達しており、右強迫による退職の意思表示は取り消されたものと認められるので、Xの合意解約が成立した旨の主張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
平成7年12月20日の合意解約の成否については、Xは、校長に対して退職願を提出しており、Xは、学校法人Yに対しこれにより雇用契約の合意解約の申込をしたものと認めることができる。これに対し、Xは、校長に退職願を預けただけであり、合意解約の申込に該当しない旨主張するが、X本人によれば、Xは、真に退職する意思を有していたことが認められ、Xの右主張は採用できない。
労働者による雇用契約の合意解約の申込は、これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である。なお、学校法人Yの引用する最判昭和62年9月18日労判509号6頁は、対話者間で承諾の意思表示のなされた事案と考えられ、隔地者間で承諾の意思表示のなされた本件とは事案を異にするものである。
Xは、合意解約の申込から約二時間後にこれを撤回したものであって、学校法人Yに不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情が存在することは窺われず、Xは、理事長による承諾の意思表示がXに到達する前に、合意解約の申込を有効に撤回したものと認められるので、学校法人Yの合意解約が成立した旨の主張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

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