社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【普通解雇】エース損害事件(東京地決平13.8.10労判820号74頁)

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エース損害事件(東京地決平13.8.10労判820号74頁)

1.事件の概要

X1とX2(以下「Xら」という)は、損害保険会社であるY社で勤務していた。Xらは、平成12年8月31日、同年9月14日までに自主退職を勧告され、退職しない場合は、就業規則の「労働能力が著しく低くY社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして解雇する旨通知され、同日付で自宅待機命令を以後2週間ごとに13回繰り返され、平成12年9月1日から翌年3月16日まで自宅待機とされ、職場への立入りを禁止された。
これに対して、XらがY社に従業員としての地位保全等の仮処分を申し立てたのが本件である。

2.判決の概要

就業規則上の普通解雇事由がある場合でも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合は、当該解雇の意思表示は権利の濫用として無効となる。特に、長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。
なお、Y社には、作業効率が低いにもかかわらず高給であるXらの存在がY社の活性化を阻害し、あるいは業績が低いのに報酬が高いこと自体がY社に損害を与えているから、XらをY社から排除しなければならないという判断が存するようであるが、仮にXらがその作業効率等が低いにもかかわらず高給であるとしても、Y社らとの合意により給与を引き下げるとか、合理的な給与体系を導入することによってその是正を図るというなら格別、自ら高給を支給してきたY社がXらに対しその作業効率が低い割りに給料を上げすぎたという理由で解雇することは、他国のことはいざ知らず、我が国においては許容されないものというべきである。
Y社の一方的な合理化策の結果、不適切な部署に配置されたXらは、そのため能力を充分に発揮するについて当初から障害を抱え、かつY社に対し多大な不安や不信感を抱かざるを得なかったのであるから、この点において既に労働者に宥恕すべき事情が存する。しかも、それだけではなく、そのような中でさらに、X1については、支店長から繰り返し些細な出来事を取り上げて侮辱的な言辞で非難され、また退職を強要され、恐怖感から落ち着いて仕事のできる状況ではなかったのであるから、このような状況下で生じたことを捉えて解雇事由とすることは甚だしく不適切で是認できない。また、X2についても、人員を実質半分以下とし、正社員は2名とも配置換えされ、訴外A取締役すら不安をもった状況で、あえて上記のとおり不適切な配置をするなどしたのであるから、その中で生じた過誤等はむしろY社の人事の不適切に起因するものというべきで、X2の責任のみに帰することは相当ではない。さらには、Y社は当初からXらを他の適切な部署に配置する意思はなく、また、研修や適切な指導を行うことなく、早い段階から組織から排除することを意図して、任意に退職しなければ解雇するとして退職を迫りつつ長期にわたり自宅待機とした。
以上の点にY社が解雇事由と主張する事実がさして重大なものではないことを考え併せると、仮に、これが解雇事由に該当するとしても、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。

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