社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【懲戒解雇】日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平24.4.27労判1055号5頁)

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日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平24.4.27労判1055号5頁)

1.事件の概要

Xは、システムエンジニアとしてY社に勤務していたが、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を有していた。そのため、自らの業務に支障が生じており自己に関する情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、Y社に事実調査を依頼した。
Xは、その調査につき納得できる結果が得られず、Y社に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめY社に伝えた上で、有給休暇をすべて取得した後、欠勤届を出さずに約40日間欠勤した。
そのため、Y社は就業規則(欠勤多くして、正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき)に該当することを理由に、諭旨退職処分とした。
これに対して、Xが、諭旨解雇処分が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を請求したのが本件である。

2.判決の概要

このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、Y社は、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(Y社の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあった。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、Xの出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。
そうすると、以上のような事情の下においては、Xの上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず、上記欠勤が懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は、就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効であるというべきである。


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