社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【懲戒解雇】国・気象衛星センター事件(大阪地判平21.5.25労判991号101頁)

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国・気象衛星センター事件(大阪地判平21.5.25労判991号101頁)

1.事件の概要

Xは、国家公務員としてYセンターで技術専門官として勤務していた。Xは、オペラサークルの声楽の指導者らに誘われ、平成13年10月頃からキリスト教の協会に通うようになり、平成14年3月に洗礼を受け、その後同僚で付き合いのあったAらに対し、教会に来ないと身を滅ぼす等のメールを送るなどしてキリスト教への勧誘を執拗に行うようになった。Aらはこれを止めさせるべく話合いの機会を持ったり、止めるよう強く言ったりしたところ、Xはその都度謝罪するものの、また宗教勧誘行為を繰り返していたため、Aらとの関係が険悪となった。
その後、Xは、平成16年8月21日にYセンターで開催する広報行事の実行委員となり、同月19日まで講演会の準備をしていたが、翌20日、当日の勤務を休む旨連絡した後、Yセンターに何ら連絡することなく、同日から同年10月27日まで出勤しなくなり、合計46日間無断欠勤した。Yセンターは、同年10月28日付けでXに対し、国家公務員法82条1項を適用して本件懲戒免職処分(本件処分)を行ったが、Xの所在が不明だったため、通知に代えて同年11月5日の官報公告がなされた。Xは無断欠勤中、国内を転々としたり、イタリア旅行に出かけて行方不明になったりし、同年12月11日に帰国した。
その後Xは、平成17年4月27日、原告は初めて精神科を受診し、統合失調症と診断された。同年5月11日から8月11日まで、原告は精神保健福祉法に基づく医療保護入院をしたところ、専門医は、Xは平成14年にキリスト教に入信した頃から妄想型統合失調症を発症していると診断した。
Xが、本件処分を不服として人事院に対し審査請求をしたところ、人事院は本件処分を承認する旨の審決を行った。これに対してXが、同決定を不服として、本件処分の取消を求めたのが本件である。

2.判決の概要

Xの無断欠勤は、統合失調症の罹患を契機とするものである。また、Xに対する本件処分ないし無断欠勤時におけるXの上司のXの異常に対する認識であるが、少なくともそれ以前にAら同僚らがXに対して精神科ないしカウンセリングへの受診を勧めていたこと、同異常状況を踏まえてAらがXの上司に相談し、宗教の勧誘等を止めるよう働きかけていたこと、Xの無断欠勤がそれまでの行動との間で連続性が認め難いことを踏まえると、Yセンターは無断欠勤がXの自由意思に基づくことについて、疑いを抱くことは十分可能であったことが強く窺われる。
ところで、国家公務員に対する懲戒免職処分が同公務員としての地位を剥奪する強力な処分であり、しかも退職金が支払われない等不利益の程度が著しいところ、Xの無断欠勤の原因とともに当時のXの上司の認識ないし認識の可能性を踏まえると、Xに対する本件処分は、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱し、濫用したものと言わざるを得ない。そうすると、Xに対する本件処分は取り消されるべきものである。


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