大隈鐡工所事件(最三小昭和62.9.18労判504号6頁)
参照法条 : 労働基準法2章
民法524条
体系項目 : 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 : 1987年9月18日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和57年 (オ) 327
1.事件の概要
人事部長の退職届の受領をもって、雇用契約の解約申込みに対する承諾の意思表示とみることができるかが争点となった事案。原審(大隈鐡工所事件・名古屋高裁昭和56.11.30判時1045号130頁)は、人事部長による退職届の受理は、意思表示の受諾にすぎないと判断し、申込みの撤回を認めた。
2.判決の概要
被上告人の退職願の承認に当たり人事部長の意思のみによって上告人の意思が形成されたと解することはできないとした原判決には、採証法則違背ないし審理不尽の結果、証拠に基づかない判断をした違法がある。
部長に被上告人の退職願に対する退職承認の決定権があるならば、原審の確定した前期事実関係のもとにおいては・・(中略)・・部長が被上告人の退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対する上告人の即時承認の意思表示がされたものというべく、これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。
3.解説
労働者からの退職の意思表示は法的には、辞職の意思表示と合意解約の申込みの意思表示の2つが考えられます。
・辞職の意思表示とは
労働者からの労働契約の解約であり、期間の定めのない労働契約の場合には2週間前の予告のみが必要とされ(民法627条1項)、期間の定めのある労働契約の場合はやむを得ない事由が必要となります。
辞職は単独行為で、その意思表示が使用者に到達すれば効力が発生するので、それ以降は撤回が不可能となります。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条
1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(やむを得ない事由による雇用の解除)
第628条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
・合意解約の申込みとは
特に法律上の規定はありませんが、単独行為ではなく解約の申込みですので、使用者が承諾の意思表示をすれば、労働契約は解消されることになります。合意解約の場合は、①本人の申込み、②会社が受領、③会社が承諾、というステップを踏むことになり、②の段階で本人は申込みを撤回することが可能と解されています。
本件においては、使用者側の誰に承諾権限があるかが問題となりましたが、人事部長に退職承諾の決定権限があり、人事部長の即時承諾により合意解約が成立したと判断されました。
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