社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



更正会社三井埠頭事件(東京高判平成12.12.27労判809号82頁)

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更正会社三井埠頭事件(東京高判平成12.12.27労判809号82頁)

1.事件の概要

Y社は、平成10年4月30日、額面総額3億4000万円の約束手形の不渡りを出し、これを知った荷主らが一斉に寄託貨物を倉庫から引き上げる等の混乱が生じ、当時の経営陣は、会社経営の方針を検討し、管理従業員に対して、説明を行う場を何度か持った。同年5月13日、Y社の経営陣は、管理職全員を招集し、管理職の賃金を20%カットすることなどを伝えたが、出席者の意思確認をとることはなかったが、管理職であったXら3名の5月分以降の給与は20%減額して支払われた。Xらは平成11年3月31日に希望退職により退職した。そこで、Xらは、平成10年5月~平成11年3月までの給与の減額分を未払賃金として請求した。

2.判決の概要

 労働基準法24条1項本文はいわゆる賃金全額払の原則を定めているところ、これは使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る趣旨に出たものであると解されるから、就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らし、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効であると解すべきである

3.解説

 賃金額について、就業規則を通じて減額する場合、その変更が合理的である限り許されるが(労働契約法10条)、就業規則労働協約による定めがない場合には、個別的な合意により賃金額を変更することができる(労働契約法8条)。しかし、そのような合意については、労働者による賃金債権の放棄(シンガー・ソーイング・メシーン事件 最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)、労働者の同意を得てする相殺(日新製鋼事件 最二小判平成2.11.26民集44巻8号1085頁)と同様に、労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り認められるとの見解を、下級審ながら示した判例

 

 

労働契約法8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
 
労働契約法10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
労働基準法第24条  
  1. 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

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