社会保険労務士川口正倫のブログ

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【配転】ノースウエスト航空事件(東京高判平20.3.27労判959号18頁)

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ノースウエスト航空事件(東京高判平20.3.27労判959号18頁)

参照法条 : 民法1条、民法709条、民法710条、民法623条、労働基準法92条
裁判年月日 : 2008年3月27日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)2785

1.事件の概要

X1~X5(以下、「Xら」という。)は、Y社(本社・米国ミネソタ州)でフライト・アテンダント(以下、「FA」という。)として勤務していたが、平成15年3月1日付けで地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた(以下、「本件配転命令」という。 )ため、Xらは、Y社に対して、FAの地位にあることの確認等を求めて提訴した。一審は、採用の際、職種をFAに限定する合意は存在せず、当該命令当時航空会社の経営状況は極めて悪化しており、経営改善のため様々な施策が実施されていたこと等からすれば配転命令を回避すべき努力義務があったとはいえず、団体交渉等においても十分説明義務が果たされていたとして、権利濫用には当たらず、不当労働行為にも当たらないとしたところ、Xらが控訴したのが本件である。
なお、平成14年4月、Xらの属する支社組合とY社の間で、「第3項 客室乗務員である全組合員については,資質,適性,執務能力がある限り,客室乗務員としての職位を失うことがないように努力する 」という条項のある労使確認書(以下、「本件労使確認書」という。)を締結していた。

2.判決の要旨

本件配置転換によりXらの受け取る基本給には変動がない(なお、控訴人X4に限っては基本給が増額された。)が、地上職では得られないFA特有の収入であるインセンティブ・ペイ、深夜乗務手当、免税販売手数料、宅配サービス手数料を得ることができなくなり、インセンティブ・ペイを含むそれらの手当は概ね月間数万円であり、無視できない経済的不利益を受けたものである。
また、本件配置転換により、Xらは誇りを持って精勤してきたFAの仕事から外されて精神的な苦痛を受けたもので、特に、本件労使確認書により平成14年10月にFAに復帰したのに、その約5か月後に再び配置転換されたX2、X4の精神的苦痛は大きい。本件労使確認書は労働協約であり、その第3項はFAの職位確保に関する努力義務を定めたものであり、労働協約の当事者の信義則からも、同第2項の規定からも被控訴人は、努力義務を果たすための努力の状況、努力義務の対象事項が達成できない場合にはその理由を具体的に説明する義務がある。
本件配転命令によって、Y社がXらとの関係で、本件労使確認書第3項の努力義務を達成できなくなった原因は、本件労使確認書締結のころから、日本人FA、QIFSRが乗務する便数が増えたのに、それ以上にQIFSRが乗務する便数を急増させ、QIFSRの人員も増やす一方でFAの乗務する便を減らしたことにあり、Y社の行為は、努力義務の対象となる事項を達成することの障害となる事実を自ら作出し、その後もその状態を積極的に維持したもので、本件労使確認書第3項の努力義務に反するものであった。 また、Y社は、支社組合から、Y社の今回の一連の対応は本件労使確認書の条項に抵触するものであるとの指摘を受けたにもかかわらず、本件配転命令の決定にあたり、平成14年4月9日にY社日本地区人事・労務本部長と支社組合中央執行委員長との間で本件労使確認書を取り交わしたこと(本件配転命令によりFAから地上職勤務に配転になることが問題とされたX2、X4が、平成13年8月20日強制配転を受け、その後本件労使確認書を取り交わしたことに基づき平成14年10月3日にFAに復帰したという経緯がある。)を、本件配転命令を控える方向で勘案されるべき要素として考慮することはなく、また、本件配転命令の決定、実施にあたり、本件労使確認書の条項(第3項の職位確保の努力義務)を考慮して、具体的な努力をしたと評価できることをしたとは認められない。この点も本件労使確認書第3項の努力義務に違反するもので、Y社の以上のような態度は、労働協約を締結した当事者間の信義則に違反するものといえる。 本件労使確認書は、被控訴人の経営不振が続く中で締結されたものであるのに、それから11か月後、X2、X4の復職からわずか5か月後に本件配転命令がされたことも労働協約を締結した当事者間の信義則に違反するものといえる。
次に、Y社が本件配転命令を行うまでに取った手続が充分なものかについて考えるに、Y社が本件配転命令の問題をXらFAに対し明らかしてからそれが実施されるまでの間に3週間強の時間しかなく、更に、Xら5名を含むFAからすれば、Y社から提示された長期会社都合休職制度を利用した場合、期間終了後、FAとしての職場復帰が可能か否か当初不明であり、早期希望退職制度と長期会社都合休職制度の申請締切り期限が3日間延期されたといっても、制度の重要な部分が不明であり、重要な問題である自己の職務に関する選択、決断をするには余りにも時間が短かかった。
以上のようなことなど、本件配転命令実施に際し行われた団体交渉、文書による説明において、被控訴人の控訴人らを含むFA、支社組合に対する交渉態度は、誠実性に欠けると評価することができる。 そうすると、Y社は、就業規則第20条及び平成14年度労働協約書第1部第38条に基づき、業務上の必要に応じ、その裁量によりXらの個別的同意を得ずに業務内容の変更を伴う配転を命じる権限を有することを十分に参酌しても、以上のような本件の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、被控訴人の有する配転を命じる権限を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきであり、Y社が行った本件配転命令は、権利の濫用に当たり無効である
以上のような事実を総合すると、Y社の行った本件配転命令は控訴人らとの関係で、本件労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する。

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