ソニー(早期割増退職金)事件(東京地判平14.4.9労判829号56頁)
参照法条 : 労働基準法89条3号の2、労働基準法89条9号、民法96条1項
裁判年月日 : 2002年4月9日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成12年 (ワ) 16174
裁判結果 : 棄却(控訴)
1.事件の概要
Xは、ビデオ機器の製造等を業とするY社で、係長として勤務していた。XはY社に在籍したまま訴外A団体に正式に入社し、Y社・A団体の双方に二重在籍していることは知らせないまま、約一か月ほどの間、有給休暇の取得を工夫し、二重就労の形態で勤務し、勤務記録を不正に入力するなどしていた。その後、過去にも実施歴のある早期割増退職制度(支援内容は自己都合退職金プラス特別加算、対象者は、勤続10年以上で、セカンドキャリアを目指し、Y社が適用を認めた従業員で職制に応じた年齢制限が設定、適用除外の規定もある)の適用を申請し、退職願についても承諾された。なお、Xは退職願を二度提出しているが、これはY社とA団体の要望により二重就業状態を速やかに解消するよう要望を受け、そのため退職日を繰り上げるために再度提出したものである。
ところがY社は、Xが他社に入社した事実があったことの報告がなかったことを理由に本件制度の適用を認めないこととし、Xには自己都合退職金しか支払わなかった。そこでXが、Y社に対し、本件制度に基づく特別加算金を請求したほか、二回目の退職の意思表示は強迫に基づくものであり無効である等として、一回目の退職願に記載された退職日を基に計算した賞与や給与の支払等を請求したのが本件である。
2.判決の概要
本件制度は、転職や独立を支援するため、通常の自己都合退職金に加え、特別加算金を支給することを主な内容とするものであるところ、従業員がその適用を申請し、Y社が適用を認めることが要件とされているうえ、一定の場合には適用が除外されている。そうすると、Y社が本件制度を社内に通知したことは、申込みの誘引であると解され、Xが主張するように、社内への通知が契約の申込みであり、Xからの申出が承諾であると解することはできない。
一方で、本件制度は、Y社が適用を認めることが要件とされているが、適用除外事由が具体的に規定されていることや、本件制度の申請は早期の退職という重要な意思決定を伴うものであることからすると、恣意的な運用が許容されるべきではないから、その適用を申請した者に本件制度の適用を認めないことが信義に反する特段の事情がある場合には、Y社は信義則上、承認を拒否することができないと解するのが相当である。
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