社会保険労務士川口正倫のブログ

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日新製鋼事件(最二小判平成2.11.26民集44巻8号1085頁)

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日新製鋼事件(最二小判平成2.11.26民集44巻8号1085頁)

1.事件の概要

 

訴外Zは、Y社に在職中、同社の住宅財形融資規程に則り、同社から87万円を、A銀行から263万円をそれぞれ借り入れた。各借入金のうち、Y社への返済については、住宅財形融資規程およびY社とZとの間の住宅資金貸付に関する契約証書の定めに基づき、Y社がZの毎月の給与および年2回の賞与から所定の元利金等分割返済額を控除するという方法で処理することとされ、Zが退職するときには、退職金その他より融資残金の全額を直ちに返済する旨約されていた。
ZがY社に退職を申し出たため、Y社は、Zに支払われるべき退職金と給与から各借入金を控除し、Zの口座に振り込み、また、Y社の担当者の求めに応じ、Zは事務処理上の必要から領収書等に異議なく署名捺印した。
その後、Zの申立により、裁判所は破産宣告をし、Xを破産管財人に選任した。そこで、Xは、Y社がZの退職金につき、以上のような措置をとったことは、労働基準法24条に違反する相殺措置であるとして、Y社に対して退職金の支払いを請求した。

2.判決の概要

 

労働基準法24条1項所定の賃金全額払の原則の趣旨するところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に資金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨を抱合するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である。もっとも、右全額払の原則の趣旨にかんがみると、右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならないことはいうまでもないところである。

3.解説

労働者の同意を得てする相殺については、労働者の自由な意思に基づく同意の場合には、賃金債権の放棄(シンガー・ソーイング・メシーン事件 最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)と同様に、労働基準法24条違反にならないと最高裁が示した判例。ただし、自由な意思に基づく同意か否かの判断は、厳格かつ慎重に行われなければならいないことはいうまでもないと付言された。
なお、理論的には、労働者の同意があっても使用者の法違反は成立するのが、罰則がある労働基準法24条1項の強行法規としての帰結であり、過半数代表者等による事業場協定があって初めて例外が認められることから、この判例には批判がある。

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